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プロローグ③ 変わった客

 瑠璃がウッタラに向けて出発する前日のこと。まだ異常気象の予兆もなく、アナトはアキーバで知り合いの技師に会っていた。



「ここでソルダリングだ。低融点合金を熱で溶かして、接着させる」


「なるほど……」



 女性型のアンドロイド、ヤクシジは動きの少ない青い瞳で指示を出し、アナトはそれに従う。細かい作業が性に合っているのか、少し前に使い始めた工具も手に馴染みつつあった。



「アナト、お前はなかなか筋が良い。そろそろ簡単な修理なら任せられるかもしれない」


「ヤクシジの教え方が親切だったおかげだと思う」


「顔に似合わず世辞を言えるのか」


「世辞じゃないよ」



 (はた)から見れば、とても親しい関係には見えない。そんな必要最低限な笑顔を交わしながら、二人は信頼関係を積み重ねていた。人間からしてみると、なかなか心を開かない印象がある旧型のアンドロイドだが、ヤクシジはアナトに対して、ある程度は心を開いているようだった。



「次はこっちだ。アンドロイドの頭部を開いて、メカニックブレインを取り出す練習だ」



 作業台の上に置かれる男性の頭部。目が開いたままなので、不気味に思えるが、それは大昔に役目を終えたアンドロイドのものらしい。



「人間で言うところの脳を取り出す、っていうことか」



「ああ。これができるようになれば、ボディを大破させてしまったアンドロイドを助けられる可能性がある。とは言え、メカニックブレインはロステクだ。私たちアンドロイドも構造を理解しているわけではない」


「簡単な修理で救えるケースもある、ということか?」


「その通りだ。では、まず後頭部にあるセーフティボタンを……」



 ヤクシジが説明を始めようとしたところで、店を訪ねるものがあった。



「いらっしゃい」



 見習いのアナトは素早く対応するため、奥の作業場から表に出ると、そこには黒い女が立っていた。黒いというのは、身に着けたドレスだけでなく、頭髪も一色に揃っているからだ。


 そして、やはり同じ黒色の瞳がアナトを見る。それは決して強い視線と言うわけではないが、アナトの思考を止める何かがあった。



(なんだろう、雰囲気が一条に似ている……?)



 顔が似ているわけではない。目の前の女も美人であることに間違いないが、系統は瑠璃のそれと異なる。ただ、確かに瑠璃と似た何かが、確かに感じられたのだ。



「あの……何か御用ですか?」



 しかし、その女は店の入口の前で立つだけであり、決して中まで足を進めようとしない。それどころか、アナトの姿を見ると後退って半身だけで店内を覗き込むような形となった。どうも、店に入ることを恐れているように見える。



「大丈夫ですか?」



 アナトが再び声をかけると、女はさらに引っ込んでしまう。ぎりぎり顔半分だけ店の中を覗くような状態だが、もしかしたら、ただの冷やかしかもしれない。アナトは無視するべきかと迷ったが……。



「しゅ、しゅ、修理を」



 喋った。どうやら、客で間違いないようだ。



「修理を、お願い、します」



 そう言いながら、女は顔を引っ込めてしまったが、ぬっと右腕だけ店の中へ。何をしているのだろうか、とアナトは首を傾げるが、よくよく見ると、女の手は何かを握り締めている。


 どうやら、小型メカの修理を依頼したいらしい。アナトがそれを受け取ろうと歩み寄ると、彼女は手を引っ込めてしまった。



「あの……」


「ご、ごめんなさい。極度の、人見知りで、近付かれると……怖いんです」



 アナトはこれまで「人見知り」という性格に出会ったことがなかったため、いまいち理解できなかったが、彼女の恐怖心だけは何となく感じ取れた。



「分かった。僕はカウンターの奥にいるから、とりあえず店に入ってもらえないだろうか?」



 アナトの提案に、女はゆっくりと顔を出したが、目が合うとすぐに引っ込んでしまう。そんな面倒を繰り返しながらも、女は何とか店に入ってメカをカウンターの上に置いた。


 長方形の物体は、手で握れるほどの大きさで、小さなボタンがいくつかある。それだけのメカだった。



「リモコンだな」



 横からヤクシジが覗き込み、その物体の正体を言い当てると、女はカクカクと頷いた。



「ひ、久しぶりに使ってみようって触ってみたら……は、反応しなくて。バッテリが切れているだけかもしれないけど……」


「原因を特定するために、時間をもらうが構わないか?」



 ヤクシジの質問に、女は頷いた後、店の隅に移動する。何かに怯えるように背中を丸める姿を見て、アナトは初めて見るタイプの人間だ、と思うのだった。



「アナト。破損状況を確認するから手伝え」


「分かった」



 作業場に戻り、ヤクシジに指示をもらいながら、リモコンの中身を確認してみる。ヤクシジが見る限り、破損が原因ではないようだ。



「これはロステクだな。彼女の言う通り、バッテリ切れだろう。チャージするには、ロステク時代の配線コードを必要とするが……ちょうど切らしているな」


「ロステク時代の配線コードって、どんな見た目なんだ?」



 アナトが質問すると、ヤクシジは「これだ」と手の平を見せる。すると、彼女の手の平に裂け目が入り、球体のレンズが現れると、その上に映像が浮かび上がった。黒い配線コードのようだが……。



「……正直、他の配線コードと何が違うのか、僕には分からないな」


「ロステク時代の配線は中身が金色だ。こんな感じに」



 ヤクシジの手の平が映し出す画像が変わる。配線コードを切った断面が映し出されているらしい。



「そ、それなら」



 二人が話し合っていると、客の女がいつの間にが作業場に顔を出していた。



「この近くにある遺跡で、見たこと……あります」

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