ハルトヴィヒの人となり
まさかリンブルフ辺境伯であるハルトヴィヒ様が直々にやってくるなんて。
リンブルフ辺境伯領に行くタイミングは、カーリンと同じだったのに。
ハルトヴィヒ様は頭を垂れたまま、動かない。いったいどうしたというのか。
「あの、ハルトヴィヒ様?」
「――!?」
弾かれたように、ハルトヴィヒ様は顔を上げる。
整った顔立ちが、私をまっすぐに見つめてきた。
これまで目にした人の中で、もっとも美しい男性だ。
途中でハッとなる。見とれている場合ではなかった。
まず父が先に名乗る。すると、彼は再度深々と頭を下げた。
「こちらが娘のアウレリアだ」
「お初にお目にかかります、リンブルフ辺境伯ハルトヴィヒ様。アルテンブルク侯爵の娘アウレリアです」
ハルトヴィヒ様は私を眩しそうに見上げながら、ポツリと呟いた。
「……女神!!」
「はい?」
「いいえ、なんでも! このようなど田舎……ではなく、国の果てまで嫁いでいただけるとのことで、お迎えにやってきた次第です」
しかしながら、どうしてハルトヴィヒ様が直々にやってきたのか。
父も疑問だったようで、問いかける。
「貴殿がやってくるというのは、把握してなかった。その、なにゆえに、わざわざ王都まで?」
「心のこもった手紙をいただきましたゆえ、花嫁となる女性をいち早くお目にかかりたいと思い、ここまでやってまいりました」
「そ、そうか……」
父の問いかけにすらすら答えるハルトヴィヒ様は、なんというか、想像していた人物像と大きくかけ離れている。
もっとこう、クールで人を寄せ付けないようなお方かと思っていた。
思っていたよりも気さくで、心が温かい人なのかもしれない。
「リンブルフ辺境伯領からここにくるまで大変だっただろう」
「いいえ、まったく!」
馬車で一ヶ月かかる距離も、ワイバーンで野を越え山を越え海を越え――十時間ほどで到着したという。
「ハルトヴィヒ様、お休みされてから出発したほうがよいのでは?」
「ああ、そうだ! それがいい! 我が家で一泊してから、発つといい」
「しかし、ご迷惑では?」
「気にする出ない。家族だろう」
「家族……!」
遠慮するような様子を見せていたハルトヴィヒ様だったが、父が家族だと言うと素直にこちらの申し出を受け入れてくれたようだ。
「ハルトヴィヒ様、その、そちらのワイバーンはいかがなさいますか? お疲れでしょうから、お水や食事など用意もできるのですが」
私の言葉を聞いたハルトヴィヒ様は、思わずといった感じに微笑みを漏らす。
何かおかしなことを言ったのだろうか。
「ああ、ワイバーンにまで暖かな心遣いを感謝します。彼は自分で飲んだり食べたりできるので、ご心配なく」
「王都の水と食料がお口に合うか、心配ですが」
この辺りは工業地帯でもあり、空は煤煙で曇り、水は浄化魔法を施さないと飲めたものでない。
それらの事情を説明すると、ハルトヴィヒ様は驚いた顔を見せる。
「失礼。私だけでなく、ワイバーンももてなしてくれるのかと思っていたのですが、深い理由があったのですね」
私の提案がワイバーンをもてなす姿勢に思われていたから、ハルトヴィヒ様は笑っていたようだ。
「その、ワイバーンへのおもてなしを心から微笑ましく感じ、思わず笑ってしまいました。他意はありません」
「ふふ……ええ、わかっております」
嘲り笑うようなニュアンスはまったく感じていなかった。気にしないように言っておく。
「笑った――やはり女神だ」
「はい?」
「いいえ、なんでもありません!」
ここで父がゴホンゴホン! と咳払いする。
立ち話もなんだ。早く屋敷へ案内しよう。




