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瑠璃とパールヴァ②

 魔力生成は呼吸が重要である。なぜなら、大気中のマナを吸い込み、それを体内で魔力に変換するからだ。しかし、パールヴァの呼吸はダメージによって非常に浅かった。


 だとすれば、派手な魔法を連続して使うことは考えにくく、瑠璃に勝機がないわけではない。しかし、相手はオリジナルウィッチ。魔力生成に不備がある程度で、圧倒的な差を埋められるとは言えなかった。



「ほら! 逃げてばっかりじゃあ、私を倒せないよ!!」



 自由に空を舞う鳥のように氷柱が、美しく旋回すると、岩の影に隠れる瑠璃に向かって加速した。しかも、氷柱は一本だけではない。



「う、ウソでしょう!?」



 瑠璃を包囲する無数の氷柱は、針の山をひっくり返したようだ。



「こうなりゃ一点突破!!」



 瑠璃は最も手薄と思われる方向に魔力光線を放って道を作り、岩影から飛び出す。が、走る瑠璃のすぐ後ろから、氷柱が地に突き刺さる鈍い音が追ってくるではないか。



「止まったら死ぬかも!!」



 瑠璃は必死に走るが、先回りする氷柱も現れる。



退()けぇぇぇーーー!!」



 魔力光線で道を遮る氷柱を破壊するが、撃ち漏らしたものが一本。いや、二本あった。



「これくらい!!」



 持ち前の身体能力で回避するが、パールヴァの方向に強い魔力を感知する。



「も、もしかして……」



 横目で確認すると、パールヴァが右手をこちらに向けているではないか。そして、彼女が叫ぶ。



「シャルヴァ!」



 白い魔力光線が伸びて、瑠璃を薙ぎ払おうとする。しかも、自分の得意技なのに、威力も速度も圧倒的に向こうが上だ。心が折れそうになったが、魔力を脚部へ集中させ、一気に飛び上がると、熱線が足元を通り抜けて行く。


 焦っていたせいで着地に失敗し、起き上がって再び駆け出すが、背後でドスンッ、と不吉な音が。振り返らずとも分かる。たぶん、立ち上がるタイミングが少しでも遅かったら、落下してきた氷柱によって串刺しにされていた、ということだ。


 それでも、氷柱の気配がかなり減っている。攻撃に転じるチャンスだ。



「お返し!」



 瑠璃は走りながら、魔力光線をパールヴァに向けて発射するが、やはり巨大な結晶が現れて、遮られてしまう。



「せめて、防御が手薄になる瞬間があれば!!」



 しかし、パールヴァは攻撃と防御を同時に行う。どうにか、注意をそらすタイミングでもあればいいのだが……。そんなことを考えていると、足元の影が急に濃くなったような気がした。いや、異常は足元ではない、と空を見上げれば、今度は落下する巨大な氷塊が。



「次から次へと!!」



 思いっきり地を蹴り、氷塊の落下範囲から何とか抜け出す。しかし、氷塊は地面と衝突して砕けたかと思うと、割れた破片がナイフのような切れ味を持って宙を駆け、四方から瑠璃を包囲した。



「や、やばすぎる……」



 ほとんどは魔力光線で焼き払ったが、そのいくつかは瑠璃の体を切り裂こうと飛びかかってくる。何とか回避してみせるが、せっかくのダウンジャケットもずたずたに破れてしまった。



「ごめん、アナトくん!」



 ダウンジャケットをその場で脱ぎ捨てると、なぜか絶え間なく続いた攻撃は()んだ。瑠璃はその間に、岩影に隠れて息を整えようとしたが、呼吸が乱れて仕方がない。これでは、自分の方が先に魔力切れとなってしまうかもしれない。瑠璃は時間稼ぎのために対話を試みる。



「ねぇ! パールヴァは誰よりも自然を愛する魔女なんでしょ? 絵本に書いてあったわ!」



 返事はないが、聞いているはずだ。



「それが本当なら、どうして雪を降らせるの? これほどの急激な気温の低下は、多くの動植物が耐えられない。貴方の愛する自然が失われるわ!」



 先程よりも雪は激しさを増したようだった。これが続くだけでも、周辺の環境は大きなダメージを受けるに違いない。だが、ついにパールヴァから返事があった。



「人間とアンドロイドがいる以上、コーラルの自然は失われるばかりだ。だったらもう! 人間もアンドロイドも滅ぼした後で、ゆっくりと自然に回復してもらうしかないんだよ!」



「だから人類を滅亡させるってわけ?? そんなことしたら、魔女狩り部隊だって黙っていないわ!」



 最悪の状況と言えた。ニルヴァナ教が所有する、最強の対魔女殲滅部隊とオリジナルウィッチが戦うことになれば、魔女戦争に近い状況となるに違いない。それこそ、コーラルの環境は壊滅的な状況となってしまうだろう。


 だが、魔女の返答はなく、ただ不気味な魔力の揺らぎだけが感じられた。もはや、魔女パールヴァはコーラルの脅威でしかない。



「仕方ない……。ここで、私が倒すしか!!」



 伝説の魔女に対する憧れは、瑠璃を躊躇させる。それに、この実力差を考えれば、魔女の撃破は困難であることも分かっていた。ただ、氷柱による攻撃は止んでいる。やはり、向こうも消耗が激しいのだ。



「やるわよ、瑠璃!」



 自分に言い聞かせ、大きく息を吸うのだった。

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