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『悪役令嬢に仕立てた結果、王都が滅んだ件』 ― 追放された令嬢は北方で花開く ―  作者: ゆう
第四章:揺らぐ王国と目覚める意志

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第50話 王都軍、進軍開始

第50話 王都軍、進軍開始


 王都ローレンツの北門が、重く軋む音を立てて開いた。

 鉄で縁取られた巨大な扉は、まるで国が悲鳴を上げているかのようだった。


 その向こうから、青と白の軍旗がひるがえる。

 王家騎士団第一部隊、第二部隊。

 そして、紫の紋章を掲げる魔術師団の一団。


 馬の蹄が石畳を叩く音が、街を震わせた。


「王都軍だ……本当に出陣するのか……」

「グレンヴィルを討つために……?」

「どうして、あの地と戦う必要があるんだ……?」


 民たちは不安げにその行軍を眺めていた。

 兵士たちは顔を強張らせたまま前を向いている。

 誰も、胸を張って歩いてはいなかった。


 フレデリック王太子は城壁の上から、その様子を見下ろしていた。

 冷たい風が金髪を乱す。


(……エレノア。君がいた時は、すべてが整っていたのに)


 彼は、自分の喉が乾く音を聞いた気がした。


(でも、もう後戻りはできない……)


 貴族連合と魔術師団に押し切られるようにして決断した討伐軍。

 それが今、動き始めてしまったのだ。


「殿下、軍は予定通り進軍開始いたしました」


 側近の声が、空虚な響きを伴って耳に届く。


「……そうか」


 フレデリックは、静かに目を閉じた。

 その表情には、勝利の意思など微塵もなかった。



 一方その頃、グレンヴィルでは。

 城の高台に立つエレノアが、遠くの空を見つめていた。


 まだ、王都軍の軍旗は見えない。

 しかし、風が運ぶ冷たさの質が変わった。


(……動きましたわね。王都軍)


「エレノア、報告だ」


 背後からゼノが歩み寄る。

 彼はすでに戦の鎧に身を包み、威圧感よりも静かな覚悟をまとっていた。


「王都軍が北門を出たとの情報が入った。

 規模は三千から五千。魔術師団も同行している」


「やはり、大軍を……。ですが――」


 エレノアは微かに微笑んだ。


「わたくしたちの“策”の方が早いはずですわ」


 ゼノはその横顔をじっと見つめ、わずかに笑った。


「お前は本当に恐ろしい女だな」


「褒め言葉として受け取りますわ」


 ふたりのやり取りを見ていた騎士たちは、

奇妙なほどの安心感を覚えていた。


(この二人が前にいる限り……負ける気がしない)


 そんな空気が自然と生まれていた。



 ほどなくして、密偵のひとりが息を切らして到着した。


「軍師殿! 領主様! 急ぎの報告です!」


「どうしたの?」


「王都軍は……通常の街道ではなく、

 “アシュレイ谷”を抜けるルートを選んだ模様です!」


 周囲がざわついた。


「アシュレイ谷だと!? あそこは雪解けで危険すぎる!」

「軍隊が通れるような道じゃないぞ!」


 だがエレノアは表情を変えなかった。


「いいえ。むしろ、彼らがそこを通るのは当然ですわ」


 密偵が驚いた表情を向ける。


「……軍師殿、予想されていた、のですか?」


「王都軍の指揮官には二種類しかおりません。

“功績に飢えた者”か、“魔術師団に脅されている者”」


 エレノアは凛とした声で続ける。


「どちらも“最短距離”という言葉に惑わされる傾向があります。

 最も危険な道でも、距離が短ければ選んでしまうのです」


 ゼノが片眉を上げた。


「つまり、お前が予想した通りに動いている」


「はい。そして――わたくしたちは“その先”に罠を仕掛けるだけですわ」


 冷たい風が吹き、エレノアの銀髪がふわりと揺れた。


「ゼノ様。これより、補給路破壊の第一段階を実行いたします。

 連合軍全体に命を伝えてくださいませ」


「了解した」


 ゼノは振り返り、騎士たちへ命令を飛ばす。


「連合軍、第一段階作戦――開始する!」


 兵士たちが一斉に動き出した。

 その動きは、まるで大地が目覚めたかのようだった。


 エレノアは遠くの空へ目を細める。


(王都軍……。

あなた方がどれほど大軍を揃えようとも――)


(わたくしたちの“知略と意志”は、必ずあなたを上回ります)


 彼女の胸に、冷たい炎が宿る。


 こうして、王都軍とグレンヴィル連合の戦いは。

 まだ刃が交わる前から――すでに始まっていた。



次話


第51話「アシュレイ谷の罠」

皆さま、第50話までお読みいただきましてありがとうございます。

 王都軍がついに動き出し、わたくしたちグレンヴィル連合も、いよいよ本格的な戦いの準備に入ることとなりました。


 ふと空を眺めながら、思うのです。


(……あの王都にいた頃のわたくしは、

 まさか“軍師として大軍を迎え撃つ日”が来るなど、夢にも思いませんでしたわね)


 追放された日。

 王都の誰一人、わたくしの言葉を聞こうとしなかった日。

 あの日の痛みが、今は“迷わぬための糧”となっております。


 そして、ゼノ様の隣で策を示し、兵たちと共に未来を創る――

 その瞬間の手応えのなんと確かなことでしょう。


 わたくしはもう、王都の影に震える令嬢ではありません。



ところで――


 最近、わたくしのもとへ遊びに来た“ある令嬢”が、

扇をぱたぱたさせながら、こんなことを仰っていました。


「ごきげんよう、エレノア様。

 わたくしエリザベート・フォン・ローゼンクロイツ、

 悪役令嬢を目指しているのに、なぜか周囲から善行扱いされておりますの」


 ……という、なんとも苦労の絶えないお方です。


 ちなみにエリザベート様の物語、

『悪役令嬢になりたいのに、全部善行扱いされてしまうんですが!?』

は、軽やかな笑いと愛嬌に満ちた、とても愉快な“悪役になりきれない悪役令嬢譚”です。


 もし、わたくしのような“追放からの逆転劇”とは少し違う、

方向性の迷走した優雅な悪役令嬢を見たい方は、ぜひ覗いてみてくださいませ。



そして、もうひとつ。


 ゼノ様と策を練っていると、時折思い出す物語がございます。


 異世界へ転生し、

前世の知識と経験を武器に未来を切り拓く青年の物語――


『異世界ダイナリー』


 あのユウ様のように、

“過去を活かし、未来を変える”という姿勢は、

わたくしにも通じるものがあると思っておりますわ。


 興味がおありでしたら、こちらもぜひ。



最後に


 王都軍が動いたことで、

いよいよわたくしたちの運命は大きく動き始めます。


 ですが、どうかご安心くださいませ。


 ゼノ様が側にいてくださる限り、

わたくしは決して挫けません。


 そして皆さまの応援が、

わたくしの力ともなっているのです。


 次話も、どうか楽しみにお待ちくださいませ。

 ごきげんよう。

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