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300年引きこもり、作り続けてしまった骨董品《魔導具》が、軒並みチート級の魔導具だった件  作者: 空地 大乃
第二章 仲間との再会編

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第351話 新薬に必要な物

いつも感想や誤字脱字報告を頂きありがとうございます!

side カミラ


 身に覚えのない罪で、私は囚われた。


 そして、そんな私に対してソアラの義兄であるセルジオは“取り引き”を持ちかけてきた。


 それは――奴らが望む新薬の開発。


 だが、その内容は私にとって到底受け入れられるものではなかった。


 もし私一人の問題なら、拒絶していただろう。

 たとえこの身が滅びようと、あんな連中の思い通りになどさせはしない。


 だけど――ソアラだけは別だった。


 セルジオは卑劣にも、ソアラの命を盾にしたのだ。

 これからも彼の治療を続けたければ従え、と。


 その言葉を前にして、私は逆らうことが出来なかった。


「どうだ、研究は?」


 重たい扉が開き、セルジオが作業室へ入ってくる。

 薄く笑うその顔を見るだけで嫌悪感が込み上げた。


 この部屋には薬品棚や蒸留器具、簡易的な調合台が並んでいる。

 一応、錬金術の研究室としての体裁は整えているが、私から見れば到底満足できる設備ではない。


「順調――とは言えないわね。圧倒的に設備が足りないわ」

「それじゃ困る。全く成果なしでは、アイツを生かしている意味もなくなるぞ」


 セルジオの言葉に、私は拳を強く握り締めた。

 視線にも自然と怒気が宿る。


「そんな目で睨むなよ。折角の綺麗な顔が台無しだぞ?」


 そう言いながら、セルジオが私の肩に手を伸ばしてくる。


 反射的に身を引いた。

 こんな男に触れられるだけでも不快だった。


「貴方こそ忘れないことね」


 私は距離を取りながら冷たく言い放つ。


「どうしても薬を完成させたいなら、それ相応の魔導具を用意することね。全てはそれが揃ってからよ」

「……成分を分離する魔導具、だったか。探させているが、そんなものどこの商会も扱ってないぞ」

「それが無いなら話にならないわね」


 わざとらしく溜息を吐きながら答える。

 勿論、これも時間稼ぎだ。


 要求している魔導具が必要なのは事実。

 だけど、そんな高度な代物を作れる人間を私は一人しか知らない。


 だからこそ、奴らが簡単に用意できるとは思えなかった。


「それよりも、もうすぐソアラ様の治療が必要になるわ。準備をしておいて頂戴」

「フンッ。二言目にはソアラか」


 セルジオが不快そうに鼻を鳴らした。


「あんな病弱の男のどこがいい? 俺の方が将来性もある。お前に何一つ不自由ない暮らしをさせることだって可能だ」


 そう言いながら、再び距離を詰めてくる。


「俺の女になれ、カミラ。そうすればもっと自由にさせてやる。罪だって無かったことに――」

「――私の望みはソアラ様の治療を続けること。それが叶わないなら、この場で自決してやる」

「なッ!?」


 私の声に一切の迷いが無かったからだろう。

 セルジオが目に見えて狼狽えた。


 彼らにとって、私はまだ必要な存在。

 だからこそ、この脅しは通じる。


「それは困りますな」


 不意に、静かな声が割って入った。


「ノクターン――」


 いつの間に入ってきたのか。

 執事服を纏った男――ノクターンが、音もなくそこに立っていた。


 白手袋を嵌めた細長い指。

 背筋の伸びた姿勢。

 一見すれば完璧な執事だ。


 だが、その金色の瞳だけは爬虫類のように冷たい。


「セルジオ様も目的を見失っては困りますぞ。ブラッド様も、新薬の研究を条件に協力しているのですからな」

「も、勿論わかっている!」


 セルジオが苛立ったように答える。


 先ほどまでの余裕ぶった態度が消えている辺り、ノクターンに対して強く出られないらしい。


「それなら結構。それと、ルミナ様がお探しでしたぞ」

「……わかった」


 舌打ち混じりにセルジオが部屋を出ていく。


 ルミナ――セルジオの母親であり、ソアラにとっては義母にあたる女。


 前当主であるカロラ・エクサスの再婚相手だ。

 そしてセルジオは、その連れ子。


 ルミナはセルジオを異常なほど溺愛している一方で、ソアラのことは昔から快く思っていなかった。


 その結果がこれだ。


 ソアラが暗殺されかけたことにされ、病で伏せっている彼に代わって、今はルミナが評議会へ出席し好き勝手に振る舞っている。


「……ノクターン。助かったわ」


 セルジオの姿が消えた後、私は小さく息を吐いた。


 ノクターンがいなければ、さっきの男はもっと調子に乗っていただろう。


「貴方に自決されては元も子もありませんからね」


 感情の読めない声音だった。


「……ずっと疑問だったのだけど、何故貴方ほどの存在がブラッドなんかに協力しているの?」


 私が問うと、ノクターンは僅かに振り返る。


「――そんなことは決まっております」


 その瞳が細まった。


「私はね、人間などこの世から根絶やしにすべきだと――そう思っているのですよ」


 静かな声だった。

 なのに、その言葉には底知れない悪意が滲んでいた。


 ノクターンはそのまま踵を返す。

 だが、部屋を出る寸前で足を止めた。


「――そうそう。貴方の望む魔導具ですが、近い内に手に入るかもしれませんよ」

「え……?」


 思わず顔を上げる。


「見つかったというの?」

「魔導具そのもの、というより――それを作れそうな人物が、ですな」


 ノクターンが薄く笑った。


「変わった魔導具を持つエルフが、メイド連れで色々と嗅ぎ回っているようですからな」


 その言葉を残し、ノクターンは部屋を後にした。


 エルフ。

 メイド連れ。

 そして、変わった魔導具。


 そんな人物を私は一人しか知らない。


「まさか……」


 胸の奥がざわつく。

 嫌な予感がした。


 どうか、私の予感が外れていて欲しい――。

 そう願わずにはいられなかった。

本作の電子コミカライズ版最新話が本日より配信されております。

どうぞ宜しくお願い致します!

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