出発!
ドワーフ族の里を目指すさい、私は足手まといになるのではないか。そう思った。
けれどもハルトヴィヒ様は「そんなことないよ」と言ってくれた。
それだけではなく「何かあれば、命に替えてでも絶対に守るから」とも誓ってくれたのだ。
そこまで言ってくれたハルトヴィヒ様の枷になりたくないから、なるべく動きやすい格好で行こう。
髪はきっちりまとめ、ドレスは乗馬用の動きやすいものを選ぶ。
靴も乗馬のさいに着用する、踵が低い長靴に決めた。
まーちゃんも準備に気合いが入っている。
レニに対して『まーちゃん、ちょっと冒険してくるね』と真剣な表情で話し、リボンも邪魔になるかもしれないから取るようにお願いしていた。
「レニさん、不在中、ルカさんとミカさんのことを頼みますね」
「承知しました」
ルカエルとミカエルの仕事に対する情熱は収まっていないようで、今はおいしい紅茶の修行をしているという。
レニにはそんな二人の監督と指導をお願いしておいた。
魔法の鞄にも、荷物を詰める。
着替えや化粧品、クッキーやチョコレート、ショートブレットなどの非常食、魔物避けの聖水に、包帯や消毒液などの応急処置グッズも忘れずに。
準備が整うと、レニの見送りを受けつつ、エントランスを目指す。
「それではレニさん、行ってきますね」
『お留守番、お願いねえ』
「承知しました。ここはお任せください」
エントランスにはすでに、ハルトヴィヒ様とブリーゼ様の姿があった。
「お待たせしました」
「大丈夫、今きたところだから」
ハルトヴィヒ様は鎧にマントを合わせた姿でいた。これが戦いに挑むスタイルらしい。
ドワーフ族の里の周囲にある森は魔物の生息地だというので、このような格好で行くことにしたようだ。
「アウレリアにはこれを」
ハルトヴィヒ様がそう言って私の左手の薬指に、真っ赤なルビーがあしらわれた銀の指輪を嵌めてくれた。
「婚約指輪として用意していたんだ」
「まあ、きれい……!」
なんでも守護の魔法が刻まれているらしく、ありとあらゆる災難を防ぐ効果があるという。
「結婚式もまだなのに、こんなことに付き合わせてしまって」
「いいえ、ドワーフ族に交渉を持ちかけようと言いだしたのは、わたくしのほうですので」
私にも同じように、言いだした責任があるのだ。
「苦楽をともにする、よき夫婦になりそうだ!」
ブリーゼ様はそんなふうに言ってくれる。
『まーちゃんもいるから、大丈夫!』
「な、なんだこの、巨大なカワウソは!?」
『まーちゃんだよお』
「ま、まーちゃん?」
「ブリーゼ様、まーちゃんはわたくしと契約している妖精族なんです」
『そうなの!』
まーちゃんは気配がなかったようで、ブリーゼ様を驚かせてしまったらしい。
「お前は妖精族とも縁故を繋いでいたのか」
「偶然、ですね」
『運命なのかも!』
「う、うむ、そうだな」
と、ここでお喋りしている場合ではなかった。
そろそろ出発しなければ。
アンドリュースさんやアンナマリアさん、ルカエルにミカエルも見送りにやってきてくれた。
「どうか気をつけて」
「ご無事を祈っております」
「お土産、楽しみにしているわ!」
「もちろん、お土産はケガなく戻ってくることだからね!」
「わかった。行ってくるよ」
ワイバーンでリンブルフ辺境伯家の屋敷を飛び立つこととなった。
◇◇◇
ワイバーンは広大な大地の上空を優美に飛ぶ。
ブリーゼ様は大鷲妖精と契約しているようで、先導するように前を飛んでいた。
「少し早いかな。ブリーゼにもう少しゆっくり飛ぶように言う?」
「いいえ、平気です」
頬に触れる風がキンと冷たく、ときにナイフの刃先を当てられているように感じる。
けれども我慢できないほどでもない。
リンブルフ辺境伯領へやってくるときは、比較的ゆっくり丁寧に飛行してくれていたのだな、と気付かされた。
私のためを思い、進行してくれたハルトヴィヒ様に感謝したのは言うまでもない。
休憩を挟むことなく、三十分ほど飛行を続けた先に、ドワーフ族の居場所である森に到着したのだった。




