第4話
「お前の人生に関しては、俺が責任を取る」という言葉に、静の脳内メモリがキャパオーバーを起こし、数秒間の沈黙が流れる。
静:「…それって、言ってる意味分かってる?
……プロポーズ…みたいに聞こえるんだけど…」
震える声で静が質問する。
綱:「ん?」
静:「は?」
綱:「………ああ、いや、そういうことか。
プロポーズではないが、さっきの言葉は告白ととってもらってもいい。
こんな危ない橋を渡らせるんだ。
ただお前を護るとかじゃなく、関係もハッキリさせておいたほうがいいな」
静:「…そんなこと言われたら、手伝わないわけにいかないじゃない。
……答えは、YESよ。
…どちらの要請に対してもね」
綱:「助かる」
静:「それ、手伝うことに対してでしょ?
彼女に言うことはないの?」
綱:「よろしくお願いします」
綱はテーブル越しに手を差し出して来る。
静:「私が言わせてるみたいじゃない。
実際、私が言わせなきゃ言ってくれないんじゃない」
静は耳まで赤く染まった顔を背けながら、綱の手を取る。
綱:「遅くなったが、さすがにこのままだと不審に思われる。
注文するか。
とりあえずビール………じゃないな。
ワインかシャンパンがいいか?」
静:「…ビールでいいわよ。
今更気取られても、むず痒いじゃない」
綱はARデバイスの電源を入れ、メニュー表を視界に表示する。
耳につけたイヤーカフ型のインターフェイスが、コンタクト型ARデバイスから視線の動きを受信し、指先の操作なしで注文を入れる。
─ 翌日 ─
静の依頼で資料室へ行っていた女性社員が、居室に戻って来るなり、ニヤけながら寄って来て静のデスクに紙の書類を置く。
女性社員:「主任、旦那様が来ましたよ?」
静:「旦那じゃなく……彼氏よ」
顔を赤く染めた静は、MRデバイスでデスク上に表示された画面にスタイラスペンで書き込みを続け、視線を上げずに答える。
部屋中から、驚愕の声が漏れる。
「あの鈍感男が」とか「ちょろイン主任の方から?」など、いろいろな声が聞こえる中、ドアをノックする音で部屋中が沈黙する。
綱:「静、今日はいたんだな」
静:「私の次の出番は3日目の午後、明日のラット実験の説明よ」
綱:「そうか。
それはともかく、依頼されていた新卒用のデバイスを届けに来たぞ。
ここに仮配属される4人の分だ。
あそこの机でいいのか?」
静:「そうね。
あそこの4つが新人用だから、そこに設置して貰えると助かるわ」
離れた机で綱が作業を始めると、また先ほどの女性社員が静の元へ寄って来て耳打ちをする。
女性社員:「彼氏さん、向こうの出世頭ですよね?
それなのにいつもこの居室へは部下じゃなく本人が来る。
…愛ですね」
静もヒソヒソ声で答える。
静:「同期だから、管理部門を通さずに私が直接頼んじゃってるってだけよ」
女性社員:「じゃあ、主任からのご指名だったんですね。
他部署から鉄の女と呼ばれる主任の、熱烈なラブコール。
妬けちゃいますね」
言うだけ言ってスキップ気味に離れていく部下に、静は頭を抱える。
綱:「セットアップは終わった。
あとは説明書で足りない部分はサポートしてやってくれ」
綱は話しながら、静のデスクに置かれたラット実験の紙の報告書のコピーに目をやる。
綱:「今晩、空いてればまた飲みに行かないか?」
静:「ありがとう。
分からないことがあれば、私達の方で対応するわ。
…今晩、いつもの店に行けばいいの?」
綱:「昨日のとこで待ってる」
綱が部屋を出ると、居室内の女性社員が黄色い声をあげて静のデスクに集まって来る。
女性社員:「いつからですか?どっちから?」
静:「昨日から……一応向こうからよ」
顔を赤く染めて俯いて話す主任に、周囲は色めき立つ。
女性社員:「綱さんは管理部門の係長なのに、主任から直接依頼して本人に来てもらってたんですよね」
女性社員:「それでうちの部署には、係長本人が来てたんですね。
愛情表現だと思ってたのに、うちのちょろイン主任からアプローチさせるなんて、50点は減点ですね。
ところで、なんて告白されたんですか?」
俯いている静の、耳まで赤くなる。
中年男性を形にしたような部長が手を叩く。
部長:「ハイみんな、仕事に戻ろう。
主任いじりはそこまでにしようね。
それに綱くんに来て貰っていたのは、静くんがここに配属された時に仕事を教えていた局さんが、当時の管理部門の部長に頼んでくれたからであって、静くんのわがままじゃないからもういじらないようにね」
部署の全員の視線が、この居室のお局様こと、局さんに注がれる。
局さんが部長を睨み、部長が萎縮したところで全員が仕事に戻る。
何かと静を気にかけている局さんなら、詳しい話を聞いているかもしれない。
だが、口煩いお局様が関わって来るなら、これ以上の深掘りはやめよう。
居室にいる全員の意思が揃う。
部長は自分を睨んで来るお局様の方を再度見る。
目が合った瞬間、睨んでいた目元と共に、口元が緩む。
2人で悪役になろうという意図が伝わったようで、ホッと胸を撫で下ろした。




