第48話 王都、怒りの召集令
第48話 王都、怒りの召集令
王都ローレンツの中心にある、白亜の大広場。
その中央で、王家の軍報官が震える声で布告を読み上げていた。
「“グレンヴィル領、王命に背き、反逆の意図あり!”
“王都貴族連合はこれを看過せず、討伐軍の動員を決定する!”」
報官の声が響くたび、広場に集まった民たちはざわめきを広げた。
「反逆? あのグレンヴィルが?」
「聞いたこともないぜ……そんな話」
「王都の連中が勝手に騒いでるだけじゃないのか……?」
人々は訝しんだが、兵士たちは黙々と整列していく。
その行動は、まるで“疑うな、従え”と言っているようだった。
――だが、その裏側。
王都貴族連合の会議室では、怒号が渦巻いていた。
「エレノアが連合を作っただと!? あの令嬢が、国を割る気か!」
「ゼノ・グレンヴィル……あの男をこれ以上放置すれば、王家など形だけの装飾になる!」
「早急に討伐軍を派遣せよ! 我らが権威を見せねばならん!」
その中心で、額を押さえる王太子フレデリックが座っている。
「エレノア……本当に戻って来ないのか……?
私の言葉を、一度も聞こうとしないのか……?」
「殿下、問題はそこではございません!」
「今や彼女は“王家の敵”となったのです!」
「だが……エレノアは……!」
フレデリックは理解していた。
エレノアがいなくなって以降、
政務も外交も、驚くほど滞っている。
(全部……彼女が処理していたのか……。
私は、そんなことすら……)
初めて気づいた事実は、胸を刺すほど痛かった。
(私は――間違っていたのか?)
だが貴族たちは、そんな王太子の心境など気にも留めない。
「殿下、討伐軍派遣の許可を」
「形式上は殿下の名を使いますが、実質は我らが動かします」
「魔術師団も動員済みです」
(……魔術師団。
またあの連中の……)
フレデリックの脳裏に、
黒いローブの男たちの影がよぎる。
「彼らが……暴走している気がする……!」
「殿下、今は何より迅速な判断が必要です!」
貴族たちの声は、もはや命令に近い。
王太子は、ゆっくりと、疲れたようにうなずいた。
「……討伐軍派遣を許可する」
その瞬間、貴族たちは勝ち誇ったように笑みを浮かべた。
王都の運命が、音を立てて転がり始める。
⸻
一方その頃、グレンヴィル連合の中心では。
夕暮れの作戦室で、暖炉の火が静かに揺れていた。
壁に張られた地図には、新たな色の線が幾重にも引かれている。
王都軍の進軍路。
魔術師団の拠点。
そして、侵攻の最短ルート。
エレノアは、細い指でその線をなぞった。
「王都は……討伐軍を動かしましたわね」
ゼノが腕を組み、彼女の横に立つ。
「使者の帰還からして、こうなるのは早かったな」
「ええ。ですが……早いほうが良いのです」
エレノアの瞳には、もはや迷いの影は一つもなかった。
「こちらには、時間を与えないつもりでしょう。
つまり――王都貴族連合は、焦っているということです」
「……そして追い詰められるほど、ミスを重ねる」
「そういうことですわ」
エレノアは地図の一点に指を止める。
「ゼノ様。この戦いは正面衝突ではありません。
王都は大軍を用意するでしょうが……
わたくしたちは“盾”では勝てません」
「わかっている」
ゼノの声は低いが、揺るぎがない。
「だからこそ、お前がいる」
その一言に、エレノアは静かに微笑んだ。
「では――戦略を提示いたしますわ」
彼女の指が、地図の別の地点へ滑る。
「王都軍の進軍路を、根本から崩壊させます」
ゼノがわずかに目を細める。
「……本気だな」
「もちろんですわ。
彼らは“王家の権威”に頼るあまり、
兵站を軽視する悪癖があります」
エレノアは冷静な声で続けた。
「兵站を断たれた軍は、ただの飢えた群衆。
そこに魔術師団の暴走が重なれば……」
「自滅する」
「その通りですわ」
ゼノは深く息を吐き、
エレノアを横から見つめた。
「……お前の頭脳は本当に、王都の宝だったんだな」
「もう、わたくしは王都のものではありません」
エレノアは静かに答えた。
「わたくしは……この地の人々のために思考します」
その言葉は、静かな誓いのように響いていた。
(この方は……もう完全に、グレンヴィルの軍師だ)
ゼノの胸の奥に、
強烈な誇りと……それを超える想いが湧き上がる。
「エレノア。
お前の策なら、俺はすべて信じる」
彼女は軽く頷き、
そして戦場へと続く地図を見つめた。
「ならば、始めましょう。
“王都の大軍”を迎え撃つ最初の戦略――
わたくしの布告を」
こうして、
グレンヴィル連合と王都の“本当の戦争”が動き始めた。
⸻
次話
第49話「エレノア、初の戦略布告」




