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アナトの交渉能力

 アナトは自分の家に帰るような足取りで、集会場の正面入口へ近付いた。もちろん、そこには見張りが二人立っていて、近付く不審人物に警戒心を高める。



「おい、貴様! それ以上動くな!」


「何者だ! 名乗れ!」



 二人の見張りに言われた通り、アナトは足を止めて、自らの素性を明かす。



「僕はアナト。隣のクシェトラからきた。君たちの代表に会いたい」



 見張りの二人は、顔を見合わせる。アナトがあまりに落ち着いているため、何も事情を知らない男が迷い込んだのでは、と思ったのだ。なので、見張りの一人は槍を見せびらかすように振るってから、アナトに警告する。



「悪いが取り込み中だ。お前も騒ぐようなら、酷い目にあうぞ!」



 これだけ言えば、物騒な厄介ごとが繰り広げられている、と誰でも想像するだろう。見張りはそう考えたようだが、アナトには通用しなかった。



「取り込み中だってことは知っている。だからこそ、代表に会いたいんだ。取り合えず、中に入れてくれないか?」



 淡々と自分の目的だけを伝えてくるアナトに、見張りたちは一瞬不気味に感じたようだが、彼らは彼らで役割に集中することにしたようだ。



「聞き分けの悪い性格だと後悔するぞ? こんな風にな!!」



 見張りの一人が槍を突き出す。それは、ただの威嚇だったらしく、目の前の刃先に手を挙げるアナト。一見、降伏したように見えたのだが……。



「暴力は困る。僕は話し合いにきたんだ」



 引き下がらないアナトに、見張りの二人は顔を見合わすが、一方は仕方なしと言った調子で、槍を構えた。



「わかんねぇ野郎だ。血を見てからじゃあ、謝っても……って、おい!!」



 見張りが怒鳴ったのは、アナトが背を向けて走り出したからである。



「待て!」



 反射的に追いかける見張り。追いかけっこは、集会場の目の前をぐるぐる回って、延々と続いた。もう一人の見張りも参戦するが、状況は変わらず、アナトが絶妙な距離感を保ち続け叫ぶだけ。



「暴力は困ると言っているだろう!」


「うるせえ! 止まりやがれ!!」



 しかし、見張りの二人は槍を振り回しながら走っているせいか、アナトよりも先にスタミナが切れてしまったらしい。



「ぜぇはぁぜぇはぁ……」



 膝を付いて、バテてしまった二人を見下ろすアナトは、ひょいっと手を伸ばして、槍を奪い取った。



「代表に会わせてくれ」



 アナトは確認するが、見張りの二人は息が切れてしまい、答えられないようだ。それに気付かないアナトは、眉を寄せてから急かすように言う。



「会わせてもらえないのか?」


「ま、ま……って」



 話したくても話せないようだが、アナトは彼らのつらさを理解できないのか、ただ急かすのだった。



「もう勝手に入るが、構わないな?」


「く、苦しい……。ちょっと……待って!」



 辛うじて発した声に、アナトは素直に従う。少し時間をもらって、見張りたちは喋れるほどまで回復したが、槍を奪われたこともあってか、アナトを止める気はないようだった。



「あれだけ走っても、表情一つ変えないなんて……何者なんだ?」



 見張りの質問にアナトは平然と答える。



「だから言っただろう。隣のクシェトラから来たアナトだ。それより、早く代表に会わせてくれ」



 そのつもりはなかっただろうが、アナトが振り返ったせいで槍の先が見張りたちの方へ向き、彼らは降伏の意思を示すよう両手を挙げた。



「そ、それは分かった! せめて目的を教えてくれ!」


「君たちが暴動を起こしている、と聞いたから説得にきた。これ以上待たせるなら、勝手に入るからな??」


「分かった! 分かったから、まずは槍を下ろしてくれ」



 思いのほか、素直に槍を置いたアナトに、見張りたちは不意打ちを迷ったようだったが、堂々とした態度に、隙はないと判断したようだった。見張りの一人が言う。



「よ、よし。では、リーダーのところに案内する。だが、一つだけ約束してほしい」


「なんだ?」


「俺たちにも面目ってものがある。走り回った末に動けなくなったのは秘密にしてほしい。あくまで一人で話し合いにきた、あんたの覚悟を買っての判断だということにしてくれ」


「分かった。僕は君たちのおかげで中に入れる。そういうことだな」



 見張りたちは、疲労から絞り出すように笑みを見せると、やっと覚悟を決めたらしく、集会場の扉を開けた。


 入口の奥は小奇麗なホールが広がり、そこにも見張りが一人立っていたが、表向きの事情を話すと奥へ進むよう促された。そして、奥の部屋はさらに広い空間となり、捕らえられた大人たちの姿が。誰もが手を縛られ、目隠しされた状態で座らせられている。



「リーダー! クシェトラからアナトがきました!」



 見張りが奥に向かって声を張ると、全員の視線がこちらに向けられる。誰がリーダーなのだろう。アナトが黙って待つと、一歩前に出るものが。



「クシェトラのアナトとは……何者だ!?」



 勇ましく見張りたちに問いただすのは、恐らくは小柄な若い女だった。なぜ、アナトが一瞬で若い女だと判断できなかったかと言うと、彼女は厚いメイクで顔を赤く染めていたからだ。


 しかも、どう見ても安っぽい手作りの王冠を頭に乗せている。リーダーとして威厳を現しているのかもしれないが、無関係の人間からしてみれば滑稽な姿である。


 そんな彼女は真っ直ぐアナトの方へ向かってきたかと思うと、隣に立つ見張りの男の腹に、何の前触れもなく拳を叩き込んだ。ぐぅ、と背中を丸める見張りに女は言う。



「私の許しを得ず、なぜ部外者を通した!!」



 全力で走り回った後の一発だ。痛みに膝を付く見張りだったが、さらに蹴り飛ばされてしまう。完全に気力が尽きた見張りを見下ろしながら、女が叫ぶ。



「私を舐めているのか!? 私はコーラルを人々の支配から解放する戦士、サザンカだぞ!!」



 女、サザンカはその小柄な体から発しているとは思えない大声で名乗ると、アナトの方を睨み付けるのだった。

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