閑話《Ω軸の発見》
設定を新人研修の講義形式で説明した話で、主要人物は登場しません。
新入社員研修2日目
女性講師:「Ωコアの転送インフラに欠かせないΩ軸。
ここから先は、その発見について説明します。
Ω軸とは、4次元を構成する座標軸のことです。
麦野理論によって時間軸の前に必要な構成要素が存在すると提唱されていたのですが、4次元目の構成要素を時間軸だと思い込んでいた人類にはそれが想像出来ず、麦野理論は単なる目新しいだけの理論であるとされて来ました。
ですが、これはΩコアの発見によって覆されます。
Ωコアは『時間は並行に進む』という麦野理論の学説を重要視していました。
そして、時間の波長解析と、波長を変えるフィルタリング技術に成功した際にも、その直接使用にSTOPを出し、T軸の前に必要なその軸の解析に入りました。
麦野理論の中核である、『 n 次元の構成点数は n + 1 である』という理論に基づき、5つ目の点を探す作業を繰り返しました。
その中でΩコアは、麦野理論の4次元の図に注目。
3次元の座標の考え方に立ち戻り、"新たな軸は、空間の新たな座標である"という仮説を立てます。
そして3次元の中で発見の出来ない新しいその点を探すために、Ωコアは情報の存在である自分の特性を利用し、自身を再定義することを試みます。
その流れを図形で説明します」
女性講師の後ろに3Dホログラフで、三角錐が表示される。
女性講師:「これは麦野理論で3次元空間を表現する際に使われる三角錐です。
n + 1 の法則により、4つの点で構成されています。
Ωコアはその4つの点を利用し、自身が情報存在であることを活かして、自身を四角形、平面であると再定義しました」
ホログラフの三角錐が分解され、正方形が形成される。
女性講師:「その四角を既に解析に成功しているT軸、時間の力で捻る方向に歪めていくと、このように新しい交点"Ω"が誕生しました」
女性講師:「Ωコアがその新しい交点を解析した結果、
既存の3次元空間では説明出来ない性質を持つことを発見しました。
その後、その新しい交点に座標軸としての役割を与えることで、麦野理論にのっとった4次元を構築。
Ωコアによって発見された軸を"Ω軸"。
その発見に際して作られた交点が"交点Ω"と名付けられています。
現在の転送インフラは、物理的距離を持たないそのΩ軸を通ることで、情報や物の即時転送を可能にしていますが、明日学んでいただくラット実験により、Ω軸とT軸を利用した生物の転送は固く禁じられ、その研究も、国連によって凍結を指示されています。
現在では国連直轄のUnited Dimensional Technology Commission (国際多次元技術委員会)、UDTCが発足され、その役割を引き継いでいます。
なお、現在の転送システムはΩコアの演算負荷軽減のために宇宙規模での座標設定は行わず、地球の自転および標準気圧を使い、地表を絶対的な基準座標として設定しています。
簡単に言うと、地球上に住所をつけて基準にすることで、地球の自転、公転、太陽系や銀河の移動による座標のズレを計算しなくて良くなるということですね。
また多次元を繋ぐ空間接続、Ω軸は非常に繊細であり、接続面の両端で一定以上の圧力差が生じた場合、安全装置によって接続が強制遮断されるという性質を持っています。
具体的には通常の転送インフラは標高0〜2000mを接続し、それ以上の地域への転送には中継所を通しての転送が行われており、それを超える気圧差は、設定により許容されていません。
逆を言えば、地球上の安定した環境下だからこそ、この転送インフラは成立しているのです。
これでΩ軸の発見については終わりですが、何か質問はありますか?」
新卒:「3次元を三角錐で表すというのが、どうしてもイメージがつかないのですが」
女性講師:「その感覚はとても良く分かります。
ですがこれは、3次元を三角錐と定義しているという訳ではないんです。
次元を構成する、最小単位を使うことで、概念をシンプルにしたというだけなんです。
実際、3次元的座標を示すのには、三角錐より立方体の方が都合がいいですよね?
でも、皆さんの周りは世界が立方体ということではありません。
例えば視力1.5の人が、あるサイズの文字を読める範囲を可視化したら、球になります。
このように、3次元というのは三角錐でもあり、立方体でもあり、球でもあります。
そして、宇宙自体の形はどんな形かすら観測出来ていません。
その中で、それぞれの次元の違いを簡単に定義出来るのが、次元を構成する最小単位である、n + 1 であり、三角錐というだけなんです。
ちょっと遠回りな説明ですが、知りたかったことは掴めましたか?」
新卒:「ありがとうございます。
空間を三角錐として定義している訳ではないということが分かって、スッキリしました」




