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寒空の下、集う

 瑠璃の幸運は、これだけではなかった。地滑りによって足場は崩壊したが、トラックが移動するには十分な道が残っていたため、さらに先へ進めたのである。また、邪教徒の二人が追ってくる様子もなく、順調に調査を進められると思ったが……。



「何の手がかりもないじゃない!!」



 北へ進めば進むほど、人の気配はなくなり、寒さも増していく。これさえあれば、と思っていたダウンジャケットもクリヤの攻撃によって、穴が開いてしまったし、空を見上げると雲の厚さは増したようで、調査の続行が可能か怪しくなってきた。



「本当に……雪が降るのかしら?」



 伝説とも言える気象現象。コーラルの自然を守るものとして、浮かれていい話ではないが、一目見たいと思わないでもない。ただ、空を見上げると立ち眩みを覚えてしまう。



「もう、ダメ……。取り敢えず、少し休もう」



 魔力がほとんど尽きてしまったため、頭も回らず、瑠璃はトラックの中でしばらく大人しくすることにした。持ってきたわずかな食料を口にしながら考える。



(アナトくんと翡翠は上手くやっているかしら……)



 下手したら、あの二人のせいでトラブルがより大きくなっているかもしれない。余計なことを言ったり、大切なことを言わなかったり。それが原因で厄介ごとが増えていくのである。


 やっぱり、自分が付いていくべきだっただろうか。いやいや、翡翠がいるのだから、何も心配ないはず。



(……私、なんであいつのこと考えているわけ?)



 二人のことを考えているつもりが、いつの間にかアナトの心配ばかりしている。いや、それは間違っていない。だって、翡翠に比べたら、アナトはとんでもない性格なわけだし。



「……いやいや、翡翠も十分とんでもない性格だってば」



 わざわざ声に出し、自らの言葉を否定したところで、瑠璃は前方で揺れる影に気付く。



「あれは??」



 動物だろうか。

 いや、人型のような……。

 目を凝らし、その正体を見極めようとする。



「まさか……ミラージュ!?」



 それは、長い黒髪の女性型アンドロイドであったが、ウッタラでイメージを共有してもらった、ミラージュによく似ている。だが、何やら様子がおかしい。ぎこちない動きで歩いていたが、痛みに耐えるように、蹲ってしまった。


 まずは保護して事情を聞こう、とトラックを降りる瑠璃だったが、その音を察知した女性型アンドロイドがこちらに振り向く。



「ざ、ざ、ざ……くす」



 何か喋った。瑠璃はよく耳を澄ませる。



「ざ、ざく、ざくす」



 ザクス、と言った。

 だとしたら、彼女はミラージュで間違いないが……。



「貴方、ウッタラ村のミラージュでしょ? ボディの調子が悪いなら、腕利きの技師を紹介できるわ。だから……」



 瑠璃は手を差し伸べるつもりだった。しかし、ミラージュがぎこちない動きで、こちらに真っ直ぐ向かってくる様子は、とても友好的なものとは言えなかった。



「ちょ、こっちに敵意はないわよ! 落ち着いて!!」



 ミラージュは瑠璃の言葉が聞こえないのか、十分に接近すると、手刀を突き出してきた。何とか身を反らして躱す瑠璃だったが、体が重たくて仕方がない。


 続けて攻撃されたら、対処できるかどうか……。そんな瑠璃を追いつめるように、ミラージュは回し蹴りのモーションを見せる。



(大丈夫、見えている!)



 バックステップで躱す。そのつもりが、足に力が入らなかった。



(まずい……!!)



 魔力によるガードも間に合わない。このままでは……。



「一条!」



 なんだ、聞き覚えのある声が、と思ったら、瑠璃の目の前でミラージュが倒れる。いや、何者かに押し倒されたようだが……彼女の上には良く知る男の姿があった。



「アナトくん!?」



 どうやら、蹴りが放たれる直前で、アナトがミラージュを押し倒したらしい。そのおかげで助かったのだが、なぜ彼がここに。瑠璃が驚いていると、ミラージュはアナトを突き飛ばして立ち上がってしまった。



「あ、待って!」



 瑠璃の制止も虚しく、ミラージュは山道の中へ消えてしまった。



「せっかくの手がかりが……!!」



 へたり、と座り込む瑠璃だったが、がっかりと同時に安心している自分に気付く。もちろん、アナトが現れたことではなく、アンドロイドの蹴りをもらわなかったことに、ほっとしているのだ。



「いやー、瑠璃ちゃん、危なかったね。大丈夫だったかい?」



 どうやら、アナトだけではなく、心強い援軍も来てくれたらしい。瑠璃は振り返り、声の主を確認する。



「翡翠、貴方も来てたのね」



 翡翠の笑顔に、今度こそ安心する瑠璃であった。

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