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寒すぎる!

 何とか邪教徒たちによる妨害を免れた瑠璃だったが、トラックまで戻るものの、彼女の心は折れかけていた。



「だ、ダメだ。寒すぎる……。この服装じゃあ凍えちゃう」



 寒さはさらに増していた。しかも、この異様な曇り空である。



「本当に雪でも降るんじゃないの??」



 まさかと思いながら、瑠璃はホームタウンであるクシェトラに戻ることにした。到着するころには日が落ち始め、さらに寒さは増すかと思われたが、ウッタラ付近よりは暖かいようだ。



「まずは服よね。……何かあったかなぁ」



 着込めるだけ着込めば、何とか凌げるかもしれない。と、自分のテントに戻る瑠璃だったが、そこにちょうど帰ってきたアナトの姿があった。



「お、一条。おかえり。何していたんだ?」


「……何って、仕事よ」



 今朝のことを思い出すと、どんな態度で接するべきか分からなくなってしまった。まずは自分に何の相談もなくアキーバへ通っていることも引っかかる。


 彼には彼の自由があって、何かしらの目的があるとは思うものの、何か一言あるべきではないか、という謎の束縛……いや、監督者としての気持ちだ。そして、もう一つは藍田による余計な一言。



 ――アナトくんの方は、貴方に恋しているのですから。



 いやいや、そんなわけがない。瑠璃はぶんぶんと音を立てて首を横に振り、笑顔でこちらを見ているアナトを問い詰めることにした。



「あんたこそ、どこ行ってたのよ! 無職のくせに、出歩くんじゃないわよ」


「酷いな。もう無職じゃないんだぞ」


「そうなの……?」


「ああ。まだ見習いだから給料は低いけど、そのうちクシェトラでも役に立てるように頑張るつもりだ」



 どんな仕事なのだろうか。かと言って、干渉しすぎるのもおかしいかもしれない。



「あれー、二人とも帰ったのー??」



 瑠璃が迷っていると、少し離れた場所にあるテントから、緑色の髪の毛が特徴的な少女、翡翠が顔を出した。



「あ、翡翠!!」



 師である翡翠を見て、飛びつくように駆け寄る瑠璃。



「聞いてよ!! 超ムカつく女に襲われてさぁ……!!」



 アナトのことはそっちのけで、瑠璃は昼間にあった出来事を話し始める。特に、クリヤというアンドロイドに苦戦したときのことを重点的に。



「うーん、移動スピードが速いアンドロイドかぁ」


「そう、何とか攻略法はない?」


「同じくらい速く動けば?」


「できたらやってるっての!」



 そこから、二人はクリヤの攻略について話し合った。辺りが暗くなっても気付くことなく。



「確かに、その方法なら行けるかも。でも、私にできるかな?」


「私にできるんだから、瑠璃だってできるよー」


「いやいや。あんたは特別でしょ。全部を真似できないわよ」


「そんなことないよ。アンドロイドの戦闘プログラムは、魔女の戦術を再現したものなんだよ? だから、アンドロイドにできることは、魔女にもできると言うか、魔女にできることだから、アンドロイドもできるんだよ」



 しかし、翡翠が授けた秘策は、瑠璃にとって一度も試したことのない技であった。



「こりゃ徹夜で特訓かなぁ……」


「大丈夫! 瑠璃はこの手の魔法は得意分野だからさ」


「だと良いけど……。あれ、アナトくんは?」



 話が一段落ついたところで、傍にいたはずのアナトがいないことに気付く。周囲を見回すと、ランタンを手にして、こちらに歩いくるアナトの姿を見つけた。



「話は終わったのか? じゃあ、ほら。三人で食べよう」



 彼は大きなトレイに乗った三人分の食事を片手で運んできたらしい。



「えええー、一緒に食べるの??」



 声を弾ませる翡翠に、アナトは笑顔で頷く。



「先生に事情を話したら、たまには良いんじゃないかって」


「こんなの初めてだよー!」



 はしゃぐ翡翠。クシェトラのルールとして、食事は全員で一緒に取る……というものがある。ただ、そのルールから除外されている翡翠にとっては、新鮮な体験なのだ。



「確かに、たまには……いいかもね」



 純粋に喜ぶ翡翠と、のんびりしているようで気の利くアナト。二人が笑顔で交わしながら、食事を前にする姿を見て、瑠璃もこの時間を尊いものに感じた。週に一回くらいなら、許可が出るかもしれない。今度、藍田に交渉してみよう……と思うのだった。



「でも、夜になったら、さらに寒いんだけど!!」



 瑠璃は震える。しかし、今回の事件は天気予報を盗んだアンドロイドと、異常気象だけではなかった。次の日の朝、新たな事件が舞い込むのである。

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