助けられるのは
その声は、破壊されたパールヴァの工房の方から聞こえていた。近付けば、間違いなくザクスのものだと分かった。
「瑠璃! こっちに階段があるよ!」
翡翠が発見した階段から降りると、パールヴァとザクスが先程現れた穴の真下に出る。そして、横手にあった部屋からザクスの声が聞こえているようだった。
「だ、誰か!! ソアラが……ソアラが!!」
部屋の中に入ると、妙な空間が広がっていた。中央には寝台らしきものがあり、その周辺に小さなワゴンが複数置かれている。そのワゴンの上にはさまざまな道具が置かれているようだが……まるで手術室のような雰囲気だ。
「あの天気予報、壊れる寸前みたいだね」
ザクスが泣きわめく理由を最初に把握したのは翡翠だった。寝台の上には、銀色の球体が置かれ、上半身だけとなったザクスがそれに触れようと必死に手を伸ばしている。
「何があったんだ?」
半狂乱とも言えるザクスに声をかけたのは、アナトだった。唯一差し伸べられた手を掴むように、ザクスはアナトにすがる。
「助けてください! このままではソアラが死んでしまう!」
ザクスは瑠璃に敗れた後、この天気予報がなくなっていることに気付いたそうだ。もしかしたら、氷塊の下に落ちたのでは、と考え、何とか体を引きずって穴を降りたところ、彼女を見つけたようだが……。
「異様に熱を放っているのです。このままでは……!!」
アナトは天気予報のボディに触れてみた。
「確かに熱いな」
「このままでは、メモリが焼かれてしまう! 助けてください!!」
「助けるって言っても、難しいんじゃないかな」
指摘したのは翡翠だ。
「こんなのメカニックブレインをボディから取り出すようなものだよ。技師に見てもらった方がいいと思うよ?」
「いや、そんな時間はない……」
アナトが言う通りだった。天気予報のボディから黒い煙が上がり始めているではないか。
「そ、ソアラ!!」
ザクスはこの世の終わりを見たように、上半身だけで寝台へ昇ろうとするが、上手く体が動かないらしく、床に落ちてしまう。その姿に、瑠璃は悼むように目を閉じる。だが、残酷な事実を伝えなければならなかった。
「……悪いけど、諦めて。この近くに、技師はいないわ」
「じゃあ、ソアラは……」
絶望に染まるザクス。何よりも大切な存在を失う恐怖に、その表情が歪んで行く。誰もが残酷な結末を想像する状況だったが、アナトは違った。
「いや、何とかなる」
彼はワゴンの上に置かれた道具を一つ手に取った。
「どうするつもり??」
瑠璃が聞くと、アナトは慎重な手つきで天気予報に触れながら言った。
「僕がメモリを取り出す。成功すれば、新しいメカニックブレインに移植できるんだろう?」
「今の時代に新しいメカニックブレインなんて見つからない。助けたところで……」
体がなければ、何もない空間に閉じ込められるのと一緒だ。それを助けると言えるのだろうか。しかし、ザクスの考えは違った。
「それでもいい! ソアラを助けてください! 生きてさえいれば……いつかメカニックブレインだって!!」
アナトは頷くが、瑠璃はまだ信じられなかった。
「その前に、そんなことできるの?? 変な期待を持たす方が残酷よ!」
「大丈夫。僕は技師見習いとして働いているし、メカニックブレインの取り出しも、ヤクシジから一回だけ練習させてもらった」
働いていると聞いたが、まさか技師だったとは。パールヴァが知り合いの技師にリモコンを直してもらった、と言っていたが、そういうことだったのか。そんな驚きはあるが、経験不足であることは否めない。
「まぁまぁ。ここはアナトくんに任せてみようよ」
躊躇する瑠璃を翡翠が宥める。
「何もしないで後悔するより、全力を尽くして後悔する方がマシだって。人間はそう思うものでしょ?」
確かに、わずかな可能性があるとしたら、それに賭けるべきなのかもしれない。お願いします、と繰り返すザクスを一瞥してから、瑠璃は大きく息を吐いた。
「アナトくん、任せていいのね?」
彼女に期待に応えるよう、アナトは大きく頷き、煙を吐く天気予報に視線を落とすのだった。




