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Ω異常域【多次元観測AI】  作者: ライト


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第10話

綱:「レベル5が俺で、それと相性がいいのが静だって可能性を考えて読み返すと、確かに今までの過剰なまでに運命的な偶然も、Ωコアなら調整出来る気はしてくる。

それに骨髄移植ってキーワードも、1歳差ってキーワードも気にはなる。

前に話してくれた1年留年した理由の、病気の治療で骨髄移植を受けてたって話とも一致する。

でも今の所、そうとも捉えられるって域を出ないと思うぞ」


静:「綱なの…。

私に骨髄を提供してくれたドナーって、綱なの。

前に偶然、職場のモニターに映っていた資料を見ちゃったんだけど、私のカルテと、ドナーの情報が載っていたの。

それがあなただった。

異常に高い適合率で、術後の心配もいらないだろうって、医者の所見も載っていた。

……全てが噛み合っていくような気がしない?」


綱:「…そうだな。

でも言っておくと、それが真実だとしても、静のことが好きだってのは、俺の意思だからな」


静:「私も綱が好き。

付き合ってまだ3日目だけど、今までと違う面が見えて来て、今までで一番好きになってる。

でも、まだ自分でも分からないけど、何かが引っかかってるの」


綱:「すまない。

俺もこういうの得意じゃなくて、これ以上気の利いたことは言えそうにない。

静の悩みとは違うが、俺も考えることが多そうだ。

静も、体調不良ではないにしても、疲れているのはたしかだと思う。

今日は帰ることにするよ」


静:「せっかく来てくれたのに、ごめんね。

でも、好きじゃなくなるなんてことは、絶対にあり得ないから」


綱:「分かってる。

あと、これだけ受け取ってもらえるか?」


綱は鍵を静の手に握らせる。


数秒の思考停止のあと、静の顔が真っ赤になる。


静:「…これって」


あからさまに動揺しながら聞いてくる静に、綱が微笑む。


綱:「俺の部屋の合鍵だ。

いやらしい意味じゃないから安心してくれ。

もしも俺に何かあった時、警察や会社より先に、俺の部屋に来て欲しい。

紙の資料は普段生活していて、ARには映らないようになっているが、人に時間をかけて探られたら隠しきれない」


静:「不吉なことを言わないでよ。

私は綱と一蓮托生だって言ったでしょ?

何か探るなら、私も連れて行ってね?」


綱:「…分かった。

それにこれはただの保険で、今すぐどうこうするつもりはない。

そもそも、今は新しく手に入れた情報を精査して、次に何をするか考える必要がある。

少なくとも、静の考えがまとまるぐらいの時間はあるから、ゆっくり考えてくれればいい」


静:「ありがとう。

でも、新しい資料に浮かれてタクシーの中で読んじゃダメだよ?

自動運転AIも、Ωコアがベースになってるんだから」


綱:「ありがとう。気をつけるよ」



綱はインターフェイスの電源を入れて帰っていった。






思えば綱は、常人では考えられないことを難なくやり遂げる。


少なくとも、エレベータから逃げた私を、人混みの中から見つけるのなんかは、難なくこなせるだろうという確信はある。


私の特技の弓道なんかは、適切な指導を1日受ければ所作はともかく、小さな大会なら優勝してしまうかもしれない。



何年か前、筋肉バカの提案が承認され、会社にトレーニングルームが出来たと食堂で愚痴った時、綱に提案されてダメ元で弓道場を提案し、通った。


一人立ち、横幅2mぐらいで作られた弓道場に綱を誘った時、私の何射かを見た綱に射らせてみると、3射目で的に当て、そこからは徐々に中央へ収束していった。

運動神経がいいとかのレベルではない。


綱は「ゲームをやってる医者が空間把握能力が高いって、昔の研究で…」みたいなことを言っていたけど、弓道をやっている人間にゲームをやっている人間が少ないなんて、そんなわけがない。



そして極め付けは、 新人研修でラットの顔の違いを見分けていたこと。

あの時は茶化しちゃったけど、明らかに普通じゃない。



特定タンパク質の資料にあったレベル5の保持者、あの確率を逆算すれば、地球全人口72億人に1人。

それはやっぱり、綱のことなんだと思う。


だとすれば、自分のここ数年の異常な伸びにも説明がつく。

私も、大会で準優勝した時より、明らかに的中率が上がっている。

あの頃との違いも、あの資料と綱の能力を考えれば説明がつく。


綱の骨髄が移植されたから。

資料にあった、造血幹細胞の定着というものが起きたんだと思う。

となると、やっぱり遺伝的相性が良かったということになる。


そんなタイミングになって、私を危険から遠ざけて来た綱が、急に私を頼らなければいけない状況になった。

これは偶然なのか。

綱があの時違和感に気づかなければ、恐らくもっと早くに私達は結ばれていた。

でも実際には、私の中で特定タンパク質が馴染んで来たと思わしき時期になって、結ばれるきっかけが出来た。


弓道場が作られたのも、私の能力の向上を見るためだったのかもしれない。


だとしたら、始まりはいつから?

ORPレベル5の綱が見つかったのは、綱が中3の時。

でも、私が綱と相性がいいというのが見つかった時期は書かれていない。

追加報告ということは、あの研究報告が最初に作られたよりはあとなんだと思う。

とは言っても、私が綱を初めてバスで見かけたのは、ターミナルテックが綱に注目した4年後…。

初めて綱を見た時は、追加報告より後の可能性が高い…。


運命だと思っていた全てが、Ωコアの掌(てのひら)の上だった可能性すらある。





金曜から土曜、部屋から出ずに塞ぎ込んでいた。


日曜、綱へメッセージを送ったが、既読がつくことはなかった。

私の態度や、土曜日にも連絡を送らなかった私に失望したのかもしれないと思った。




翌日月曜、綱は消息を絶っていた。

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