第47話 グレンヴィルの大評議会
第47話 グレンヴィルの大評議会
その日、グレンヴィル城の大広間には、見たこともないほどの人々が集まっていた。
騎士、村の代表、商人、鍛冶師、狩人、司祭、書記官――。
王都の議会より多いのではないかと思うほどの熱気が満ち、かつて小さな一領地だったこの地が、まるでひとつの国であるかのような気配を帯びていた。
ざわつく人々の中心に、ゼノとエレノアが並んで立っていた。
エレノアは改めて、この場がただの“会議”でないことを感じていた。
これは、未来を決める儀式のようですわね――そう胸の奥で呟く。
ゼノが立ち上がると、広間は潮が引くように静まった。
「王都から最後通告が届いた。エレノアの召還と、抵抗すれば反逆扱いにするという内容だ」
言葉が落ちた瞬間、怒りと動揺が同時に爆発した。
「なんてことを……!」
「エレノア様を罪人扱いだと!?」
「王都は本当に狂ったのか!」
ゼノはその怒りをしっかり受け止め、そしてただ一言だけ続けた。
「だからこそ、この会議を開いた」
静寂。
人々はゼノの次の言葉を待った。
「今日、我々は“従属を続けるか、独自に立つか”を決める」
言葉は重く、広間に沈み込むように響いた。
エレノアはゆっくりと立ち上がった。
整った背筋、落ち着いた表情。
彼女が立つだけで空気が締まる。
「皆さま。わたくしは、王都に戻るつもりです」
瞬間、大広間にざわめきが広がった。
「危険すぎます!」
「王都はあなたを殺そうとしているのですよ!」
「戻れば、グレンヴィルまで危険に!」
そのすべての声を、エレノアは小さく手を上げて鎮めた。
「あくまで、“わたくし一人”で戻るのではありません」
人々が息を呑む。
「わたくしは、グレンヴィルの代表として王都に向かいます。もちろん……ゼノ様と共に」
ゼノが目を見開き、人々は言葉を失った。
商人ギルドの長が立ち上がり、震える声で叫んだ。
「独立なんて、本当にできるのか!? もし王都軍が攻めてきたら、どうする!」
その問いに、ゼノが静かに答えた。
「商人たちよ。王都はお前たちを守っているか?」
商人たちは黙り込んだ。
「税だけ取られ、助けを求めれば門前払い。それが王都のやり方だ」
鍛冶師ギルド長が突然立ち上がった。
大きな拳を天井へ向ける。
「オレたちは賛成だ! エレノア様の改革で、武具の質も、人の手も、領の力も上がってる! 戦うなら今だ!!」
その声に、兵士たちも静かに頷く。
エレノアは再び前へ進んだ。
「独立とは、王家を捨てるということではありません。民を守る政治を、この地に取り戻すということです」
彼女の声は柔らかく、しかし確固として揺るぎなかった。
「王家が民を見捨てたとき……民は自分たちで正義を作るほかありませんわ」
ゼノがゆっくり立ち、手を上げた。
「俺は、エレノアと共に“連合体”を作る。
商人も村も騎士も鍛冶も、すべてが対等に発言できる評議会だ。
王都の腐れた貴族政治ではなく、皆で国を作る政治を始める」
その言葉は、未来そのものを指す宣告だった。
「名を――“グレンヴィル連合”とする!」
広間が、雷鳴のような歓声で揺れた。
「ゼノ様!!」
「エレノア様!!」
「新しい国を!!」
「我らが守る!!」
人々が拳を掲げ、騎士たちが剣を掲げる。
その中心で、エレノアは胸が熱く震えるのを感じていた。
(追放されたわたくしが……今はこの地の希望の中心に)
ゼノが隣で静かに囁いた。
「エレノア。もう後戻りはできない」
「ええ。でも……それで良いのですわ」
エレノアは、まっすぐゼノを見つめた。
「あなたと共に進む未来なら、どれほど困難でも受け入れられます」
ゼノは目を細め、小さく、しかし深い声音で告げた。
「……必ず守る」
「わたくしも、あなたを支えますわ」
そうして――
この日、グレンヴィルは歴史の中で新たな名を刻み始めた。
“グレンヴィル連合”の誕生。
王都との衝突は、もはや避けられない。
だがこの瞬間、誰もが確信していた。
ここに“新しい国の核”が生まれたのだと。




