さすらう21
マジで?
「マジで?」
「マジだ」
「マジか……」
もうマジがなんなんだか分からなくなる会話だな。簡潔に三文字以内に纏めた俺は優秀を振り切って劣等と言われてもおかしくない。
いやオカシ(古語表現)。
周りを囲む冒険者は、それまでの行軍が嘘だったかのように腰を据え、辺りを警戒している。これからどうするかを話し合っている中心人物の輪から、少し離れた所に腰を降ろして待機する俺。大御所感。隣にはミイラ君。やあ。
そんな時間も長くはなく、ハンスキンが結果を伝えるためにか手招きをしてくる。
それに首を振って応える。否ともさ!
「いやこいよ?! 話聞いてた訳じゃねえんだろ?!」
「バッカ、もうとっくに着いていけてねえーっつーの! なんなら最初から離れてたから、兎に負けた時点で行き止まりだったから!」
「なんの話だよ?!」
「こっちの世界の話だよ!」
異世界、チート、無双、転生で公式が作れるから。車、ニート、飛び出すから繋がるから。
「……なんで連れてきたんだハンス……」
「いやよ、帰還能力つーか生存能力つーのか……そこらは高ぇんだよ。知ってるだろ? 下級なのに最近じゃ『帰還者』とか呼ばれてるしよ。嘘か本当か、高位の竜から逃れたとか噂もあったからよ。験担ぎてぇし、人手はどの道いるだろ?」
「おい、誰がト○マスだって?」
止めろよ。そんなイジメみたいな二つ名があったのかよ。名前負けだよ。あんなに頑丈で速くないから。
「……まあ、言わんとすることは分かる。あんな軽装備で外をうろつけるんだからな……」
「頭は大分アレだがな」
「ははーん、褒め殺す気だな? 止めたまえ。それは言葉の暴力だよ」
凄く残念な視線を向けて来たので、ヒラリと身を交わしておいた。ミイラに直撃する視線。ああ、多分死者をいたわっているんだろうな。
そんな残念ハンスキン、おっと省略。残念な視線を向けてくるハンスキンが近付いてきたので思わず竹串を握り締めた。ぺきり。なんて不吉な音なんだ。
「事情が変わった。元々救助がメインだったんだが……どうも奴の動向がいつもと違う。縄張り外のこんなとこに゛喰いカス゛が落ちてんだ。下手すりゃこっちが助けてもらいてぇような状況になっちまいそうだからな……一旦戻るぞ」
「え、いいの? 他の奴らは?」
仏さんになってるのは街に来たっていう上級冒険者だけだ。元々街に拠点を持つ若い冒険者達は見つかっていない。
ハンスキンも納得がいっていないのか渋い顔だ。
「本来なら怪我して転がってる若いのを回収するだけの筈だったんだが…………縄張りの外に落ちてあった喰いカス、まるでない戦闘痕、一人として見掛けないクランに入った馬鹿野郎ども……どうにも不確定要素が多すぎる……ゴブリン狩りがゴブリンに狩られちゃ世話ねえからな」
ふむ。確かに。
なんでも大勢で出掛けたらしいので、レイドボスよろしく大規模戦闘でもやってるかと思えば、ミイラが一つ。しかも戦闘した形跡がないのも気になる。
「でも、転がってる若い冒険者を回収するつもりだったんなら、戦闘は念頭に入れてたんじゃないのか? だったらこのまま進んでも……」
「いや、戦闘は想定してねえ。ぶっちゃけケネミーランゴが去るのを息を殺して待ってから、生きてる奴らを回収っていう流れだったな。奴ぁ縄張りを侵す者には攻撃を仕掛けるんだが、喰い殺されるってのは稀だ。大抵動かなくなったら興味を無くして立ち去るからよ。ボロボロにされちゃいるだろうが、生き残ってる奴もいる予定だったのよ」
ずいぶん乱暴な理論だな。それ向こうの全滅も有り得たろ? 骨折り損になってた可能性もあったんじゃない?
俺の疑問顔を察したハンスキンが苦笑しながら応える。
「……まあ言いてえこたぁ分かる。冒険者としてやってく以上、てめぇの命はてめぇの責任だわな。でもよ、同じ街の同業で、玉に顔も合わせりゃ酒も呑む、しかもガキの頃から知ってんだ。もし生きてんなら、少し力貸してもおかしかねえだろ?」
良い人ハンスキン。いや、ここにいる冒険者が良い人。マジかよ、もっと勢力争いとかあるのかと思ってたよ。冒険者マジ冒険者。
「……まあ、ギリギリで命を助けてやる相場ってのは大抵高い。今後も街を拠点にすることを条件に無利子にすれば……」
「そこは黙ってろよバン」
冒険者おい冒険者。
「ガッカリ。ガッカリだよ! 打算的過ぎて現実味がすげぇよ! ロマンはないのか!?」
「ちなみに、おめぇは助けた奴を背負うだけで依頼料が加算されたんだが」
「リアルマネー最高ですよ。マロン? なにそれ食えんの?」
「食えるだろ」
「……撤退すると言ってるだろう……」
撤退か……。しかしここで帰っていいのだろうか? あたら若い可能性が今こうしている瞬間にも閉ざされようとしている。俺達にそれを救う術とチャンスがあるのなら、ここは多少の危険には目を瞑るべきじゃないのか? そう! 未来への可能性へと繋げる勇気ある一歩が、今! 必要なのではないか!
「ここまで来て帰ったら、きっと同じ依頼は受けないと思うし。なによりこれだけのベテラン冒険者と一緒なら安心がヤバい。ここで金もとい人を拾えるだけ拾って帰ったら、今後の生活と尊敬の視線が安泰なんじゃないだろうか?」
「……口にでてるぞ……」
「それは胸に秘めとけよ……しかし、そうか……」
ハンスキンが溜め息を吐き出した後でニヤリと口角を上げる。
ん? え、なに? 今の俺な高尚な心の声が聞こえたの? 電波なんじゃないの。
「じゃあ俺とコイツ(・・・)はここで抜けるぜ。ちょっと小遣い稼ぎして帰るからよ」
ハンスキンが得意気に放った台詞に、バンは苦虫を噛み潰したような顔で呟く。
「……お前のそれはもう病気だ……」
疲れた顔のバンとニヤリと笑うハンスキンを見て俺は思った。
……え、なんだって?
今まさに、難聴系主人公。
しかし残念ながらこいつらの心の声は本当に聞こえなかった。異世界では電波とか受信してないから。




