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その一言を伝えるために②

ミラージュは夢を見ていた。それは戦争中のこと。彼女は一人の男性型アンドロイドと婚約を交わした。作戦が終われば結婚する。そう約束したが、彼は敵勢力の攻撃によって命を落としてしまった。


あれだけ深く愛し合った存在を失い、ミラージュは生きる意味を失ったように感じたが……ザクスに出会えた。


二度目の奇跡。もう二度と離さない。そう思っていたが、彼はいつもどこか遠くを見ていた。どうすれば振り向いてくれるのだろう。密かな想いを抱える彼女だったが、奇跡は再び壊されてしまった。



「すまない、ミラージュ。私にとって彼女は、何よりも大切な存在なのだ」



ザクスが天気予報を持ち出し、ウッタラを出た直後、ミラージュは再起動した。どうやら、ザクスに攻撃され、一時的にシャットダウンしてしまったようだ。



「……行かなくては」



ミラージュはすぐにウッタラを出た。村人が数名、ザクスに何があったのか、と問いかけてきたが、答える暇はない。ただ、誰もがザクスは北に向かったと教えてくれた。



「おっと、それ以上は進まないでくれ」



ザクスの追跡のため、一秒も無駄にしたくなかったが、妙な二人組が彼女の行き先を阻んだ。



「邪教徒、参上です!」



一人は金髪碧眼の人間。もう一人は小柄なアンドロイドだ。どうやら、邪教徒の連中らしい。



「よーし、クリヤ! あのアンドロイドを捕らえろ」


「了解です、先輩!」



小柄なアンドロイドは強かった。それもそのはず。彼女は後期型で、ミラージュと絶対的な性能差があったのだから。



「やめて! 私はどうしても……行かなければならないの!!」



命からがら逃げ出すことに成功したが、森に潜むミラージュを大勢の邪教徒があぶり出そうとした。



「いたぞ! 捕らえろ!!」


「くっ!!」



ミラージュは邪教徒たちの攻撃を受けながら、何とか森を抜けた。



「あの人に……伝えなければ」



愛している。その言葉で、彼の考えが変わるとは限らない。だけど、一度も言ってなかった、一番大きな気持ちを伝えずに別れるなんて……。



「逃げられるとでも思いましたか?」



しかし、無慈悲な言葉が頭上から。顔を上げた彼女に、あの小柄なアンドロイドが降ってきた。回避する間を与えられず、頭を踏み付けられ、そのまま地面と足裏に挟まれる。



「ざ、クス……」



音声機能に不具合が出た。これでは、伝えられないではないか。必死で邪教徒の足から逃れようとするが……。



「逃げられないと言ったでしょ?」



さらなる踏み付け。



「ざ、ざ、ざ……」



壊れた。いや、まだだ。まだ伝えられるはず……。何とか逃げ出せれば、と体を起こそうとしたが、踏み付ける力は強く、邪教徒たちに囲まれているようだった。



「よくやったぞ、クリヤ。念のため、例のウィルスもぶち込んでおけ。余計なことを喋られるわけにはいかないからな」


「了解です!」



ミラージュの中に、何かが侵入してきた。それは彼女の思考回路を破壊していく。このままでは、まともな判断のできないアンドロイドにされてしまうが、彼女は諦めなかった。


なぜなら、一言伝えられるだけの思考が、意思が残れば十分だったと思っていたから。しかし、彼女を襲う悲劇は、これだけでなかった。



「さて、パールヴァ様。お願いできますか?」



「い、いいけど。マユちゃんのお願いだからやるだけ、だから。あと、実験の約束も……守ってよ」


「もちろんです。パールヴァ様から個人的な願いを頼まれるなんて、恐れ多いことです」



そのあと、ミラージュは氷漬けにされて、知らない村に保管された。このままでは、ザクスを追えない。愛していると伝えられない。孤独感と絶望に押しつぶされるかと思ったが、思った以上に早く解放された。



「ほわっちゃあああーーー!!」



氷による束縛から解放された直後、緑色の髪のアンドロイドに叩かれたが、奇跡的に逃げ出すことができた。だが、ウィルスによって思考は破壊され、まともに言葉も喋れない。北へ向かって走る。ただ走る。たった一言を伝えるため。


しかし、彼女は途中、彼女を捉えた邪教徒の二人組に出会ってしまう。



「先輩、あの女……北へ向かっているようですよ?」


「……まぁ、いいんじゃないか? 放っておこうぜ。今は、な」



まともな思考が残っていたら、彼女は見逃された理由を考えたかもしれない。しかし、ウィルスに侵され、ただ一言を伝えるためだけの機械となってしまった彼女は、何も疑わなかった。


愛している。その一言のため、ミラージュは北に向かって走るのだった。

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