ザクスの過去①
ザクスは魔女戦争の真っ只中に、戦闘用のアンドロイドとして誕生した。その当時、コーラルは激しい混乱にあり、ロールアウトしたばかりのアンドロイドたちの中には、必要最低限のプログラムが装備されていないことすらあった。
それでも、戦場に出されるものだから、ザクスはただ必死に逃げ回る日々を繰り返したと言う。そんな彼に声をかけたアンドロイドが、ソアラだった。
「君が例の新人か。今まで大変だったろうけど、大丈夫。私が面倒をみてあげるから」
生まれた瞬間から、ただ死の恐怖に追われるだけだったザクスは、ソアラに出会って初めて、優しさと言うものを知る。
「ザクス、死にたくなかったら、このプログラムをダウンロードしておくんだ」
ソアラの指示はいつも的確で、何度も彼女に助けられた。そして、ザクスも戦うことに慣れ始め、ソアラを助けられるほどまで成長する。
「今日はありがとう。ザクスがいなかったら、私は死んでいたかもしれない」
そう言って、ソアラが微笑むと、ザクスは生まれてきた価値を見いだせた。生まれてきてよかった、と。
それから長い間、二人は支え合って戦争を生き抜いた。戦いの間に、彼女と一緒に身を寄せ合って過ごすと、ザクスは心の底から安心する。彼女に出会えてよかった。そう思うザクスにとっての彼女は、ただの戦友というだけでなく、まるで母親のようでもあり、恋人のようでもあった。
だから、彼は自分の想いを伝える。
「ソアラ、私は君と出会うために生まれてきたのかもしれない。一生、傍にいさせてくれ」
その言葉に対し、少しだけ停止するソアラだったが、どこか温かみを感じたように微笑みを見せた。
「生意気だぞ、ザクス。だが……悪い気はしないな」
「君はどうだ?」
曖昧な言葉で誤魔化された気がして、ザクスは確認したが、ソアラは表情一つ変えずに言う。
「お前が特別な意味を込めて、そう言ったことは分かる。しかし、私はお前に比べたら旧型だ。感情プログラムの処理が追い付かない。お前の気持ちを理解できたら、私の気持ちを伝えよう」
ザクスは頷いた。いつかきっと……いや、近いうちに、ソアラの気持ちを聞けるはずだ、と。
その日、二人は攻撃を避けて洞穴の中に隠れていたが、出口の方を見たソアラが何かに気付いた。
「見ろ、ザクス。雪だ!」
二人は洞穴の外に出ると、絶え間なく白い結晶が降り注いでいた。初めて見る光景に、固まっているザクスだったが、手に柔らかい感触があることに気付く。ソアラだ。彼女の手がザクスの手を握っていた。
「また見られる日がくるとは……思わなかった」
空を見上げながらソアラが浮かべた笑顔は、なぜかザクスは胸を締め付けた。彼女を失ってはならない。何があっても。そんな不安と決意の中、ザクスは彼女の手を握り返すのだった。
しかし、二人は引き裂かれてしまう。
「カーリアだ! 魔女が! オリジナルウィッチが攻めてきたぞ!!」
ある日、彼らが休んでいると、最大の敵とも言える魔女が攻めてきたのである。
「ザクス、こちらに!」
「ダメだ、そっちは危険だ!!」
ザクスは手を伸ばしたが、二人の間に巨大な光の柱が落ちてきた。それは大地を穿ち、引き裂いて、凄まじい衝撃波を起こす。
おそらくはオリジナルウィッチによる魔法の攻撃だったが、そんなことを理解する前に、ザクスの意識は一瞬で失われてしまう。一瞬の光を見ただけで何も覚えていないザクスだったが、彼はソアラの手を握った記憶だけはあった。
「……ソアラ?」
目覚めると、彼の体の半分以上が砂の中に埋まっていた。どうやら、巨大な爆発に巻き込まれ、このような有様らしく、生きているだけで奇跡だと言えるだろう。
奇跡。だとしたら、あのとき手を握ったはずのソアラは……。
「ソアラ!!」
ザクスは自らの右手が何かを握っていることに気付く。そうだ、気を失っても自分は彼女の手を離さなかった。決して、離れ離れにならない。そう誓ったのだ、と右手を持ち上げるが、そこには千切れたアンドロイドの右腕が握られているだけだった。
「う、ウソだ……」
ザクスは認めたくはなかった。アンドロイドであれば、右腕を失っていたとしても、生きている可能性は十分にある。
そこから、ザクスの長い旅が始まった。愛した人と再会するための、長い旅が。
しかし、旅を続ければ続けるほど、ソアラの生存が否定されてしまう。なぜなら、彼はあのとき、あの場所にいた同志に再会するが、誰一人としてソアラを見た、というものはいなかったから。
「彼女がいないのなら、私に生きる価値はない」
ザクスは絶望を背負ったまま、死ぬこともできず、たださ迷った。そうしているうちに、戦争も終わり、彼は本当に存在する意味を見失う。
「悲しい目をしているのね」
だが、その言葉に彼は救われる。
「戦争でひどい目に遭った。ちがう?」
「その通りだ」
このまま、エネルギーが切れて、機能停止する瞬間を待つだけのザクスだったが、なぜか彼の面倒を見てくれる女性型アンドロイドが現れたのである。
「私、ミラージュって言うの」
「なぜ、私を助ける?」
その質問に、ミラージュは笑顔を見せた。
「私も戦争でたくさんのものを失ったから。婚約者もいたけれど、何もかも失った。だけど、貴方の目を見たら、何となく……支え合えるんじゃないか、ってね」
ザクスは彼女の言っていることは理解できたが、彼女が感じたものは理解できなかった。なぜなら、ザクスにとってソアラという存在は、何かで埋め合わせることのできないのだったから。
それでも……ザクスはミラージュと生きることを選ぶ。ソアラを忘れられなかったが、ミラージュはささやかな喜びを与えてくれる。これが本当の幸せではないか。
ザクスがそう思い始めたころ、二人の幸せな日々は終わりを告げてしまうのだった。




