彼女の行き先は
奇声を上げながら、女性型アンドロイドは一番近くに立っていたアナトに襲い掛かった。跳躍すると同時に、空中から放たれる回し蹴り。それはアナトの頭部を弾き飛ばしたかと思われたが、直前で阻まれた。
「ちょっと! アナトくんに怪我されたら、翡翠さん許さないからな!!」
瞬時に翡翠がアナトを庇ったのである。女性型アンドロイドから繰り出された強烈な回し蹴りも、翡翠は片腕で受け止めてみせると、逆に着地した彼女へ蹴りを突き出したのだった。
「ざざざ……!!」
吹き飛ばされ、何度も地面を転がりながらも、やっと顔を上げた女性型アンドロイド。だが、そんな彼女が見たものは、翡翠の小さな手の平だっただろう。
「ほわっちゃあああーーー!!」
翡翠の掌底を顔面に受け、またもひっくり返る。だが、今度は素早く体制を立て直すと、地を蹴って、一瞬で翡翠の左側へ移動した。そこから真っ直ぐと突き出された拳だが、翡翠は身を屈めて躱してみせる。
女性型アンドロイドはさらに、左ストレート、右回し蹴り、左後ろ回し蹴りと連撃を見せるが、翡翠はどれも最小限の動きで躱してしまうのだった。
「なかなか高性能なアンドロイドみたいだけど、翡翠さんにはさらに一枚も二枚も上手なんだ……なっ!」
反撃のミドルキックに、女性型アンドロイドはボディが軋むようだった。だが、翡翠の攻撃は続く。
「ましてや、ウィルスの汚染されている状態じゃあ、まともに戦えないだろう、ね!」
今度は翡翠の肘が腹部に突き刺さり、彼女の体が浮き上がる。綺麗な放物線を描いて、女性型アンドロイドはぐしゃりと倒れ、アナトは思わず身を乗り出すのだった。
「翡翠!」
「大丈夫だよー。ちゃんとメカニックの部分に影響がない程度に攻撃してるから!」
起き上がろうとする女性型アンドロイドに向かって飛び込みながら、膝を突き上げる翡翠。これは、とても無事ではいられない一撃に見えたが、アナトは翡翠を信じて動かなかった。
「さてと、腕でも折っておくかな」
倒れた女性型アンドロイドの背中に膝を置いて自由を奪うと、翡翠は彼女の腕を取り、普通では動かない方向へ強引に曲げてしまう。バキンッ、と耳にれない音と共に、女性型アンドロイドが体を震わせた。
「さぁ、大人しくしててね。すぐアンチウィルスを作ってあげるから」
さすがはコーラルの魔女として、さまざまなトラブルを解決しただけあるのか、翡翠はウィルスを除去も心得ているらしい。しかし、虚ろだった女性型アンドロイドの瞳に光が灯った。
「コタイ、識別……2-8189。コードネーム、ミラ…ジュ。戦闘プログ…ム、起動」
「わっ!?」
完全に制圧したと思われた女性型アンドロイドだが、翡翠の拘束を跳ね返し、強引に立ち上がってしまう。
「ああ、もう! 大人しくしていてよ!!」
翡翠が再び制圧のため、一歩前に出ようとしたが、女性型アンドロイドは目を輝かせる。いや、ただ光ったのではない。両方の瞳から魔力光線が放たれたのだ。
それは、鞭がしなるように右へ左へ揺れて、集会場やテントを破壊する。光が止まり、人的な被害は出ていないことを確認して、ほっと息を吐いた翡翠は、再び女性型アンドロイドの方を見た。
「そっちがやる気なら……!!」
もう一段階、レベルを上げて戦ってやろうとスイッチを入れた翡翠だったが、そこには彼女の姿はない。ただ、魔力の残滓が遠方に感じられる。翡翠はそれを捉えるため、視力を調整してみると、村の外へ走る女性型アンドロイドの背中があった。
「……北に向かって逃走、か」
ここから北に向かえばウッタラがある。謎の女性型アンドロイドと瑠璃が遭遇することもあるのではないか。
「それは弟子を信じるとして、こっちの問題をきっちり解決しますか」
翡翠が振り返ると、腰が抜けて動けないであろうウガルの姿が。その背後には、アナトとサザンカが立っているのだが……無駄に距離感が近くはないか、と翡翠は目を細める。特に、サザンカと言う女はアナトの腕にしがみついて、あまりに馴れ馴れしい態度だ。
「ら、ラストナンバーズを追い返すなんて……何者だ!!」
震えるウガルに詰め寄り、翡翠はそこはかとない苛立ちをぶつけるように、冷たい笑みを広げた。
「言ったでしょう、コーラルの魔女だって。そんなことより、なんでこんなことになったのか……翡翠さん、気になっちゃうなぁ」
「ひいぃぃっ!!」
詰め寄った翡翠に悲鳴を上げるウガル。だが、翡翠は抑え込むように彼の頭に手を置いて、さらに言うのだった。
「誰にそそのかされたのか。君の言う魔女様が何者なのか。正しくない教えの出所をしっかり話してもらうからね」




