お屋敷の人々
ミルクティー色の髪を縦ロールにし、二つに結んだ双子の美少女姉妹である。
片方は深紅のドレス、もう片方は深緑のドレスをまとい、それがとても似合っていた。
「私はルカ」
「私はミカ」
年は十三歳、と一度目の人生でカーリンが話していたような。意地悪をされたとも。
意地悪かどうかはわからないが、値踏みするようにじっとり見られていた。
「ハルトヴィヒが結婚するって聞いたものだから、どんな女性が来るかと思っていたら、まあ、箱入りのお嬢様じゃないの」
「リンブルフ辺境伯領での暮らしに耐えきれるのかしら」
まだ何も成し遂げていない私に、返す言葉は見つからなかった。
代わりにハルトヴィヒ様が物申してくれる。
「ルカエル、ミカエル、何を言っているんだ。アウレリアに失礼だろうが」
「なっ!」
「その名前で呼ばないで!」
彼女らの本当の名前は、ルカエル、ミカエルというらしい。
不思議に思ってぽつりと呟く。
「まあ、男性名?」
「そう、この二人は双子の兄弟なんだ」
そうハルトヴィヒ様が言った途端、二人は盛大に顔を引きつらせた。
「ちょっと、失礼じゃない!」
「そうよ!」
「本当のことを言って、どこが失礼なんだか」
ハルトヴィヒ様は呆れたように言う。
「彼らは見ての通り、女装が趣味でね。よかったら仲よくしてあげてね」
「はあ」
ルカエルとミカエルは、涙目でハルトヴィヒ様を睨んでいた。
趣味でかわいらしい格好をしていると聞いたら、なんだかかわいく思えてくる。
「ああ、そうだ。アウレリア、まーちゃんを紹介してあげたら?」
「そうですね」
「まーちゃん?」
「何それ?」
まーちゃんを紹介すると、ルカエルとミカエルはギョッとした。
『じゃーん、まーちゃんだよー!』
まーちゃんは元気よく自己紹介をしたものの、ルカエルとミカエルは盛大に顔を引きつらせる。
「ちょっと、オオカワウソじゃないの!!」
「どうしてここにいるの!?」
「まーちゃんはカワウソ妖精なんだ」
ハルトヴィヒ様が紹介すると、ルカエルとミカエルは言葉を返す。
「妖精ってもっと小さくて愛らしい存在でしょう!?」
「なんでもかんでも妖精ってつければいいって思ってない!?」
まーちゃんが一歩、ルカエルとミカエルに近づこうとした瞬間、彼らは悲鳴を上げて回れ右をする。
「近寄らないで!!」
「魚臭い生き物は苦手なの!!」
そう言って、逃げてしまった。
まーちゃんは困惑したように私を振り返り、小首を傾げる。
『まーちゃんって、魚臭いの?』
「いいえ、まったく」
「大丈夫、言いがかりだから気にしないで」
『わかった!』
そこまで傷ついていないようで、ホッと胸を撫で下ろす。
叔父ご夫妻からも謝罪を受けた。
「うちの息子達が生意気な態度ですまなかった」
「ごめんなさいね、反抗期なのよ」
カーリンに比べたら、あの二人の態度なんてかわいいものである。
まーちゃんの件はさておき、私に対する様子は気にしないでほしいと言っておいた。
「少し休んで、元気があるようだったら屋敷内を案内するよ」
「ありがとうございます」
優美な花が咲き誇る庭を抜けた先は、要塞のようなお屋敷が佇む。
内部も石造りで、ここが国の防衛施設であることがわかる構造だと思った。
ハルトヴィヒ様や叔父夫妻とお茶を囲む。
お土産もこの場で渡しておいた。
「こちらは王都で購入したお土産です」
ハルトヴィヒ様には自動で矢が命中する弓、叔父夫妻には魔石灯。
「ありがとう! こんなにいい品を用意してくれたなんて」
「大切に使わせてもらおう」
「ええ、本当に」
喜んでもらえてよかった。ルカエルとミカエルへのお土産は、あとで渡そう。
ここで傍付きのメイドが紹介される。
「アウレリア、君に仕えるメイドのレニ・バースだ。何かあれば、彼女に言ってほしい」
「はい」
レニは二十代半ばくらいの、ブルネットの髪が美しい長身の女性だった。
紹介されると、深々と頭を下げてくる。
「レニ、アウレリアを部屋に案内してあげて」
「かしこまりました」
レニの先導で部屋に向かう。まーちゃんと一緒に、先を歩く彼女のあとに続いた。
屋敷内はとても広く、隙間風がヒューヒュー吹いている。
秋だというのに、冬みたいに寒い。
きっとこれからさらに厳しい寒さになるのだろう。
ここが国の最果ての地、リンブルフ辺境伯領なのだ。
「こちらがアウレリア様のお部屋になります」
「ありがとう」
部屋には毛足の長い絨毯が敷かれていて、白で統一された瀟洒な家具が並んでいる。
大きな暖炉もあり、火が入っていて温かかった。
「何か必要な品などありましたら、ご用命くださいませ」
「ええ、わかりました」
レニにはお近づきの印として、ベルベットのリボンをあげた。
「アウレリア様、このようなよいお品をいただくわけにはいきません!」
「わたくしの気持ちですので、どうか受け取ってください」
その言葉に加え、使用人は主人の下げ渡しを身につけるのがお決まりであることを伝えた。
「ですので、気にしないでください」
「かしこまりました」
レニは両手でベルベットのリボンを受け取り、頭を下げる。
再度感謝の言葉を述べると、そのまま退室していった。
まーちゃんと二人っきりになると、ふーーー、とため息が零れる。
はじめが肝心だと言うが、私は上手く振る舞えていただろうか。
ここは新天地、なんとか馴染まなければ。
まーちゃんは暖炉の前で、のびーっと体を伸ばして眠っている。
そんな彼女を見ていると心が癒やされた。




