王都散策
父に今更婚約お披露目会なんて開いて大丈夫なのか聞いたところ、もともと父の快気祝いのパーティーをする予定だったらしい。
料理の手配や会場の確保、招待などはすべて家令が行い、準備は整っているという。
「気にせず、楽な気持ちで参加してほしい」
「はい、お父様」
甘えていいものかと思ったものの、父はいつになく上機嫌だった。
きっとハルトヴィヒ様のことをお気に召したのだろう。
「いろいろと、結婚絡みで我が儘を申してしまいました」
「いいや、アウレリア、お前はあのお方に嫁いで、よかったのかもしれない」
リンブルフ辺境伯領は隣国が接していて、国の重要地点である。
その奥方となれば、立ち回りも重要になるのだろう。
「カーリンには厳しい辺境暮らしなど耐えられなかっただろう。おそらく数年で、逃げ帰ってきたはずだ」
そうなのだ。父の想定通り、一度目の人生でのカーリンはリンブルフ辺境伯領での暮らしに馴染めず、大嵐で領地が壊滅した最悪のタイミングで王都に戻ってきたのだ。
「ハルトヴィヒ殿も噂と違って気持ちのいい青年で、安心してお前を預けることができよう」
父もハルトヴィヒ様の噂話を耳にしていたらしい。けれども信じていなかったようだ。
「魔物を屠って楽しむ趣味があるなど、少しリンブルフ辺境伯領のことを調べたら、デタラメだとわかるだろうに」
そうなのだ。あの地はもともと魔物の住処とも呼ばれ、人が住めるような土地ではなかったのである。
きっと領民達の安全のために、魔物を倒して回っていたのだろう。
「お前の能力を最大限に使って、あの青年を助けてやってほしい」
「はい、そのつもりでございます」
リンブルフ辺境伯領で暮らす私を、父は心配していないという。
その期待に応えるためにも、頑張らなければ。
◇◇◇
翌日――朝食を囲む私とハルトヴィヒ様に、父は街に遊びに行くように言う。
「必要な品などもあるかもしれないから、行ってくるといい」
そんなわけで、私はハルトヴィヒ様と共に、侍女や従僕を引き連れて街へ買い物に出かけることとなった。
馬車に揺られつつ、商店が並ぶ中央街を目指した。
「さすが王都、活気があるなあ」
「今は社交期でもありますから」
「社交期かあ。これまでまったく縁がなかったな」
招待は受けていたものの、どうせ結婚相手は見つからないだろうから、参加しても無駄だと思っていたらしい。
「うちの領地はとんでもない田舎だからさ。そこまで来たがるお嬢さんなんて、いないだろうって誰もが口を揃えて言っていたんだ」
厳しい環境に加えて魔物も多く、晴天の日が少ない、一年を通して薄暗い土地だという。
「娯楽もないし、王都育ちの年若いお嬢さんには暮らすだけでも苦痛だろうって」
そう言い終えたあと、ハルトヴィヒ様はハッとなる。
「あの、アウレリア、本当に俺なんかと結婚して大丈夫? うちの領地、本当に何もないよ?」
「わたくしは、その、娯楽らしい娯楽をこれまで体験したことがありませんし、華やかな場や暮らしは向いていないと考えておりました。ですからその、平気だと思われます」
「そっか、よかった!」
ひとまずどこに行きたいか聞いてみる。
「ああ、そうそう。アウレリアがくれた手袋、すごく温かくて、重宝しているよ。叔父一家も、お菓子の詰め合わせ、すごく喜んでいた」
「よかったです」
そういえば、お土産も用意していたのだ。忘れずに渡さなければ。
「寝室にあった、魔法仕掛のランプも便利だったなあ。ああいう便利なアイテムが欲しいなって思っていたんだ」
「でしたら、魔技巧品を作るお店に行きましょう」
「ああ、頼むよ」
お店に到着するまで、ハルトヴィヒ様は魔法の弓矢がいかにすごかったか語っていた。
お気に召してくれたようで何よりである。
お店に到着すると、魔法の力で開閉する自動扉に驚いていた。
「うわ、すごい。こういうのも魔法仕掛けなんだ」
「ええ、そのようです」
王都の商店では珍しくない魔法だが、ハルトヴィヒ様は初めて見たという。
「うちの領地、魔法使いが住みつかなかったからか、日常の魔法がまったく存在しないんだ」
「そう、だったのですか!?」
「うん、ごめんね。少し不便かもしれないけれど」
「いえ……」
驚いた。まさか、魔法が生活に馴染んでいない土地があったなんて。
こういう生活に関わる魔法は一世紀前に国のほとんどで普及し、人々の暮らしを豊かにしてきたのだ。
「たしか、リンブルフ辺境伯領の近くにも、魔技巧品を作る工房があったと思うのですが」
「そうだったんだ! そこに行ったらいろいろ売ってくれるのかな?」
「どうでしょう?」
個人的な工房は顧客が決まっているイメージがある。
いきなり行っても、売ってもらえないだろう。
「顧客か、なるほど」
アルテンブルク侯爵家と取引のある工房や魔法使いがいるので、必要な品があればその辺を頼ればいいのかもしれない。
とにかく、今日はお買い物を楽しもう。
そう言って、ハルトヴィヒ様を店に案内したのだった。




