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300年引きこもり、作り続けてしまった骨董品《魔導具》が、軒並みチート級の魔導具だった件  作者: 空地 大乃
第二章 仲間との再会編

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第349話 マースとゴーン商会

 下水道を抜け、地上へ戻った私はまず鑑定眼鏡(サーチレンズ)を装着した。

 視界の端に淡い光点が浮かび上がる。


 観察虫(ストーキングバグ)の現在位置だ。


「見つけた」

「デイル様たちですか?」

「あぁ。どうやら今は宿の近くにいるようだね」


 私は視界を共有しながら現在地を確認する。


 デイルとルーク、そして気配を消しているリックとヨナも一緒にいるようだ。


「では向かいましょうか」

「そうだな」


 マースを連れ、私たちは宿へ向かった。


「エドソンさん!」


 宿のロビーに入ると、真っ先にデイルがこちらへ駆け寄ってきた。


「お帰りなさいませ。何事もなかったようで安心しました」


 ルークも胸を撫で下ろしている。


「まぁ少し厄介事はあったけどね。とりあえず無事だよ」


 そう答えた後、私は周囲を見回した。


「リックとヨナは?」

「今は指輪を付けたまま二階におります。外では目立つかもしれませんので」

「判断としては正しいな」


 私は頷いた。


「なら呼んできてもらえるかい?」

「はい」


 ルークが二階へ向かう。

 そして少しすると、気配遮断の指輪を外したリックとヨナが姿を見せた。


「お兄ちゃん!」

「戻ってたんだな!」


 二人が嬉しそうに駆け寄ってくる。

 そんな二人を見たマースが目を丸くした。


「この子たちは――」


 私はマースへ視線を向ける。


「ゴーン商会で見つけた子どもたちだよ、ちょっとわけありでね――」


 その言葉でマースは全てを察したらしい。


「あぁ……そういうことでしたか」


 彼はゆっくりと二人の前にしゃがみ込んだ。


「初めまして。私はマース・マクスフェルと言います」

「マース?」

「えっと……誰?」


 リックとヨナが不思議そうに首を傾げる。


「私は君たちのお父さん――ゴーンさんと親しくさせていただいていた商人です」


 その瞬間。

 二人の表情が変わった。


「パパの友だち!?」

「じゃ、じゃあパパとママがどこにいるか知ってるの!?」


 期待に満ちた視線。

 だが、マースは困ったように眉を下げた。


「……申し訳ありません。私もまだお二人の行方は掴めていないのです」


 リックとヨナの肩が目に見えて落ちる。


「そっか……」

「うぅ……」


 マースは深々と頭を下げた。


「力になれず、本当に申し訳ありません」


 その様子から、本当に二人の両親を心配しているのが伝わってくる。


「まぁ落ち込むのはまだ早いさ。情報が全部途切れたわけじゃない」


 私がそう言うと、ヨナがこちらを見上げた。


「お兄ちゃん、パパたち見つかる?」

「見つけるために動いてるところだよ」


 頭を撫でながら答える。

 その後、私はデイルとルークへ視線を向けた。


「少しマースと話したい事がある。悪いけど二人をお願いしてもいいかな?」

「勿論です!」

「お任せください」


 デイルとルークが快く引き受けてくれた。


 七変化の小人たちもヨナの周りをちょこまか動き回っている。これなら少しの間は問題ないだろう。


 宿の一角へ移動した私は、マースへ向き直った。


「リックとヨナの事は知らなかったんだな」

「はい。ゴーンに子どもがいる事自体は聞いていましたが……実際に会うのは初めてです」


 マースが静かに答える。


「ただ、ゴーンは家族の話をする時、本当に嬉しそうでした」


 少し遠くを見るような目。

 その様子から、二人が本当に親しかったのだとわかる。


「それで――エドソン様。先程“わけあり”と仰っていましたね?」

「あぁ。リックとヨナは何者かに追われていた」


 私はこれまでの一件を簡潔に説明した。


「やはり……」


 マースの表情が曇る。


「カミラ様の件とも無関係とは思えない」

「私もそう考えている」


 するとマースが何かを思い出したように目を細めた。


「……そういえば」

「何か心当たりが?」

「最後にゴーンと会った時、妙な事を言っていたのです」


 私は続きを促した。


「“俺は、とんでもない事をしてしまったのかもしれない”と」


 その時の事を思い返しているのか、マースの表情が険しくなる。


「酷く怯えていました。周囲を何度も気にして、誰かに聞かれるのを恐れているようで……」


 単なる商売の失敗ではないな。


「ただ、詳しい事は話してくれませんでした」

「それでも何か手掛かりは?」

「素材です」


 マースが答える。


「素材?」

「えぇ。ゴーンが“確認してほしい”と、仕入れた素材の一覧を見せてきたのです」


 マースは記憶を辿るように指を顎へ添えた。


「確か――月光草、黒鉄茸、蒼銀塩、魔力安定液、紅蓮花の花粉、それに解毒用の白晶液もありましたね」


 私は思わず眉を動かした。

 どれも一般的な素材だ。

 薬にも魔導具にも普通に使われる。


 だが――


「妙だな」

「はい。私もそう思ったのです」


 マースが頷く。


「個々は珍しくありません。ですが、組み合わせに統一感がない。薬として方向性が見えないのです」


 しかも――


「量も不自然でした」


 マースが続ける。


「全部合わせても薬一本分程度。それなのに、妙に素材が多岐に渡っていたのです」


 私はメイへ視線を向けた。


「メイ。心当たりは?」

「……いえ。少なくとも、私の知識にある薬とは一致しません」


 メイでもわからないか。

 だが、何故だろう。


 妙な引っ掛かりがある。


「……いや、待て。この組み合わせ……」


 どこかで見たような。

 そんな既視感。


 だが、肝心な部分が思い出せない。


「御主人様?」

「……いや、まだわからない」


 私は首を振った。


「ただ、ゴーンが怯えていた理由とは無関係じゃなさそうだ」


 マースも静かに頷く。


「今思えば、あの時のゴーンは“何か知ってはいけないものを知ってしまった”ような顔をしていました」


 そして、その直後に失踪。

 偶然とは思えない。


「……どうやら、この件は想像以上に根が深そうだな」


 私はそう呟きながら、静かに思考を巡らせるのだった。

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