サザンカ団の最終兵器
翡翠は集会場から飛び出すアナトの姿を認めた。何を慌てているのか、と思えば、その後ろから槍を持った小柄な女が追いかけてくるではないか。
「待て! 許さんぞ、アナト!!」
「サザンカこそ待ってくれ! 僕は戦うつもりなんてない!!」
「舐めやがって! あれだけのことをして、許されると思うなよ!!」
先程、見張りたちの攻撃を逃げ切ったアナトだが、あの程度の脅威に怪我を負うようなことはないだろうが、どうしたものか。だが、何だか楽しそうだ。自分も混ざろう、と翡翠は駆け出した。
「あ、翡翠さま!」
スフィアの声を無視して、アナトの傍らまで一気に駆ける。
「ねぇねぇ、アナトくん。どういう状況? 私の出番かな??」
「いや、翡翠はもう少し大人しく見ていてくれ。まだ説得の余地はあると思うから」
「えー! そうなの??」
翡翠が肩を落としながら、足を止めると、アナトの背中は一瞬で遠くなり、傍らを妙な格好の女……確かサザンカと呼ばれていた女が駆け抜けた。
「待て、アナト!! 滅茶苦茶になった私の気持ち、どうしてくれるつもりだ!?」
「意味が分からないが、サザンカが満足するまで付き合おう!!」
そこから、槍を振り回すサザンカと、彼女と一定の距離を保って走り続けるアナトの追いかけっこの時間が続いた。最初にアナトに対応した見張りは呟く。
「あいつ、さっきもあれだけ走ったのに……」
追いかけっこは、すぐに終わった。サザンカは、見張り以上に体力がないらしく、すぐに汗をダラダラと流して、赤いメイクを落としながら、早々に失速していったのである。
「はぁはぁ……。もうダメだ」
もう一歩も動けないのか、両手両足を放り出すようにして、土の上に倒れ込むサザンカ。そんな彼女をアナトが上から覗き込んだ。
「大丈夫か?」
「だ、ダメだ……」
「サザンカは少し体力作りに専念した方がいい。これじゃあ、働けないぞ」
「だ、誰が働くか!」
そんな二人を見守る、暴徒の若者たちが小声で囁き合う。
「仕方ないよな、サザンカはつい最近まで引きこもりだったんだから」
「うん。急にサザンカ団を結成しただけで十分凄いよ」
動けないサザンカだが、アナトが彼女に手を差し出した。
「でも、サザンカと遊べて楽しかった」
「た、楽しい? 私と、遊んで……??」
困惑するサザンカにアナトは笑顔で頷く。
「こんなに楽しいことがあるんだ。死ぬために戦うなんて、つまらないだろ?」
サザンカはアナトの笑顔を見て、思考が停止してしまったようだ。だが、アナトは無理やりサザンカを起こすと、彼女をその背に乗せる。
「さぁ、集会場にいる皆にも、つまらないことはやめるよう言ってくれ」
アナトの背の上で、サザンカは何を思ったのだろう。すっかりメイクは取れたはずなのに、再び顔を赤く染めて呟くのだった。
「……うん。アナトが言うなら、そうする」
「ありがとう」
サザンカが隠れるようにアナトの背に顔をうずめたとき、どこからか現れた男が叫んだ。
「サザンカ! もうサザンカ団は解散だというのか??」
「う、ウガル!?」
メガネをかけた細身の男を見て、サザンカが目を見開く。細身の男、ウガルはサザンカに向かって人差し指を突き出した。
「結局、お前は何も成し遂げられない女なのか? ここでサザンカ団を解散させたら、お前はまた引きこもりに逆戻りだぞ!!」
「う、ううう……」
過去を抉るような指摘に、涙を溜めるサザンカだが、アナトが言う。
「そんなことはない。僕も最近知ったが、コーラルにはたくさん仕事があるんだ。サザンカが働き先を探しているなら、僕も手伝えるし、心配することはない」
「あ、アナト……」
サザンカは完全に絆されていた。ウガルもそれに気付いたのか、握った拳を震わせていると、やはり傍観していた暴徒の若者たちが囁き合う。
「ウガルのやつ、サザンカに惚れてたもんな」
「引きこもりから救ってやるって意気込んでたのに、この結果じゃあなぁ」
そんな同情の声が聞こえていないはずのウガルだが、血走った目を仲間たちに向けた。
「もういい!! あれを持ってこい!! もうコーラルなんて……滅ぼしてやる!!」
怒りに身を任せ、とても冷静ではないウガルだが、彼の指示に従い、集会場に消えていく仲間が二人いた。何が起こるのか、とアナトは眉を寄せるが、背中のサザンカは恐れるように声を震わせる。
「も、もしかして……ウガル、あれを使うつもりか!?」
動揺するサザンカの視線を受けて、ウガルは歪んだ笑みをうかべて言うのだった。
「そうだ! 魔女様から授かった最終兵器……ラストナンバーズを起動させる!!」
その言葉に、アナトと翡翠以外の人間が、どよめきをあげるのだった。




