二人の在り方
ハルトヴィヒ様や父と共に紅茶を囲む。
お茶請けのお菓子は、リンブルフ辺境伯家の菓子職人特製の、サクランボパイだった。
「結婚式についてだが、リンブルフ辺境伯はどのように考えている?」
「アウレリア嬢の希望をすべて叶えるつもりです」
驚いた。私の希望を第一にしてくれるなんて。
「では、アウレリアはどうしたい?」
「わたくしは――リンブルフ辺境伯領で挙げられたらな、と考えております」
「王都ではなくていいの!?」
ハルトヴィヒ様が驚いた顔で聞いてくる。
「立派な教会もないし、友人、知人、ご家族をお招きするには、辺鄙すぎる場所だと思うんだけれど」
「参列者は、その土地に住む方々がいれば満足です」
「アウレリア、私は招待してくれるだろうか?」
「もちろん、お父様はご招待します」
準備に時間がかかると言われても、私はリンブルフ辺境伯領で結婚式を挙げたいと思った。
王都での人付き合いに、疲れていたとも言えよう。
「では、結婚の準備に一年ほどかけ、アウレリア、お前はリンブルフ辺境伯の婚約者として、土地に馴染むといい」
「はい!」
結婚について話をしただけで、父は「あとは若い二人で」なんて言っていなくなる。
もちろん、完全に二人きりではなく、メイドや侍女が傍に控えているわけだが。
「アウレリア嬢、このような場を作ってくれて、感謝します」
「その、ここまでやってくるのに、大変だったでしょうから」
「いいえ、まったく! 平気なんです」
すさまじい体力の持ち主らしい。羨ましく思ってしまう。
「ハルトヴィヒ様、その、敬語は使わなくてもけっこうですので」
これから夫婦になるのだ。肩肘張るような関係でいたら、疲れてしまうだろう。
余計なお世話かと思いきや、ハルトヴィヒ様はパッと表情を明るくさせた。
「いいの? ありがとう! なんだか言葉遣いが間違っているような気がして、さっきからむずむずしていたんだ」
余計な申し出だったかも、とちらりと思ったのだが、そうではなかったようで安堵する。
ついでに、名前も呼び捨てにするように言っておいた。
「アウレリア、君もよければ、無理がないように接してほしい」
「ありがとうございます。私はその、この状態が普通ですので」
堅苦しい女だと思われるかもしれない。一度目の人生のとき、オリヴァー様にもそう言われた。
これまで送った手紙や贈り物すら、余計なお世話だった可能性がある。
どういう態度が普通なのか、だんだんわからなくなってきた。
この先、敬語を使わない努力をしたほうがいいのか。なんて思っていたが――。
「わかった。それが君らしいってことなんだね」
「え、ええ……。その、ハルトヴィヒ様、よろしいのですか?」
「何が?」
「同じように、敬語を使わないこととか、ハルトヴィヒ様を呼び捨てにしなければならないこととか」
「それは人それぞれ違うからさ。アウレリアはアウレリアの自然な態度があるだろうし、俺はそれを尊重したい」
「ありがとう、ございます」
こんな私でもいいのか……。
それを思えば、なんだか気が楽になる。
「アウレリア、どうして泣きそうな顔をしているの? 何か悲しいことがあった?」
こういうときでも、私はこの世の不幸を背負ったような顔をしているらしい。
ハルトヴィヒ様の前では素直になろう。
きっとこのお方は、私を否定しないだろうから。
「いえ、ハルトヴィヒ様の心遣いが嬉しくて……涙が出そうになっているのかもしれません」
「そうだったんだ。なーんだ、よかった!」
明るい彼の態度に救われたような気持ちになる。
夫となるお方が、ハルトヴィヒ様でよかった。
そう、心から思えるようなひとときとなった。
◇◇◇
夜――食事を囲む中で、父は思いがけないことを言った。
「リンブルフ辺境伯領に戻る前に、婚約お披露目会を開きたい」
「お父様、突然そのようなことをおっしゃって、すぐに開けるものでもありませんのに」
最低でも、計画に半年は必要だろう。
ハルトヴィヒ様はそこまで長く王都に滞在できない。
それとも、婚約お披露目会をしに王都に戻ってくるように言いたいのか。
「そこまで大がかりなものでなければ、明後日にでもできるだろう。参加者も、大勢呼ぶ予定はない」
身内だけが集まる、こぢんまりとした婚約お披露目会を考えているようだ。
ハルトヴィヒ様は大丈夫なのだろうか。
数日も王都に滞在する予定ではなかっただろうし。
「ハルトヴィヒ様、父はこのように言っておりますが、いかがいたしましょう?」
「光栄です。ぜひとも、婚約お披露目会を開けたらなと思っております」
「そうか、そうか。ならば、すぐに準備させよう」
無理をしていないか、心配になって小声で聞いてみる。
「大丈夫だよ、逆に、ありがたいくらい」
「でしたらいいのですが」
そんなわけで、明後日に婚約お披露目会を開くこととなったようだ。




