ドワーフ族との関係
木々が鬱蒼と重なり、太陽の日差しも届かないような薄暗い森。
ここにドワーフ族の隠れ里があるという。
「ブリーゼはよく、ドワーフ族の里に商品を売りにきているの?」
「さほど頻繁ではないな。もともとエルフ族とドワーフ族も、仲はよくないゆえ」
なんでもかつて風の里を住処とするエルフ族と、その傍にあった森に住むドワーフ族の間で争いがあったらしい。
「ドワーフ族の森にエルフ達が分け入り、猟をしていたようなんだ。それで、うっかり当時の若頭がドワーフ族の縄張りに入ってしまって、ひと悶着起こしてしまったようだ」
おおよそ四百年ほど前の話だという。
「もともと森の周辺を風の里とし、先にあの地で暮らしていたのはエルフ族だったんだ。ドワーフ族はあとからやってきた癖に、自分の縄張りだと主張し、勝手に住み着いていた」
ドワーフ族は自分達も古くからその土地に住んでいると言いだし、エルフ族側の主張をまったく聞かなかったという。
「たかが三百年しか生きることができないくせに、エルフ族と張り合うなんて愚かだ――と当時の族長は話していた」
エルフ族の寿命は千年以上。当時を知るエルフ族は大勢いるという。
森を追いだされたドワーフ族は新天地を見つけたようだが、その地はリンブルフ辺境伯家が治めるエリアと被ってしまった。
そのあと、ドワーフ族はリンブルフ辺境伯と争い、再度その地を離れることとなったのだろう。
「ドワーフ族は頑固なんだけれど、二回も住処を追いだされたと聞いたら、気の毒になってしまうよね」
「まあ、共生の道を認めないあいつらが悪いところもあるがな」
エルフ族とドワーフ族の関係は、現在そこまで悪くないという。
「とは言っても、そのように考えているのは、四百年前の争いを知らない若者ばかりだけなのだが」
ブリーゼ様もドワーフ族の若者衆とだけ取引をしているようだ。
「えーっと、だったらさ、そもそも交渉とか、その、ドワーフ族はしてくれるのかな?」
「さあ、どうだろうか?」
ブリーゼ様に取り持ってもらうようにハルトヴィヒ様は考えていたようだ。けれどもその目論みも、エルフ族とドワーフ族の関係を聞いたら期待が持てなくなったらしい。
「うわああああ、どうしよう! 絶対、年寄り衆に追いだされるパターンじゃん!」
「まだわからないではないか」
「いやいや、わかるよ! 絶対に交渉すらさせてもらえないって!」
「弱気な男だ」
「今はなんとでも言ってよ。絶対の絶対に、俺が言っていた通りになるから」
なんて話をしていたら、まーちゃんがハッと反応し叫んだ。
『魔物がいるかも!!』
そう言った次の瞬間、木から大量の蜘蛛が糸を伝って下りてくる。
二匹や三匹どころではない。十匹以上の群れだった。
ブリーゼ様が叫ぶ。
「シルク・スパイダーだ!」
その名の通り純白の蜘蛛だが、糸を紡いで人を捕らえて子どもの養分にすると聞いたことがある。
私の目の前に現れたシルク・スパイダーの糸を、まーちゃんが鋭い爪で切り裂く。
地面に落ちたシルク・スパイダーを、まーちゃんは続けて太い尻尾をしならせて叩く。
動かなくなったシルク・スパイダーを、魔石工房を使って魔石化させる。
「自動吸収!」
シルク・スパイダーが魔石工房の箱の中に吸い込まれていく。蓋を閉めたあと、続けて魔石化の呪文を唱えた。
「形成!」
一瞬にして、シルク・スパイダーは魔石と化した。
石に糸をくるくる巻き付けたような、変わった形状をした魔石となった。あとで鑑定魔法を使って調べてみなければ。
息つく間もなく、シルク・スパイダーが目の前に現れる。
まーちゃんは少し離れたところにいるので、攻撃が間に合わない。
急いで呪文を唱える。
「自動吸収!」
シルク・スパイダーは魔石工房の箱に吸い込まれそうになったものの、寸前のところで糸を伝って逃げてしまった。
「ああ!」
あと少しだったのに。
逃げた先で、シルク・スパイダーは風の刃に切り裂かれて絶命した。
ブリーゼ様の放った攻撃魔法のようだ。
「アウレリア、大丈夫か?」
「はい、ありがとうございます!」
息絶えたシルク・スパイダーの亡骸を、自動吸収させて魔石化させる。
先ほど完成した物より、一回り以上小さな魔石となった。
その後も、ハルトヴィヒ様やブリーゼ様が倒したシルク・スパイダーを魔石化させていく。
途中、まーちゃんが気絶させたシルク・スパイダーも、同じように魔石にしていった。
結果、十個の魔石を得るのと同時に、絹糸を三巻きほど、素材として得ることとなった。
「ああ、驚いた。アウレリア、ケガはない?」
「はい、わたくしは平気です」
「よかった」
戦闘後はホッと胸を撫で下ろす暇もなく、さらなる魔物の襲撃に遭う。
魔石を鑑定している暇なんてなかった。




