さすらう20
マッチョ、マッチョ、マッチョ。見渡す限りのむさい奴。そう、彼らは冒険者。力と技で糧を得て、今日も酒場で癒やされる。
無精髭にザンバラ髪が共通項。鋭い視線にあくどい笑顔が合い言葉。
武器という名の合法凶器を剥き出しに集団で森を歩く。やだ狂気。
「そんな中に紛れ込んだ一般の人、わし。どこでこうなった?」
「なに言ってんだ?」
状況説明だよ。
どこぞの馬鹿どもがやらかした。大体そんなニュアンス。
クランを作るとか言ってた若造が、王都の方から上級冒険者を引っ張ってきたらしく、クランを本当に設立。なんでも上級以上じゃないと立ち上げが出来ないとのこと。そんで誘いを受けてた奴らは、この街に上級冒険者が来たことに沸いたそうで、熱気に釣られるままにクランに加盟。
年配冒険者はそれに苦笑いだったそうだ。誰もが一度は通る道だそうで、冒険者は元々が自己責任。文句を言える筈もなく。少しすれば熱も冷めるだろうと思っていたんだと。
クランの拠点も街の名義で、実際に労働力を取られた訳じゃないし、街の依頼を受けるのだからこれまでと変わらないと考えたわけやね。
しかしあのボンボンがやらかした。
順当に行けば中級冒険者の中ぐらいの実力があるらしいあの貴族のボンボンは、本当なら自分がクランの代表に成るつもりだったらしく、上級冒険者への昇格を急いでいたのだがこれが中々上手く行かず、妥協案として上級冒険者を呼んだそうだ。
だが、そのおかげで戦力が集まってしまい、上級冒険者も居るからと取り止めになりそうだったケネミーランゴの討伐を再びやることにしたそうだ。
クランに参加した地元勢の若い冒険者達も、本当にクランを立てた事といい上級冒険者を引っ張ってきた事と相まって、いけるんじゃないか? という意見が多数を占め始めたらしい。
本当なら自分が上級冒険者になってから華々しくクラン設立を目論んでたと思うんだが……クランを立てるという発言と、ケネミーランゴを討伐出来るという発言が上級冒険者を呼ぶことで上手く繋がって誤解を呼んだんじゃないか?
ベテランの冒険者達は、流石にこりゃマズいと止めたそうだが、若い奴らは聞く耳を持たなかったそうだ。ここで危険指定のモンスターを倒して有名クランのクランメンバーに名を連ねる自分達を妬んでるんじゃないか? という穿った意見もあり、忠告は無視されたとか。
上等な武器や防具を支給され、高い魔道具や回復アイテムなんかも買い込んで出撃したそうで、実際にクランを設立したのだからと専属を夢見る若い商人連中が資材を投資して回っているのを、地元の商人が見つけ繋がりのあるベテラン冒険者に話して今に至ったそうだ。
警戒しながら森を行くベテラン冒険者パーティー。プラス元コンビニ店員である。
呟いた言葉に反応した、隣を陣取るハンスキンに首を振る。
「なんでもないです。ただ、放っといたらダメなのかなーって思っただけで……」
「あー、まあ、冒険者は自己責任ってのが大前提だからな。でもよ、実際にここを拠点にしてる冒険者が大量に死んだら、困るのは街の連中にギルドだわな。依頼は滞るし危険も増す。だから地元に根を張る冒険者ってのは、地方の都市にとっちゃ死活問題なのよ。流れてくる奴も少ねえのに、これ以上数を減らされたら堪ったもんじゃねえ」
そういうもんか。実際には色々としがらみがあるんだな冒険者。
逆隣を歩いていたスキンヘッドの冒険者が会話に加わってくる。
「……だからなるべく危険が少ない依頼をこなさせていたんだが……それが徒になった。冒険者の依頼には常に危険が付きまとう。最低でも掛けていいのは自分の命だけだと、もっとよく理解させるべきだった……」
眉間に皺を寄せているスキンヘッドは、最初にハンスキンと一緒にいた冒険者だ。
「……ノブさん」
「……バンだ」
やだな。冗句ですよ? 雰囲気をなごませようという俺の思いやり。ごめんなさい。
睨んでくるスキンヘッドから逃げるように視線を逸らしたら、その先にいた冒険者がタイミングよく手を挙げてクルクルと回し出した。
流石ベテラン冒険者達。無音で素早く身を伏せ、手に弓やら剣やらを抜いている。
ワンテンポ遅れたが身を伏せた俺は、素早くポケットから竹串を引き抜く。
「……なんだぁ、そりゃ?」
「竹串だ。知ってたか? 規格より小さいやつは貰ってもいいんだ」
「それでどうすんだって聞いてんだよ! 竹串で刺したらモンスターが死ぬのか? ああん?!」
「無知な奴めっ! 俺の故郷じゃ竹装備は中々のレベルにあるわ! 本当は最初はヒノキだからなんだっていうんだっていう木の棒スタートなんだぞ? スタート時点ならレア武器じゃろがい!」
「……頼むから緊張感を持ってくれ」
小声で叫び合う俺とハンスキンにスキンヘッドからツッコミが入った。青筋出てますよ? 大丈夫ですか?
先頭を任せている斥候職の冒険者が戻ってきてクイクイっと手招きする。
途端に周囲を警戒するグループと、斥候職を追い掛けるグループに別れる。俺は何故か斥候職を追うグループだ。左右にいる二人に挟まれるままに進んだらそんな感じになった。
森の中だというのに静かに素早く進む技術は大したもんだと思う。一番音を立てているのが無装備の俺という現状。俺いるかなぁ?
「ハンスキン、ここだ!」
斥候職が進んだ先に、他の冒険者が手を振って声を挙げている。やや焦っているのか、本当なら声を出す予定は無かったのについ出てしまったと口元を抑えている。
視線で謝る冒険者にハンスキンが手を挙げて応えたので真似して手を挙げる。ドンマイ。くよくよするなよ。
「……?」
訝しげにこちらを見る冒険者だったが、今はそれどころではないと体をズラして隠していた物を見せてくる。
死体である。見たくなかった。
木に寄りかかるように死んでいる冒険者の死体の死因は、どう見てもお腹に空いた大きな穴だ。ダイエットもビックリだよ。しかし何より注目すべきなのはその状態だろう。
干からびている。
しかもカサカサになった皮膚を突き破って植物が幾つも生えている。目玉は無くなり、開いた口や鼻からも植物が天に向かって伸びている。
「……こいつ、あれだ。クランを設立した上級の奴だ」
「ここらはまだ縄張りじゃない筈だが……しかも他に遺体が無いのも」
輪になって会議を始めてしまった冒険者達に一つ頷く。
「じゃ、そういうことで」
「待て」
気を使って小さな声で言ったのにハンスキンは聞き咎めたのか止めてくる。
いやいやいやいや無理無理無理無理。無理だから。こんなガッチガチのファンタジーとか無理だから。もっとソフトなので頼む。思えばサンショウウオやら蜂なんかはまだ優しかった。ちょっと来る異世界を間違えただけみたいなんで。
「離してくれ! こんなところに居られるか! わたしは帰らせてもらう!」
羽虫が居た異世界に行くんだ!
「バカ、違う! ここはもう奴の影響圏内の可能性が高ぇんだよ! 単独行動はヤベェって話してんだよ!」
……いつの間に死地に踏み込んだ? こちとらフラグには詳しいのに全く身に覚えがないな。




