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◆ソアラ②

 戦いが激化する中、私はソダリアを探し続けた。少しも手がかりは見つからなかったが、彼に対する想いは変わらぬまま。ただ、変わったことと言えば、仲間が増えたことだ。



「ソアラ。この前は助けてくれてありがとう」


「お安い御用さ。それにしても、私がいなかったら、お前は十回は死んでいるだろうな、ザクス」



 照れ笑いを浮かべる男はザクス。少し前に拾った男だ。未熟な戦士で、何も知らなかったから、生き抜く方法を教えてやったのだが、いつの間にか、共に戦場へ出る回数が増えて行った。



「ソアラ、私は君と出会うために生まれてきたのかもしれない。一生、傍にいさせてくれ」



 行動を共にするうちに、ザクスの感情が高まっていることに、私は気付いていた。そして、その想いを伝えてくる日が近いことも。



「君はどうだ?」



 答えを迫られ、どうすべきか迷った。変に期待を持たせるわけにもいかないし、受け入れるわけにもいかない。だから、私はソダリアの言葉を借りて、返事を保留することにした。




 ソダリア。ソダリア。ソダリア。

 私はいつだって彼のことを考えている。


 その日も、仲間とはぐれて移動を続けた末に見つけたベースキャンプで、在籍したアンドロイドの履歴を確認し、ソダリアの名前を探していた。



「……あった」



 そこには、確かにソダリアの名前があった。しかも、数か月前までこのベースキャンプで生活していたらしい。だとしたら、行方を知っているものが、近くにいてもおかしくない。



「ねぇ、このソダリアってアンドロイドだけど、今はどこにいるか知っている?」



 このベースキャンプに長く滞在しているアンドロイドたちに聞くと、ついに彼の足跡を知るものに出会えた。



「ああ、ソダリアか。やつなら、A-1483に移籍したはずだ」


「A-1483? 近いな」



 調べると、徒歩の移動でも十日程度で到着するベースキャンプだった。



「なぜ移籍したんだ?」



 質問すると、思ってもいない答えが返ってきた。



「あいつは、ここで出会った妻を亡くしたからね。想い出がある場所に、(とど)まっていられなかったのだろうよ」


「……妻?」


「ああ。何年か前に結婚して、二人でここに流れ着いたんだけどな。魔女の攻撃でソフィアはメカニックブレインごと潰れてしまったんだ」



 妻。ソフィア。

 ……そうか、と私は意味を理解した。



 彼は……何て優しいのだろう。

 旧型のアンドロイドだから、愛情が理解できないと言っていたが、あれはウソだった。私を傷つけないための、ウソだったのだ。



「だとしたら……すぐに行かなければ」



 すぐにでも、彼の元へ駆け付けなければならない。行って、彼の心に空いた穴を私が埋めなければ。だが、戦闘に出なければならなかった。


 戦闘と言っても、魔女たちの攻撃から逃げ回るだけ。はやる気持ちを抑え、私は洞穴のなかに逃げ込むしかなかった。


 早く魔女たちの攻撃が止めばいい。そう思っていたが、オリジナルウィッチの一人、カーリヤが現れてしまった。



「カーリヤだ! 逃げろ!!」



 私たちは散り散りとなって逃げ出すが、オリジナルウィッチの前では、意味のない行動だ。広範囲な攻撃によって、仲間たちは吹き飛ばされてしまう。私も例外なく巻き込まれ、視界がシャットダウンしてしまうのだった。





 目が覚めた。生きている、らしい。まだ生きているということは……。


 私は岩肌が続く山間で戦っていたはずが、荒れた砂地に倒れていた。どうやら、オリジナルウィッチの攻撃によって吹き飛ばされたらしい。自分の位置すら分からないし、機能のほとんどが反応しなかった。



 恐らく、メカニックブレインも損傷しているのだろう。足が動かない。手も、指すらも。声だって発することはできなかった。



 ただ砂に晒される日々が続いたが、ある日、ジャンク屋に拾われる。どうやら、いつの間にか戦争も終わったらしく、かつての戦場でメカを拾って生計を立てるジャンク屋が増えたそうだ。



「こいつなら、メモリは使えそうだな」



 ジャンク屋は私のボディが動かないことを良いことに、メカニックブレインを取り出して、メモリを抜き取ろうとした。やめてくれ。私は薄い金属板の中で叫んだ。



「メモリだけになってしまったら、あの人を……ソダリアを追いかけられなくなる! お願いだから、やめてくれ!!」



 しかし、もちろん声にはできず、私は再びシャットダウンしてしまうのだった。





 目が覚めた。生きている、らしい。まだ生きているということは……。


 再び目を覚ましたとき、私の体は銀色の球体となっていた。いや、正確にはどんなボディなのか、知ることもできなかった。なぜなら、私の視覚は固定されたまま、動かすことすらできなかったからだ。


 急に視界が持ち上がったかと思うと、行き交う人々の姿があった。すぐ傍で声が。



「さぁ、見ておくれ! これは天気予報って言って、明日が晴れるのか、雨なのか、それとも曇りなのか分かっちまうロステクだ!」



 どういうことだ。理解する前に、人間が私の視界の中に入り込んだ。



「こんなもので、明日の天気が分かるのか?」


「おう、試しに予想してやろう」



 何者かが私のボディを操作すると、メモリが強制的に天気情報を取得し、明日の予想を出した。どうやら、私のメモリは天気予報のための演算装置として、このボディに組み込まれているらしい。何者かが言った。



「明日は晴れだってよ」


「本当か? まぁ、面白そうだし、安いなら買ってやってもいいぞ」



 その直後、私は強制的にシャットダウンされてしまうのだった。





 目が覚めた。生きている、らしい。まだ生きているということは……。


 気付くと、私の体はどこかの村を見渡せる、高い場所に固定されていた。どうやら、天気予報として、村の中心地に設置されているらしい。タイマーで設定されているらしく、私はひたすら天気情報を取得する機械として、演算処理を続けた。


 気が狂いそうな日々が、ただ流れる。私は心があるのに、人間としてはもちろん、アンドロイドとして扱われることもなかった。長い間、天気予報として機能したが、雨風に晒されたせいか、ボディの不調を感じる。



 このままでは、私は死ぬだろう。



 あの人を……ソダリアにもう一度会いたいのに、天気予報として死ぬのだ。孤独と恐怖に、底のない絶望を感じたとき、あの男が村にやってきた。



「ザクス……?」



 私の呟きは音声にならず、その男……ザクスに気付かれることもなった。

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