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妹が「ずるい!」と言うので、二度目の人生は大公と結婚するのを諦めて辺境伯に嫁ぎます  作者: 江本マシメサ
第一章 アウレリア、一度目の人生

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3/20

アウレリアの結婚生活

 それからもいろいろあった。

 数年かけて制作した婚礼衣装や宝飾品をカーリンに奪われたり、私の肖像画を描くはずがいつの間にかカーリンに代わっていたり、私が計画したお茶会をカーリンに乗っ取られたり。

 そんな日々も終わりを迎える。

 先にカーリンがリンブルフ辺境伯のもとへ嫁いでいったのだ。

 盛大な結婚式を挙げるから、と彼女は宣言していたものの、その後招待状が届くこともなく……。

 私が送った結婚式の招待状は返信すらなかった。


 ようやく、私が家を出る番となった。

 その頃になると父はまったく起き上がれなくなり、結婚式への参加は不可能となる。

 継母が父不在の結婚式に参加するわけもなく、私は一人で挑むこととなった。

 夫となる男性オリヴァー様は、片手で数える程度しか顔を合わせていない。

  こうして顔を合わせるのは三年ぶりか。

 見目麗しく成長したその姿は、王都いちの美丈夫とも噂されていた。

 今日から彼が私の夫となる。

 愛のない結婚だが、貴族の婚礼ではそれが普通。

 一時期、貴族女性の間で結婚式の日に政略結婚した夫から、「お前を愛するつもりはない」なんて宣言されたのに、最終的には溺愛される恋物語が流行った。

 現実は物語のようにはいかない。

 相手も愛なんて欠片もない結婚だとしっかりわかっているので、愛することはない、という宣言すらされないのだ。

 それからオリヴァー様との間にまともに会話などなく、初夜の儀式が執り行われる。

 辛く苦しい時間でもあったが、なんとか耐えた。

 オリヴァー様は義務を果たすかのごとく淡々と進め、最後は私に言葉をかけることもなく去って行く。

 静かな夜――夜空にぽっかりと浮かぶ月を見上げた。

 別に寂しくなんかない。

 私の人生は、いつだってそうだったから。

 まだカーリンがいないだけマシである。

 もう私のものを奪う者はいないのだ。

 そういうふうに考えると、心が少しだけ軽くなった気がした。


 ◇◇◇


 結婚してから一年が経った。

 夫婦の務めは週に一度行われているものの、懐妊の兆しはない。

 魔法で診断を行う医者にもかかったが、私は健康そのもの。子どもを産める体だという。

 今度は夫を連れてくるように勧められたものの、「妊娠できない原因があなたにあるかもしれないから、一度病院で検査してほしい」なんて言えるわけもなく……。

 親族から子どもがまだか、まだかと一方的に責められる日が続いた。

 オリヴァー様との間に、会話らしい会話はなかった。

 顔を合わせる日はあったものの、業務連絡のように日々の務めを報告するばかり。

 一度だけ、オリヴァー様から話しかけられたことがあった。

 ただそれは晩餐会を終えたあと、私に対して「お前は堅苦しい女だ」なんて言われただけだった。

 このときはショックだとは思わなかった。

 けれどものちのちその言葉は、薔薇のトゲが刺さったときのように、じくじく胸が痛んでくる。

 以降、オリヴァー様の態度は冷たくなり、明らかに私を軽んじるような挙動を見せるようになったのだ。

 その影響か、この頃から、オリヴァー様の従妹であるセルフィ様やアンナマリア様からの嫌がらせが始まった。

 晩餐会に遅刻するような時間を開始時間として告げられたり、お茶会で謂われのない悪評を広められたり、アンナマリア様が紛失した宝飾品を盗んだ犯人に仕立てられそうになったり……。

 世継ぎを生まないどころか、妊娠すらできない私は軽んじていい相手だと思われていたのだろう。

 カーリンに何もかも奪われ、我が儘放題言われていた私は、どこか感覚が鈍っていたのか。

 彼女らの嫌がらせを夫に報告することもなく、耐え続けていたのだ。

 それがよくなかったのだろう。

 最悪な事件が起きてしまった。

 結婚二年目の春――ようやく第一子を妊娠した。

 安定期がくる前に私はセルフィ様のメイドから階段で背中を押され、落下してしまったのだ。

 腹部を強打し、流産してしまった。

 夫は私の不注意と思ったらしく、深く失望したようだった。

 セルフィ様のメイドに背中を押されたのだ、と訴えることもできた。

 けれどもそれを言っても、お腹の子が帰ってくるわけでもない。

 再び私はひとりぼっちになる。

 月夜を見上げながら、生まれて初めて寂しいと涙してしまった。


 それでも夫が私を完全に見限らなかったのは、ブランデンブルグ大公家の妻としての勤めをきちんと果たしていたからだろう。

 女主人として屋敷を守り、異国からの貴賓を丁重にもてなし、王女殿下の名代として夜会に参加することもあった。

 どの場面でも恥を掻くことなく、務めあげることができたのは、父の厳しい教育のたまものだろう。

 学んだ知識が、教養が、私という存在の自信になっていたのだ。

 あとは子どもを産めばいいだけ。

 わかっていたけれど、それは簡単なものではなく……。


 結婚から三年、二度目の懐妊の機会はなかなか訪れなかった。

 流産してしまった日、もっと周囲を警戒していたら。

 いくら悔いても亡くした子どもは帰ってこない。

 わかっていたが、やるせない気持ちが募り、涙となって溢れて止まらなかった。


 しかしながら、二度目の奇跡が起こった。

 再度、子どもを妊娠したのである。

 喜びで胸が張り裂けそうだった。

 次こそは、絶対にこの子を守ってみせる。

 そんな覚悟のもと、私はある決断をした。

 それは子どもが生まれるまで実家で療養する、というものだった。

 ブランデンブルグ大公家の屋敷には、私を流産させようと狙う者が出てくるに違いない。

 それならば、実家にいたほうが安全だ。

 夫に理由を告げることなく、実家で療養したいと訴えると、あっさり許可してくれた。

 すぐに私は実家に戻ったのだが、変わり果てた屋敷の状態に驚くこととなった。 

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