初めて迎える晩
王都から持ってきたリボンやブローチ、イヤリングは私がかつて使っていた品々である。
これらは使用人へ贈る物として持ってきた。
私物の下げ渡しは、使用人との関係を深めることにおいて重要なやりとりだ。
使用人は自らの手足となって働いてくれる、味方でもある。
きちんと掌握することが重要なのだ。
こういうやりとりは、その第一歩となる。
私物の整理をしていたら、いつの間にか起きたまーちゃんが覗き込んできた。
『わあ、きれいだねえ』
「まーちゃんも、つけてみますか?」
『いいのお?』
「ええ、もちろん」
幅が広いリボンをまーちゃんの首に巻いて結んであげる。
すると、ドレッサーのほうへ行って鏡を覗き込んでいた。
『まーちゃん、かわいい?』
「ええ、かわいいですよ」
『やったー!』
無邪気なまーちゃんの様子に、心が癒やされる。
彼女と出会えてよかった、と心から思ったのだった。
夜は晩餐会が開かれた。
叔父一家が総出で参加してくれたものの、ハルトヴィヒ様の姿はない。
なんでも領地の北部に魔物の群れが出現したという報告が出たため、討伐に向かってしまったらしい。
アンナマリアさんがため息交じりで謝罪してくれた。
「ごめんなさいね、せっかくここに来たばかりだというのに」
それに対し、ルカエルとミカエルが厳しい言葉を返す。
「ハルトヴィヒお兄様は、三日も領地をあけていたのよ!」
「その間、領民は危機にさらされていたんだから!」
「そうだけれど、ねえ」
「どうかお気になさらず。わたくしはここで、ハルトヴィヒ様の 無事を祈り、帰ってくるのを待つのが務めですから」
「まあまあ、なんて健気なのでしょう。ねえ、あなた」
「本当に。いい娘さんが嫁いできてくれて、とても嬉しいよ」
私の言動を目の当たりにしたルカエルとミカエルは、退屈そうな目で見ていた。
ふてくれさるところでも見たかったのだろうか。
彼女らの期待に応えることができなかったようである。
ここでレニがやってくる。
私があげたベルベットのリボンで髪を結んでいた。
気に入ってくれたようで、何よりである。
なんて考えていたら、ルカエルとミカエルがレニのリボンに食いついた。
「ねえあなた、そのリボン、どうしたのよ!?」
「この辺りではみかけない、珍しい色と仕立てをしているわ!!」
一瞬すれ違っただけで気付くなんて、かなり目ざとい。
レニは小首を傾げていたが、二人が揃って「リボン!!」と訴えると、「ああ」と答える。
「こちらはアウレリア様からいただいた、お近づきの印です」
「私、そんなの貰っていないわ!」
「私も!」
使用人に下げ渡すためのリボンである。彼女らに行き渡るわけがない。
どう言葉を返そうか迷っていたら、アンドリュースさんが物申してくれる。
「ルカにミカ、アウレリアさんに対して生意気な態度を取っている癖に、一人前に物をねだるなんてみっともないぞ」
アンドリュースさんの言葉に対し、ルカエルとミカエルは頬をぷくっと膨らませる。
その反応がかわいらしくて、くすっと笑ってしまった。
「何を笑っているのよ!」
「そうよ!」
「ごめんなさい。なんだかかわいくて」
ルカエルとミカエルは顔を見合わせ、「かわいって言われた!」、「嘘!」と言い合う。
やはり、カーリンと比べてしまうのだが、我が儘度合いがぜんぜん違う。かわいいものだと思ってしまうのだ。
できれば仲よくなりたい。そう思って話しかけてみた。
「ルカさん、ミカさん、わたくし、王都からいろいろリボンを持ってきたんです。あとで一緒に見ませんか?」
「え、いいの?」
「見たい!」
頬を紅潮させ、二人は乗り気な様子を見せてくれる。
「アウレリアさん、お疲れではないのですか?」
「今晩はゆっくり休んだほうがいいと思うのだが」
「いいえ、ぜんぜん平気です」
王都からワイバーンを操縦し、そのあと魔物退治に出かけたハルトヴィヒ様に比べたら、私の疲労などなんてことないレベルだ。
「では、お風呂に入ったあと、お部屋で待っていますね」
「わかった!」
「急いでお風呂入るから!」
その後、入浴の時間となる。
お風呂のお湯はわざわざ井戸からレニとメイト達が運んできて、薪を使って沸かしてくれたらしい。
魔法の水道が通っていたら、大変な思いをしなくてもすぐにお湯が張れるのに、と思ってしまう。
けれどもこれが、ここでの日常なのだろう。
感謝しつつ入浴する。
薔薇が浮かんだお風呂にじっくり浸かると、疲れが溶けて流れるようだった。
「ふーーーー」
今晩、ハルトヴィヒ様は帰らないだろう、とアンドリュースさんが話していた。
心配で寝不足になる、なんてことがないようにしなければ。
どっしり構えて、彼の帰りを待たなければ。
入浴が上がると、レニが薔薇の香油を髪に揉み込んでくれた。
ここでは毎年、春と秋の年に二回、薔薇を使って香油や精油を作っているという。
「こちらは朝採れの新鮮な秋薔薇を使った香油になります」
「いい香りですね」
「庭師に伝えておきます」
レニはクールな様子で言葉を返すものの、先ほどよりも態度が柔らかくなっているような気がした。
入浴後、しばらく待っているとルカエルとミカエルがやってきた。




