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今日も元気に

 背中越しに激しい光と熱を感じる。後方で何度もクリヤが魔力光線を放っているようだ。もし、足を止めたら、次は自分の背中が焼き切られてしまうだろう。



「けど、黙ってやられるわけには!」



 瑠璃は木の影に逃げ込みながら振り返ると、銃身のような形に右腕を変化させたクリヤの姿を認める。同時に、放たれる閃光。首を引っ込めると、すぐ真横を銀の光が熱を持って通過した。



「本当に容赦ないわね!」



 もう一度木の影から顔を出しつつ、今度は反撃を試みる。



「シャルヴァ!」



 瑠璃の手の平から放たれる青い閃光は、吸い込まれるようにしてクリヤを襲う。が、彼女は直撃する寸前で消えてしまう。いや、高速移動で木々の間を駆け抜けているではないか。



「まずい!」


「遅いです、一条瑠璃!」



 瑠璃の危機察知は決して遅くない。ただ、クリヤの移動が速すぎた。彼女は既に瑠璃の背後に回っていたのだ。



「なんの!」



 それでも、瑠璃は迎撃に移り、魔力を込めた後ろ回し蹴りを叩き込む。が、クリヤは平然と腕で受け止めてしまった。



(でも、分かった。こいつは、大雑把な移動速度は速いけど、格闘戦みたいな細かい動きはそれほどでもない。下手に離れて戦うよりは、至近距離の打ち合いの方がチャンスはある!)



 瑠璃は続けて、身を低くしながら足払いを放った。しかし、クリヤは後方に飛び退いて回避しつつ、再び右腕を銃身に変化させて、突き出す。だが、その動作に関しては瑠璃の方が速かった。



「シャルヴァ!」



 青い閃光が空中のクリヤを追撃する。今度は直撃と思われたが、彼女の体は銀色のバリアに守られていた。涼しい顔で着地するクリヤを忌々しく思いながら、瑠璃は一気に距離を詰めて、くるりと回転しながら跳躍し、足底を突き出してみせる。


 いわゆるローリングソバットという蹴り技だが、これが見事にクリヤの鳩尾を突き刺した。ドスンっ、と鈍い音を立てながら後退するクリヤだが、顔を上げて瑠璃を見る表情からはダメージらしきものは見えない。



「貴方は本当に、人を怒らせる才能に溢れているようですね」


「急に難癖付けてきたのはそっちでしょ。私の方が一枚上手だったからって、イライラしないの」



 余裕を見せる瑠璃だったが、実際のところは焦っていた。二人の位置関係が、接近戦に持ち込むには遠く、どう考えてもクリヤが有利だったからだ。


 もちろん、魔力光線の撃ち合いはもってのほか。ここから、どのように戦うべきか……。息を飲む瑠璃にクリヤが宣言する。



「二度と先輩に近付けないよう、切り刻んでやります。……覚悟!」



 考えがまとまらぬうちに、クリヤが動いた。しかし……。



「おいおい。そこまでだぞ、クリヤ!」



 どこからか、よく通る声があった。クリヤはリモコンで停止ボタンでも押されたように、ピタリと動きを止める。



「せ、先輩……」



 木々の向こうから、こちらに歩いてくるプレーマの姿があった。



「お前なぁ。どんだけ強く殴るんだよ。人間は割と簡単に死ぬんだぞ?」



 そこが殴られた箇所なのか、後頭部を何度も撫でながら、プレーマは瑠璃とクリヤの間で足を止める。



「さぁ、行くぞ。俺たちの仕事は、瑠璃の相手じゃない」


「し、しかし……いつかは教団にとって邪魔な存在になります。ここで排除すべきです」



 拳を握りしめ、強く主張するクリヤだが、プレーマは肩を落としながら彼女を宥める。



「あのなぁ、教えにもあるだろ? 己の役割を理解して、それを真摯に果たせって」


「それはニルヴァナの教えです! そういうのを破ってこそ邪教徒。やはり、一条瑠璃はここで排除です!」


「待て待て! 今のはなしだ!」



 案外、と言うべきか、クリヤは聞く耳を持つらしく、プレーマの言葉を待った。ただ、プレーマは彼女を説得するだけの言葉が、なかなか見つからないらしい。そこに助け舟を出したのは瑠璃だった。



「ちょっと、プレーマ。この子、あんたは私のせいで信仰心に揺らぎが出ている、って言ってたわよ? 私のこと、迷惑なら二度と近付かないでくれる??」


「なんだと?」



 プレーマがクリヤを睨むと、彼女はあらぬ方向を見て誤魔化そうとする。



「クリヤ、誰の信仰心が揺らいでいるんだ? そんな適当なことを言って、噂が広まったら、マーユリー様に祈りを叶えてもらえなくなるだろうが」


「そもそも先輩の祈りは正しくない祈りだからいいじゃないですか」


「俺たちは邪教徒だぞ? 否定された祈りを捧げてなんぼなの。それにな――」



 プレーマはクリヤの前に立つと、そっと彼女の頬に手を当てた。



「この後もお前には頑張ってもらわないとならないんだ。そんな大切な後輩に、こんなところで消耗されたら……困るだろ?」


「せ、先輩……」



 クリヤは頬を赤く染めると、プレーマに背を向けてしゃがみこみ、何やら必死に感情を抑え込んでいるようだった。理解できない展開に瑠璃が呆然としていると、プレーマがこちらを見て、パチリとウインクしてみせる。まるで、自分が瑠璃を助けて見せた、と言わんばかりに。



「分かったら行くぞ、クリヤ。俺は寒いから早く仕事を終わらせたいんだ」


「は、はい!」


「お、いい返事だな。よーし、今日も元気に(よこしま)っちゃうぞー!」


「おー!! 邪教徒、ゴー!!」



 去って行く二人の背中を見送ってなお、瑠璃はどのように感情を整理すべきか、分からないかった。だから、瑠璃は一人呟く。



「なんなの、あいつらは……」

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