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魔女の工房

 仕事場に客としてパールヴァが現れた。彼がどんな場所で働いているのか聞きそびれてしまったが、オリジナルウィッチが現れて、住所を記載して帰っていくなんて。あり得ない話だが、彼の言う住所は現在地に限りなく近く、事件と関係がないとは言い切れない。


 瑠璃たちは朝まで十分に休息を取って、アナトの言う住所へ向かったのだが……。



「あった……」



 そこに建つ一軒の家を目にして、瑠璃は何とも言えない感情になった。絵本の世界で活躍するオリジナルウィッチがそこにいる。そんな感動がないわけでもないし、伝説の魔女を敵に回すかもしれない、という恐怖もないわけではない。


 だが、それよりも……アナトという、どこかのんびりした青年が、魔女と呼ばれる存在を次々と引き寄せることに薄気味悪さすら覚えていた。



「役に立っただろうか?」



 その声に振り返ると、嬉しそうに微笑むアナトの姿が。しかし、瑠璃は彼に何を言うべきなのか分からず、曖昧に頷きながら「そうかもね」と、言葉をどうにかして引っ張り出す。それが満足だったのか、アナトは「よかった」と頷いた。



「でも、瑠璃ちゃん。あれが本当にパールヴァの住処だとしたら……」



 警戒を促すのは翡翠である。心なしか、彼女もいつになく真剣であるように見えた。瑠璃も気を引き締めるように、黒いグローブを右手に装着しながら頷く。



「うん。魔女の工房ってことになるわね」


「工房?」



 アナトが言葉の意味を求め、瑠璃は慣れた調子で説明する。



「魔女は自分の研究成果を隠すため、その住まいは簡単に入らせないよう、魔法でセキュリティを固めているものなの。ただの一軒家に見えるけど、ロステクで守られた遺跡と同等に罠だらけで近付くのも危ない、ってこと」



 アナトは前方にある家を改めて眺めた。そこには、木造二階建ての一軒家があるだけ。テントによる生活が一般的であるコーラルでは、こういった建造物は確かに珍しいが、まったく見ないわけではない。


 実際、アナトが通うアキーバに関しては、石造りの家が並んでいるから、パールヴァの住処と思われる家も、何の変哲もない建物のように見えているだろう。



「じゃあ、どうするんだ?」



 アナトの質問に、瑠璃と翡翠は顔を見合わせた後、視線を戻してから当然だと言わんばかりに言った。



「「取り敢えず、ぶっ飛ばす」」



 重なる二人の言葉に、アナトは顔を青くすると、瑠璃と翡翠は手の平に魔力を集中させた。アナトが近くの岩影に身を隠すと同時に、二人の手の平から発せられる魔力の光。それにより、コーラルでは珍しい木造建築が爆発音と共に消し飛んでしまった。



「滅茶苦茶だ……」



 瓦礫が飛散し、アナトも岩の後ろに隠れていなかったら、大変なことになっていただろう。



「いくらなんでも、事情も聞かずに人様の家を粉々にするものか?」



 唖然とするアナトだが、瑠璃は平然と言う。



「相手が相手なんだから、先制攻撃よ。人違いだったら、謝り倒すしかないわ」



 そうそう、と翡翠が付け加える。



「魔女の工房に正面から入って、こっちが疲弊するわけにはいかないからね。これが一番楽な方法だよ」



 だとしても、今の攻撃でパールヴァが死んでいたら、とアナトは思ったようだが、瑠璃たちにしてみると、そんな心配は不要なものである。



「さて、問題はここからよね」



 瑠璃が目を凝らし、黒焦げになった瓦礫の集まりを凝視する。



「何か……くる!」



 先に気付いたのは翡翠だった。瓦礫がわずかに動いたかと思うと、そこから人と同じ大きさの何かが飛び出した。銀色に輝くそれは、鳥の形を取った氷の塊である。


 しかも、一体だけならまだしも、ツガイのように二体の氷鳥が瓦礫の上に浮遊しているではないか。



「人造使い魔か!」



 忌まわしいげに吐き捨てる瑠璃に、一体の氷鳥が反応する。鳥のように羽ばたくそれは、動くたびに氷が削れるのか、銀の粒子を振り撒くようだった。そして、目を光らせると、そこから純白の魔力光線が放たれる。



「工房が攻撃されたら、自動的に攻撃するようインプットされているだろうね!」



 回避する瑠璃に、翡翠が攻撃の特性を説明するが、そんな彼女に氷鳥による魔力光線が襲い掛かる。翡翠は自らの周りに薄緑の球体(バリア)を展開して攻撃を防ぎ、すぐさま反撃の光線を放つが、氷鳥は宙をスライドするように回避してみせた。



「回避性能は高い上に攻撃の出力も高い。瑠璃、油断しちゃダメだよ!」


「分かってる!」



 氷鳥の攻撃から逃れるため、駆け回る瑠璃だが、目の前で大地が途切れ、足を止めなければならなかった。



「こっちはダメか!」



 底が見えない崖を前にして、踵を返す瑠璃だったが、そこには氷鳥が銀の光をまき散らしながら浮遊しているではないか。まずい、と分かっていながら、思考が停止する瑠璃。



「一条!」



 だが、絶体絶命だった彼女の体が勝手に動いた。いや、突き飛ばされたのだ。



「アナトくん!?」



 横から瑠璃を突き飛ばし、危機から救ってくれたアナトだが、彼の足元に氷鳥から放たれた魔力光線が。それは岩肌を破壊し、アナトの足場から安定を奪って、崖の縁を崩してしまう。



「捕まって!!」



 谷底へ落ちるかと思われたアナトだが、瑠璃がその手を取る。九死に一生を得た、と思われたが、瑠璃の背後では氷鳥が羽ばたいたままだ。



「にゃろう、やらせるか!!」



 翡翠の援護により、氷鳥は瑠璃たちから離れて行くが、いつ戻ってくるか分かったものではない。



「一条、僕は大丈夫だから手を離せ」


「そんなの、できるわけないでしょ!」



 しかし、アナトは何度か下を確認しながら言う。



「思ったよりは深くない。それに、下が光って見えるから、水が張っていると思う」



 確かに、ここは海が近い。その可能性もあるが、あくまで可能性だ。確実にアナトを助けるには、何としてでも引き上げなくては。瑠璃は両手でアナトの手首を掴む。



「とにかく、何とか上がって……!!」


「ダメだ、後ろ!!」



 死の予感と同時に、瑠璃の手からアナトの体重が消失する。振り返ると同時に、氷鳥の攻撃を何とか回避するが……アナトの安否が気がかりで、とても戦いに集中できる状態ではなかった。

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