教えの出所は
「そもそもは……私のせいだったんです」
事件の発端を語ってくれたのは、サザンカだった。
「私は引きこもりでした。体力はないし、手先も不器用だし、どこ行っても役立たずと罵られるばかりで……。だから、働くのは諦めて、一日中、ロステクを使って遊びほうけていました」
ロステクで遊べる、という段階で素晴らしい才能の持ち主なのだが、アナトも翡翠も黙って耳を傾けた。サザンカは続ける。
「その日も深夜までロステクを使ってネットワークの中を泳いでいたんです。そしたら、変なメッセージを受信して……」
「どんな??」
アナトが聞くと、サザンカは眉を下げながら答えた。
「貴方の才能をコーラルのために、と」
そこから、サザンカは謎の相手とメッセージを何度か交換した。すると、途中から相手は魔女を名乗ったと言う。
「魔女様から働かない自分を肯定されるうちに、自分しかコーラルの自然を救えないと思い始めました。そこから、ウガルに相談して、一緒に戦わないか、って」
「最初はただ嬉しかったんです……」
今度はウガルが語る。
「引きこもっていたサザンカが前向きに何かを始めようとしている。だったら、俺が全力でサポートしないと、って」
「それでサザンカ団を作ったの??」
翡翠が聞くと、ウガルは素直に頷いた。
「俺が思っている以上に、村にいる若いやつらは、力を持て余していたんだと思います。自分には力があるのに、それを何に向けたらいいのか分からない。魔女様の教えは、そんな俺たちの心の中に、自然と入り込んで、行動を起こさせました」
「無謀だと思わなかったのか??」
今度はスフィアの質問だ。彼は今となっては、ウガルたちと同じ村に住む大人として、威厳ある態度を見せている。そんなスフィアにウガルは反省した様子を見せた。
「武器を少しずつ調達していると、魔女様から連絡があったんです。最強の武器を預ける、って」
「それが、さっきのラストナンバーズ?」
ウガルは頷いた。
「二人の男が運んできました。あ、さっきあのアンドロイドを荷台に乗せて運んできた二人です」
どうやら、その二人は村の人間ではないらしい。しかも、いつの間にか姿を消していた。翡翠は推測する。
「たぶん、邪教徒の仕業だね。フラストレーションが溜まった若者を狙って、正しくない教えを広めようとしたんだ。……それにしたって、コーラルの人間とアンドロイドすべてを殲滅するなんて、大きなことを考えるものだよね」
同意を求めたつもりだが、アナトは無言である。
「アナトくん?」
「ん? ああ……そうだな、極端すぎる考えだと思う」
歯切れの悪いアナトに、翡翠は目を細める。
「何を考えていたの?」
「いや、最近……似たような話を聞いた気がして」
「似たようなって、どんな感じに?」
「自然のために、コーラルに住む人とアンドロイドを全滅させる、みたいな」
翡翠は笑う。
「そんなこと考えるやつに、短期間で二度も出会っているとしたら、もうアナトくんが引き寄せているとしか思えないねー」
「引き寄せる? 僕が?」
心底理解できない、と首を傾げるアナトだったが、二人の仕事が終わったわけではない。サザンカに正しくない教えを伝え、若者たちをけしかけようとした魔女とやらを特定する必要があった。
「ここが私の家です」
「うわー、メカがいっぱい!」
サザンカのテントには、多くのメカに溢れていたが、翡翠は目的のものを瞬時に発見する。
「これでノモスの端末にアクセスしたんだね? 凄いなー、先生の家にある端末より、かなり小型だよ」
それは、アナトが朝食を運ぶときに使うトレイと大して変わらない大きさの薄い石板のようだった。しかし、素材は石ではない。だが、アナトは以前の職場でこれと似たようなものを見たことがあったため、不思議に思うことはなかった。
「じゃあ、ちょっと潜らせてもらうね」
そして、翡翠は端末の前にちょこんと座って目を閉じると、彼女の体が発光し始めた。薄い緑色の優しい色である。アナトは何が起こるのか、しばらく眺めていたが、三十分ほど時間が経つと、翡翠が目を開くのだった。
「いやー、なかなか強固なセキュリティでびっくりしちゃったよ」
ネットワークの中を自由自在に潜って泳ぐ翡翠に、これだけの時間を使わせることが珍しいことだが、それを理解できるものは、誰一人としていない。ただ、アナトが呑気に訊ねた。
「それで、何か分かったか?」
「このメッセージを送った主の、大まかな位置なら分かったよ」
「よし、さっそく向かおう。どっちだ?」
立ち上がるアナトに、翡翠は指を一本立てて言うのだった。
「まぁ、北の方だよ」




