アーティファクト
ハルトヴィヒ様はリンブルフ辺境伯領内の地図を広げた。
ブリーゼ様はそれをのぞき込み、ただ一点を指差す。
「この辺りがドワーフ族の村が隠れている場所だ」
「わあ、やっぱりこの辺りかあ」
なんでもその辺りは魔物が多く蔓延る生息地で、迷路のように生える木々があることから、迷いの森と呼ばれていたらしい。
「おそらくドワーフ族は誰も近づけないであろう土地を利用し、自らの里を作ったのだろう」
発明を得意とする器用なドワーフ族にとって、魔物避けや隠れ里を作ることは容易いことだったのだろう。
「ワイバーンで近づくことは可能だけれど、問題はドワーフ族の里を見つけられるかどうかだねえ」
「心配するな。私が責任を持って、ドワーフ族の里まで案内するがゆえ」
「え、いいの!?」
「もちろんだ。これから貴重な神々の遺物を見せてもらうのだ。これくらいはしないと」
そういうふうに言われると、責任を感じてしまう。
父を疑うわけではないが、本当に神々の遺物なのだろうか、と今更ながらに不安にもなった。
魔法の鞄に手を伸ばした手が震えていた。
その手をハルトヴィヒ様が握ってくれる。
「アウレリア、大丈夫。自慢の神々の遺物をブリーゼに見せてあげて」
「はい」
ハルトヴィヒ様の手の温もりを感じていたら、自然と震えは収まった。
ブリーゼ様は期待の眼差しを向けていた。
早くお披露目しなければ。
魔法の鞄から魔石工房を取りだし、テーブルの上に置いた。
「おお……これは、神々の遺物だ! 間違いない、本物だ!」
神々の遺物に間違いないと言われ、内心ホッと胸を撫で下ろす。
同時に、少しでも疑ってしまったことに対して、心の中で父に謝罪したのだった。
「この世の奇跡だ……! 本当にすばらしい!」
これまで落ち着いた態度を見せていたブリーゼ様が、少年のように瞳を輝かせている。
アルテンブルク侯爵家に伝わる神々の遺物が、素晴らしい品だということを改めて実感したのだった。
「触っても……いいや、触れていい物ではない」
「どうぞ、お手に取ってください」
「いいのか?」
「はい」
ブリーゼ様は感謝の言葉を口にすると、手袋を取りだしてしっかり嵌める。
「では、失礼する」
慎重な手つきで魔石工房を手に取り、じっと眺める。
「ああ、本当にすばらしい品だ……! 五百年以上生きて、このような品に会えるとは、まだまだ人生わからないものだな」
魔石ができる工程を見てみたいというので、作ってみることにした。
「これは何を使って魔石とするのか?」
「定義についてはよくわかっていないのですが、基本的にこの世に存在するありとあらゆる物だと考えております」
「本当か?」
「本当だよ。アウレリアは一度、魔物の魔石化に成功しているんだ」
「魔物の魔石化だと!?」
このようにブリーゼ様が驚いたのには理由があるという。
なんでも魔物の命とも呼ばれている核は、高密度の魔力の結晶である。
けれども汚染された状態であり、再利用はできないという研究結果が出ていた。
「核を魔石として使えるのであれば、多くの人々に魔石を行き渡らせることができるだろう」
「そうなんだ」
魔物の核は命を落としても消滅せず、放置していたら魔物の糧となり、さらに個体を強化させてしまう。
煮ても焼いても汚染を取り除くことができず、最終的に聖水の中に沈めて汚染を封じ、土を深く掘って埋めるという方法でしか処理できなかったらしい。
「核の処理に教会も手を焼いているという話を聞いている。教会に集められる核を横流ししてもらえば、大儲けできそうだ」
さすが、商人である。核から魔石を作る話から、商売に結びつけるなんて。
「まあでも、しばらくは慎重にいきたいよね」
この世に唯一無二であるという魔石工房について国の上層部が把握したら、悪用される可能性もある。
また、国益のために献上するように言われるかもしれない。
ハルトヴィヒ様の言うとおり、しばらくは他言無用でいてもらおう。
「まあ、そうだな。そのほうがいいかもしれない」
これまで人々の無益な争いを、ブリーゼ様は目にしてきたという。
「リンブルフ辺境伯領という過酷な地を、戦場になんてさせるものか」
「ブリーゼ、ありがとう」
「当たり前だ。この地は私の故郷でもあるからな」
最初に名乗った風の里というのは、出身地を表す言葉だったらしい。
その風の里は、リンブルフ辺境伯領のどこかに存在しているようだ。
「いい品だ。今後も大切にするように」
「はい、リンブルフ辺境伯家の宝物として、大事に扱います」
話はドワーフの里探しに戻る。
「出発は早いほうがいいだろう?」
「そうだね」
「ならば、すぐに出発しようではないか!」
無事、話はまとまって、ドワーフ族の里探しに出かけることとなった。




