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妹が「ずるい!」と言うので、二度目の人生は大公と結婚するのを諦めて辺境伯に嫁ぎます  作者: 江本マシメサ
第三章 リンブルフ辺境伯領へ

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リンブルフ辺境伯領へ

 リンブルフ辺境伯領に入る前に、粉塵(ふんじん)避けの外套と目を保護する眼鏡を装着するようにと手渡される。


「ここから先は風が強くて、砂が舞っているんだ」


 環境が過酷になっていくという。

 ハルトヴィヒ様が用意した外套と保護眼鏡を装着し、再度ワイバーンに跨がる。


 しばらく飛んでいくと、景色ががらりと変わっていく。

 目の前に広がるのは手つかずの荒野。

 実りの秋だというのに植物は枯れかけている。

 それだけではない。大地はひび割れ、魔物らしき生き物が駆けていく乾燥地帯(アウトバック)が広がっていた。

 ハルトヴィヒ様が言うとおり、風が強く細かな砂や塵が渦巻くように舞っている。

 強い風が吹いて、ワイバーンの体が横揺れした。


「――!」


 私を抱くハルトヴィヒ様の力が強まる。

 落ちるかもしれない、という恐怖が和らいだ。


「この辺りは魔物も特に多くて水場もなく、見ての通り乾燥しているから、人が住めないんだ」


 こういう土地がリンブルフ辺境伯領の半分以上を占めるようだ。

 しばらく進んで行くと、砂漠地帯が広がる。

 この辺りもほぼ雨が降らず、当然ながら住むことはできないらしい。

 さらにその先には巨大な岩々が突起した荒野となる。


「ここはリンブルフ辺境伯領でも特に魔物が多くてねえ」


 この先にある人里にもやってくるようで、ハルトヴィヒ様は定期的にこの辺りの魔物退治に出かけるという。


「時期によっては魔物退治に忙しくて、なかなか帰れなくなるんだ」


 王都で噂になっていた魔物退治が趣味で屋敷にほとんどいない、というのは真実が曲がって広まったのだろう。


 やっと人里が見えてくる。

 そこは山々に囲まれた渓谷(けいこく)のふもとにあり、山から流れる川とわずかだが緑もある。


「あっちの建物が、うちの領地を守る騎士隊〝銀狼騎士隊〟の騎士舎だよ」


 大きな建物と、訓練用の広場らしきものが確認できる。


「あれが、我が家だよ」


 小高い丘にリンブルフ辺境伯家の屋敷が建っていた。

 渓谷に入ると特に強い風が吹く。


「きゃあ!」

「大丈夫、落ちないから。しっかり捕まっていて」


 こういう強い風が、悪いタイミングが重なって嵐となるのだろう。

 ワイバーンは慣れているのか、風と風の合間を縫うようにすいすい飛んでいった。


「山から流れる川と、ここの湖が、うちの領の貴重な水場なんだ」


 人里の近くには農耕地があり、数は多くないが家畜を育てるエリアも存在するという。


「あの山の向こうが隣国ドール・ノワールだよ」


 高くそびえる山々の向こうが敵国だと聞いて、緊張してしまう。


「歴史上、この山を越えて侵攻されたことはないらしい」


 なんでも険しい斜面が続き、山頂は深い雪で覆われているという。

 さらに不思議と、侵攻を止めるかのように強い風が吹くようだ。


「侵攻しようとしても、山が行く手を阻むみたい」

「まるで、この地は自然に守られているようですね」

「そうだね」 


 そんなことを話しているうちに、リンブルフ辺境伯家の屋敷に到着する。

 周囲は高い塀に囲まれていて、森のような広い庭がある。

 屋敷は城塞のように堅牢な造りをしていた。

 リンブルフ辺境伯家の庭にワイバーンは着陸する。

 先にハルトヴィヒ様が下りて、手を差し伸べてくれた。

 彼の手に、そっと指先を重ねる。

 すると、私を抱き上げるように優しく下ろしてくれた。


「――!」


 三時間ほどワイバーンに乗っていたからだろうか。足下がふらついてしまう。

 ハルトヴィヒ様はすぐに私の腰を支えてくれた。


「抱いたまま、家まで運ぼうか?」

「いいえ、大丈夫です。ですが、少しこのままで……」

「わかった」


 目の前には豊かな花園が広がっている。

 秋薔薇(あきそうび)が盛りだった。


「美しい庭ですね」

「ああ、そうなんだ」


 庭師が丁寧に世話をし、管理している庭だということがわかる。

 しばらく眺めていると、人影が見えてきた。


「ああ、お迎えがきたな」


 やってきたのは四十代くらいの夫妻と、ドレス姿の姉妹。


「あれが俺の家族だよ」


 どうやら彼らがハルトヴィヒ様の身内である、叔父一家らしい。

 はじめが肝心だ。そう思いつつ、背筋を伸ばして立つ。


「どうもどうも、あなたがハルトヴィヒ君の花嫁かな?」

「はるばるこんな場所まで嫁いでくるなんて、大変だったでしょう?」


 柔和な雰囲気のご夫婦だった。

 スカートを摘まんで挨拶する。


「お初にお目にかかります、アルテンブルク侯爵の娘、アウレリアと申します」


 ハルトヴィヒ様の叔父はアンドリュースさん、叔母はアンナマリアさんだという。

 ご夫妻はにこやかに私を迎えてくれた。


「なんて素敵なお嬢さんなんだ」

「本当に」


 温かく迎えてもらって、ホッと胸を撫で下ろす。

 しかしながら、次の瞬間、鋭い視線に気付く。

 それは、美しい双子の姉妹の眼差しだった。

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