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『悪役令嬢に仕立てた結果、王都が滅んだ件』 ― 追放された令嬢は北方で花開く ―  作者: ゆう
第四章:揺らぐ王国と目覚める意志

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第49話 エレノア、初の戦略布告

第49話 エレノア、初の戦略布告


 夜明け前のグレンヴィル城は、冬の空気に包まれていた。

 冷たさは鋭いが、どこか張りつめた戦場の匂いが漂う。


 城内の訓練場には、すでに多くの騎士と兵士が整列していた。

 彼らの視線の先、中央に設けられた壇上に、ひとりの令嬢が立つ。


 淡い光に照らされる銀髪。

 凛とした背筋。

 冷たさではなく、静かな炎のような気迫を放つ瞳。


 エレノア・フォン・アウグスト。


 かつて王都で“悪役令嬢”として扱われた彼女は、

今はグレンヴィル連合の“軍師”として、この場に立っていた。


 ゼノが壇の横に立ち、彼女を守るように腕を組む。


「今日、この場でエレノアが初めて戦略を布告する。

全員、心して聞け」


 ゼノの言葉に、兵士たちは胸に拳を当てた。


 エレノアはゆっくりと前に歩み、

その細い指で広げられた地図を軽く叩いた。


「皆さま。王都軍はすでに動き始めています」


 静かな声だった。

 だが、広場に集う何百もの兵士が、そのひと言ひと言を飲み込んだ。


「王都貴族連合は、我々を“反逆者”と定め、

魔術師団を含む討伐軍を差し向けるでしょう」


 兵士たちの表情に緊張が走る。


「しかし――王都軍は“勝つつもりのない戦争”をしてきました」


 ざわりと空気が揺れる。


「彼らは権威に寄りかかり、兵站を軽視しています。

勝利を信じて進軍するのではなく、

“負けるはずがない”と思い込んでいるのです」


 しばしの沈黙。

 エレノアは、その沈黙すらも支配するように立っていた。


「わたくしたちは、その慢心を突きます」


 指が地図の、王都からグレンヴィルへ続く一本の細い線をなぞる。


「王都軍が通る街道――補給拠点は三つ。

そのすべてが、雪解け水でぬかるむ谷の中にあります」


 ゼノが横目でエレノアを見る。

 その目には、深い信頼と驚嘆があった。


「兵站を断てば、討伐軍は“立っているだけの重荷”となりますわ」


 エレノアは視線を兵士たちへ向けた。


「皆さまが王都軍を相手に剣を振るう前に、

彼らの足元は崩壊させます」


 そして、彼女は初めて“軍師”として宣言した。


「――補給路の掌握。

これが、わたくしたちの初手です」


 兵士の一人が、思わず声を漏らした。


「……撃たずに勝つ、ということですか」


「いいえ」


 エレノアは首を横に振った。


「“戦う前に勝つ”のです」


 その瞬間、兵士たちの表情が変わる。

 恐れではなく、誇りの色に。


(この方は……令嬢ではない……)

(本物の軍師だ……)


 誰かが静かに呟いた。


「エレノア軍師の命に従う!」


「王都なんて怖くない!」


「この地を守る!」


 その声は、次々と広がり、

ついには訓練場全体を揺らすほどの大歓声となった。


 ゼノはエレノアの肩にそっと手を置いた。

 強く握るのではなく、ただそばにいるという証のように。


「……見事だ、エレノア。

お前の言葉が、すでに皆を動かしている」


「当然ですわ。

あなたの兵たちですもの」


 エレノアが微笑むと、

ゼノは一瞬だけ言葉を失い、それから低く笑った。


「お前は本当に……この地の光だな」


 その言葉は、

作戦よりも先に、彼女の胸に深く染み込んだ。


(わたくしは……その言葉を裏切らない)


(絶対に、この地を守り抜きますわ)


 エレノアは改めて前を向く。


「ゼノ様。

次の策へ移りますわよ」


「任せる。

お前の描く未来に、俺はついていく」


 そのやり取りを、兵士たちは息を呑んで見守っていた。

 騎士たちは、これが“国を変える日の始まり”だと悟っていた。


 こうして――

エレノアの初の戦略布告は、

グレンヴィル連合全土へ広く、深く、響き渡った。


 


 そして王都との戦争は、

静かに、しかし確実に――動き出す。



次話


第50話「王都軍、進軍開始」

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