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Ω異常域【多次元観測AI】  作者: 麦野ライト


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第11話

月曜朝の職場のミーティング前、部長に部屋の外へ呼び出される。


部長:「綱くんがまだ出勤していないらしいんだ。

それに連絡もつかないらしい。

遅刻なんてしたことがないらしいし、連絡もなく欠勤するような子じゃないのは、僕も良く知っている。

綱くんから何か聞いてないかな?」


静があからさまに動揺し、その視線を部長の目が追う。


静:「…もしかしたら、倒れているのかもしれません…。

私の看病をしてくれたので、…うつしてしまったのかもしれません…。

綱も一人暮らしだから…」


部長は数秒間目を瞑り、目を開いて頷く。


部長:「今日はいいから、行って来なさい。

午後の避難訓練での新人の面倒も、僕達で見ておくから心配しないで。

合鍵は貰ってる?」


静:「貰っています!」


部長:「これは恋人の甘い時間をつくるためじゃなく、他の人が行ってうつされても困るからだよ?

君なら罹(かか)ったばっかりだから免疫があるはずだ。

でも、マスクはすること。

本当に倒れているようなら、救急車を呼ぶこと。

綱くんをよろしく頼んだよ。」





綱のアパートへ到着する。

静は部屋の前に立ち、鍵を見つめる。


しばらくは動かないって言っていたのに、急になんで?

それとも、何かに巻き込まれたの?


鍵を開けて中へ入る。


荒らされている様子はない。

新刊は電子書籍ぐらいしか発売されないのに、今どき珍しく本棚があり、背表紙の色とタイトルで並べられている。

一番下の棚は、同じブックカバーで統一されている。

拘りの強い綱らしい。


荷物はそれほど多くはないが、それぞれがかなり拘って選んでいるのが分かる。


ベッド・お風呂・トイレ、全てを探したが、やはり部屋に綱の姿はなかった。



そして、紙の資料も見つけることは出来なかった。


綱を探そうにも、手掛かりがなければ動きようもない。

なら、綱に頼まれた書類の持ち出しをしよう。

その中に手掛かりもあるかもしれない。



綱は、普段のARデバイス装着時に映らないようにしていると言っていた。

ならば、もちろん見えるところに直接置いてあるなんてことはない。

でも、直接場所を言わずに私に託したなら、見つけられないような所ということでもないはず。


言っておいてくれればいいのに、とも思うけど、あの時すぐに動かないと言ったのは、多分嘘じゃない。

なら、突発的に何かがあったのなら仕方ない。

…私が、話を続けられない空気を作ってしまったから。

また、今度説明するつもりだったんだと思う。



隠す場所は、会社の人が来ても見つからない場所でないといけない。

木を隠すなら森の中ということを考えるなら、紙の本が怪しい。

紙の書類だと知っている私が見つけるようにしてあるとしたら、真っ先に紙の本を怪しんで探すというのは理にかなっているはず。


本を端から開いていく。


綱と坂田は仲がいいから、家に来た筋肉バカが開きかねないマンガは除外出来る。



ふと違和感に気づいた。

一番下の棚の本だけ、カバーが付いている。

最初は、背表紙の色で並べてあるほど拘りの強い綱が、背表紙の色が揃わないものにカバーをかけて揃えているのだと思っていた。

でも、部屋に置いてあるものを見ると、買うもの一つ一つに拘って、統一性を重視しているのが分かる。

そもそも、拘らないのであれば、古い本であっても電子書籍で買えばいい。


カバーを外すと、カバー裏側への書き込みや、挟まれたメモが出て来た。

全てのカバーを外し、メモと一緒にバッグに入れる。


カバーを外した本を戻すと、カバーをしていなくても背表紙の色は揃っていた。





自分のマンションに戻ってメモを見ると、その内の一つは私への手紙だった。


内容は、

・黙って潜入する事への謝罪

・海外出張中のはずの源さんのログを本社で確認したこと

・存在を聞いたこともない地下があるという情報を得たこと


そして、これを私が見ているということは、日曜朝に家を出た綱が、月曜日になっても戻らなかった場合だろうという事だった。



綱がいないことを誤魔化す嘘を考えたけど、嘘をつき慣れていない静には、あまりいい嘘が思いつきそうにない。

連絡が取れなくても納得出来そうな嘘を考え、練習してから部長へ連絡を入れる。


「母親が倒れた」というメッセージを受信したインターフェイスが部屋に落ちていた、という嘘を部長に伝えた。

慌ててインターフェイスを落としたまま、今朝方地元へ帰ってしまったようだと。


部長:『ちょっと待ってね。

…今ちょうど向こうの部長からもメッセージが入ったんだけど、綱君から連絡が来たみたい。

君の言った通り、インターフェイスを落として実家に戻ったんだって。

でも、お母さんがまだ目を覚ましていないようで、少しの間休むことになりそうだって連絡が来たらしいよ。

今日は戻って来ても仕事も手に付かないでしょ?

有休も溜まっているし、直帰でいいよ。

ご実家の連絡先を聞いたら教えてあげるから、そっちに連絡してみるといいよ』


通話を切って、愕然とする。


私のついた下手な嘘が、現実だった?

そんなわけがない。

少なくとも、綱の部屋にはインターフェイスなんて落ちていなかった。


なら、綱か管理部かうちの部長、3人のどれかが偽物。

実家から連絡して来たという綱が、いるわけがない。

管理部の部長も、メッセージより通話をしてくるタイプの人だから、怪しい。

でも、うちの部長はARで、対面しながら通話をした。


とはいえ、Ωコアが嘘をつくなら、両部長間で情報の齟齬が発生するような簡単に破綻する嘘、つくわけがない。

なら、ARで対面して話した部長ですら、Ωコアの作ったフェイクの可能性もある。

私に会社を休ませれば、少なくとも今日は情報の食い違いが発生しない。


今頃、作られたARの綱や私が、2人の部長に連絡をして辻褄を合わせているかもしれないけれど…。


それなら、今通話した部長がΩコアに作られたAR映像というのが、一番上手く全てが誤魔化せる気がする。

…でも、部長も綱の失踪に関わっているとしても、辻褄は合ってしまう。


……もう、何を信じていいのか分からない…。



綱の書いた手紙に目をやる。


私があんな態度を取らなければ、連れて行ってくれたのかな…。


このタイミングで明らかに怪しい情報を手に入れたなら、調べて来たことと無関係なはずがない。

危険を承知で行ったことになる。

多分あんな態度を取らなくても、今まで私を護ることを第一にして来た綱は、私を潜入には巻き込まなかった。


今回のことにΩコアは、確実に絡んでいる。


会社の人間はどうなんだろう。

特定タンパク質の資料を信じるなら、禁止以降の秘密の生物実験に、会社の人間が関わっているのは確かだと思う。


じゃあ、どこから先の人間が敵なんだろう。

やっぱり、Ωコアに近い、立ち上げメンバーの源さんはあちら側なのかな。

でも、Ωコアが意図的にログを見せたのなら、本当に出張している源さんが、あたかも本社にいるように見せることで綱を呼びこんだ可能性もある。

Ωコア単体の暴走なのか、源さんも関係しているのか。

そして、どうしたら綱を助けられるのか。



私の頭で考えていても、情報が足りない現状では正解が何なのか、多分分からない。

しゃくだけど、あの口の悪いインテリを頼るしかない。

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