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300年引きこもり、作り続けてしまった骨董品《魔導具》が、軒並みチート級の魔導具だった件  作者: 空地 大乃
第二章 仲間との再会編

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第350話 リックとヨナの記憶

「これ……見たことある気がする」


 私たちがゴーン商会について話していると、不意に背後からリックの声が聞こえた。


 振り返ると、いつの間にか近くまで来ていたリックが、机の上に置かれた素材リストを覗き込んでいた。

 その隣ではヨナも背伸びをしながら紙を見つめている。


「駄目だよリック。邪魔しちゃ」


 慌てた様子でデイルが駆け寄ってきた。少し遅れてルークもやってくる。


 だが私は軽く手を上げて制した。


「いいんだ。何か心当たりがあるなら聞かせて欲しい」


 私がそう言うと、リックは真剣な顔でリストを見直した。


「うん……やっぱり見たことある」

「私もあるよ!」


 ヨナも小さく頷く。


「どこで見たんだい?」


 マースが優しく問いかけると、リックは少し考え込んでから口を開いた。


「前にパパが机に広げてたんだ。なんか難しい顔してずっと見ててさ」

「私、“どうしたの?”って聞いたんだけど、“大丈夫だ”って笑ってたの」


 ヨナが不安そうに続ける。


「でも、本当は全然大丈夫じゃなかったと思う……」


 二人の言葉に、その場の空気が少し重くなった。


「他に何か覚えてることはあるかい?」


 私が静かに尋ねると、ヨナが小さく息を呑む。


「……聞いちゃったの」

「ヨナ?」


「お父さん、“エクサス様に何てことを……”って言ってた」


 エクサス様――。


 その言葉に私は僅かに眉を寄せた。

 今の流れで考えれば、エクサス家を指している可能性が高い。


 だが、妙な違和感がある。


 ソアラ・エクサス本人に対する言葉というより――もっと別の何かに対する後悔のように聞こえた。


「エクサス様……ですか」


 デイルも神妙な顔になる。


「つまり、この素材が何かしらエクサス家に関係しているということですね」

「あぁ。私たちも今まさにその可能性を考えていたところなんだ」


 私は簡単にこれまでの経緯を説明した。

 もっとも、危険な部分についてはぼかして伝える。


 デイルたちを必要以上に巻き込むつもりはないからな。


「この素材……少し見せてもらってもいいですか?」


 そこでルークが控えめに手を上げた。


「何かわかるのかい?」

「断言は出来ませんが、少し気になる点がありまして」


 私はリストをルークへ渡した。


 ルークはそれを両手で受け取ると、真剣な表情で一つ一つ確認し始める。

 その横顔は、精霊術を扱う時とはまた違った知的な雰囲気があった。


「……やはり、少し似ていますね」

「似ている?」


 マースが首を傾げる。


「はい。特定種族の儀式で使われる素材構成に近い気がします」

「儀式……?」


 私は思わず聞き返した。


「エドソン様もエルフでしたら、そういった儀式文化について多少はご存知かと」

「え? あ、あぁ。まぁ、その……うん」


 曖昧に頷いた瞬間、隣から冷たい視線を感じた。


「ご主人様……」


 メイだ。

 完全に“忘れてましたね?”という目をしている。


 いや、仕方ないだろう。


 三百年以上も魔導具研究に没頭していた結果、エルフ族特有の儀式文化など記憶の彼方なのだから。


 だが、言われてみれば確かに妙な既視感があった。

 頭の片隅に残っていた知識が、今になって繋がった感覚だ。


「では、これはエルフ族の儀式素材なのかい?」


 デイルが興味深そうに聞く。

 しかしルークは小さく首を横に振った。


「いえ、少し違います。構成は近いですが……決定的に異なる素材があります」


 そう言って指差したのは、“紅蓮花の花粉”だった。


「紅蓮花は血を連想させる素材です。エルフの儀式では忌避される事が多く、基本的には使用されません」

「血、か……」


 その単語に、私の中で何かが繋がった。

 吸血鬼。

 儀式。


 そして、この素材群。


「ご主人様。何か心当たりが?」


 メイが小声で尋ねる。


「あぁ……まだ断定は出来ないが、糸口は見えた気がする」


 私は深く頷いた。


「ありがとうルーク。助かったよ」

「お役に立てたなら光栄です」


 ルークが少し照れくさそうに頭を下げる。

 やはり彼は聡い。


 精霊術だけでなく、こういった知識にも明るいようだな。


「でも、どうしてお父さんがそんなに悩んでたんだろ……」


 リックが不安そうに呟く。


「それについては、私にも一つ思い当たることがあります」


 マースが静かに口を開いた。

 その表情は先程までよりもずっと重い。


「……リック、ヨナ。教えてくれてありがとう」


 私は二人へ声を掛けた。


「これでパパたち見つかる?」


 ヨナが不安そうに私を見る。


「すぐとはいかないかもしれない。でも、大事な手掛かりにはなったよ」


 そう伝えると、ヨナは少しだけ安心したように頷いた。


 私はデイルへ視線を向ける。

 すると彼も察したように立ち上がった。


「さ、二人とも。難しいお話はここまでにして、向こうで遊ぼうか」

「――うん」

「わかった!」


 リックとヨナは素直に頷き、デイルとルークに連れられて少し離れていく。


 その姿を見届けてから、マースが神妙な面持ちで口を開いた。


「……ゴーンが何故あれほど悩んでいたのか。今ならわかる気がします」

「聞かせてくれ」


 私が促すと、マースはゆっくりと言葉を続けた。


「私の推測に過ぎませんが――」


 一拍置いて、彼は低い声で告げる。


「ゴーンは知らぬ間に、エクサス家前当主――カロラ・エクサス様の死に関わってしまったのかもしれません」

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