謝ってください
そこからは、一方的な展開だった。瑠璃がどれだけ魔力光線を放っても、クリヤを捉えることはない。むしろ、必死になって光線を放ち続ける瑠璃をクリヤは笑うのだった。
「あはははっ! 弱すぎますね、一条瑠璃。その程度で先輩のお嫁さんになる? 身の丈に合わない夢を見るのはやめなさい。滑稽ですよ!!」
「だ・か・らーーー!!」
瑠璃は一瞬だけ視界の隅に映ったクリヤの方を見る。
「私はそんな夢見てないっての!!」
感情のままに魔力光線を連発するが、ただ岩肌を削るだけ。魔力の消費も激しく、瑠璃の足取りは覚束ないようだった。
「だったら、先輩に謝れ!」
瑠璃は何かに弾き飛ばされ、ついに膝を付いた。自分が何をされたのか分からない。恐らくクリヤからしてみると、ちょっと小突くような一撃だったかもしれないが、それを受けて立っていられないほど、瑠璃は疲弊していたのだ。
「あ、謝る?」
意味を理解できない瑠璃の正面に、クリヤが姿を現す。
「そうです、謝りなさい。これまで、付きまとってすみませんでした、と」
勝ち誇ったようなクリヤの表情に、燃え尽きようとしていた瑠璃の怒りが、再び勢いを取り戻した。
「ふざけるんじゃ……ない、わよ」
しかし、体の方は限界が近かった。瑠璃はクリヤに向かって手の平を向けようとするが、上手く腕が持ち上がらない。
「あはははっ! どこを狙っているのです? その角度では岩が削れるだけ。まぁ、しっかり狙ったところで当たらないものは当たりませんけどね!」
クリヤの言っていることは正しい。だが、瑠璃は右手の宝玉に魔力を集中させる。
「おやおや。最後の力を振り絞るおつもりですか? 先輩に対する執着がそうさせるのかもしれませんが、残念でしたね! あの方は貴方のような三流魔女になびくお人ではないのですよ!」
「シャルヴァ!!」
瑠璃は腕が持ち上がらないまま、魔力光線を放った。それは、クリヤの言う通り足元の岩に直撃する。やはり、意味のない一撃のように思われたが、魔力の光が岩に張り付くように、止まっていた。そして、瑠璃の掛け声。
「反転!!」
岩に張り付いていた光が、再び魔力光線となって跳ね上がる。それは、瑠璃とクリヤのちょうど真ん中に位置していた岩で、ワンバウンドしてから放たれた形となった。思いもしない魔力光線の動きに、クリヤは回避できずに直撃を受ける。
「クリヤ!」
ここまで、静観に徹していたプレーマだが、心配の声をあげたようだった。爆炎の中へ走っていくプレーマを見て、瑠璃は何とか撃退した、と息を吐く。
(正直、運が良かった……。使うチャンスがあると思って、魔力を込めた血を落としておいたけど、ギリギリのところでいい場所に立ってくれた。それがなければ、殺されていたでしょうね)
瑠璃は自分の血に魔力を込められる。それは、瑠璃の魔力を遠隔でコントロールする効果を持つものだ。それを意図的に地面へ落としたことで、何とか反撃の糸口を見つけだしたと思ったが……。
「えっ?」
瑠璃の視界が一瞬光った。いや、すぐ横を熱線が通過した。何が起こったのか、瑠璃はすぐに理解する。煙の中から姿を現すクリヤ。そして、その右手は銃身の形状に変化させていた。
(魔力が……足りなかった!?)
確かに、クリヤの肩口はライブスキンが焼けてメカが露出していた。しかし、威力が足りず、破壊するに至らなかったらしい。先程までは、楽しげだったクリヤだが冷たい目でこちらを見ている。
「おい、クリヤ。殺すなと言ったぞ?」
プレーマが制止するが、クリヤの殺意は消えないようだった。
「殺しはしません。手足を焼き切るだけです」
「それもダメだ。俺一人で面倒見る自信がない」
「ならば殺せばいいじゃないですか」
「こら、待て!」
銃身となったクリヤの右腕の先が銀色に光る。まずい、躱す手段がない。瑠璃は心臓がぐっと縮まるような感覚と同時に、白く染まる思考を意識せずにはいられなかった。
それでも、発射の瞬間に体を伏せて躱せば……。何とか生き残る術を考える瑠璃だったが、次の瞬間、足元に妙な揺れを感じた。
「なんだ?? 揺れているのか?」
その振動は、瑠璃だけが感じたものではないらしく、プレーマもクリヤも辺りを見回している。だが、地鳴りと共に揺れは少しずつ激しくなり、プレーマとクリヤの足元に大きな亀裂が発生した。どうやら、プレーマはこの現象の原因を理解したらしい。
「ちっ! 瑠璃の魔法で地面がガタガタになっていたのか!!」
なるほど、と瑠璃は思う。自分の攻撃はクリヤに当たらなかったが、何度も地面や周辺の岩肌を貫いた。その影響で地面が緩くなったのだ。ただ、自分の近くはそれほど揺れは激しくない。だとしたら……。
「先輩、地面が崩壊します!」
「えーい、クリヤ! 着地は任せたぞ!!」
「お任せください! 邪教徒、ゴー!!」
意味不明な掛け声と同時に、プレーマとクリヤの足元が完全に崩壊する。二人は崩れる岩々と共に、崖の下へ落下してしまうのだった。間もなくして揺れが収まり、瑠璃は一人呟く。
「た、助かった……」
それから、彼女はしばらく動けなかった。




