さすらう19
あの羽虫が言うには。
「そうよ。あたしも変な声に誘われたの。まあ、あたしは可愛いからね、わからないでもないわ。そういうのいらないってなによ! ……前も思ってたんだけど、あんたってよく話を脱線させるわね……。もう全く、全くもう。え? さあ? 知らないわよ。うん? 集会でもそういう話は出るわね。新入りが必ず聞くもの。神様? あー、そういえばチキュウ世界の人って絶対そう言うわね。違うわよ。なんでって……違うもの。チキュウ世界には神様がいないのね。人々の心の中にとかいらないから。そういうのいらないから。そうね。普通はいるわよ。うーん……あたしも難しい事はわからないわよ。でも、神格ってのがあるのよ。そうねぇ……あたしの雰囲気に近いものって言えば、わかっ……て速いのよ! 被せてこないでよ! 失礼ね! 全く失礼ね! え? だから知らないって言ったじゃない。バカなんじゃないの? あ、あ、あ、待って待って中身出ちゃうから! ごめんなさい! 許してください! ……あー、ジャムが出るとこだったわ。えーと、『根源者』とか呼んでた気がするわ。単一にして終わりに向かいし者とかパーズ世界の人が言ってたわね。帰り方ねぇー? うーん、わからないわ。そもそもあたし達って死んだのよね。戻っても死んじゃうんじゃないかしら? 次元間を渡って生きていた世界の人がいるんだけど、なんか別とか言ってたわー。難しくて流しちゃったけど、この世界と他の世界って、厚い壁とか厳しい条件とかじゃないんだってさ。元より無いものなんだってさ。大丈夫よ。あんたも次の集会に出れば。うんそう。ユウビンヤさんってなによ? 出れるわよ。そういうダンジョンだもの。ダンジョンマスター限定。全く変人よね。まあ多分。そんなに帰りたいの? 大体さー、最初に選ばせてくれなかった? あ、そうなの? やだ、あんた騙されたんじゃないの? ……あれ? 瓶逆さにしたら出れないじゃない。ねえちょっと。どこ行くの? ねえ?」
とのこと。
帰れない系の異世界召喚だそうです。というか異世界召喚なのかも怪しい感じだ。どうも異世界っていっぱいあるのが常識みたいに言われたよ。どこの世界の常識だよ。じゃあここは何処なんだよ。わたしは俺だよ。
冒険者ギルドの隅で内職をしながらそんな事を考えていた。
ちなみに内職は、紐で竹串を百本一括りにするという内容だ。十本並べて竹串の型を取ってある板に、竹串を入れて、長過ぎてはみ出した物と短過ぎて引かれてあるラインを割った物を除外して、規格にあった物を百本纏める。
俺の前には小さい木箱と大きな木箱。小さい木箱がスカ入れで、大きい木箱に製品を入れてある。童謡はフィクションでしかない。
ジャラジャラと竹串を取り出して適当に鷲掴み。判定板に流し規格外品をヒョイヒョイと取り除いて、空いた所に再び竹串を入れる。問題無ければ板をひっくり返して端に寄せる。十回繰り返したら紐で綴り製品箱へ。
繰り返す作業に、飛び出る竹串を指差す。
「前に出るから!」
「……なーにを言ってんだお前は……」
「俺の国では『出る杭は消滅』っていう歪んだことわざがあってな? なんにもしてなくても『あいつ調子ノッてね?』とかいう理由で拡散されることがあんだよ。そういう時に被害者を指差して叫ぶ風習がつい出てしまった……って、なんだハンスキンさんじゃん。どうした? 嫁と話し合いの場を持ったはがいいが、向かい合って一時間近く黙りこんだまま終了でもしたのか?」
「ししししてねえし! 大体、その、あれだ。……そうなったらどうなんだ?」
「あ、店員のお姉さん。注文いいですか?」
「おい!?」
エクスキューズミー。
手を上げて休憩しようとした俺に、ハンスキンが待ったを賭けた。ウェイトレスのお姉さんに何でもないと手を振って注文を撤回するハンスキン。
そんなに絶望したいのだろうか?
「ハンスキンさん……悪いが弱い者イジメは趣味じゃなくて……」
精神的に嫁に削らまくってライフがマイナスのあんたにトドメは刺せないよ!
寂しげに笑う俺にハンスキンが怒鳴る。
「なんの話だよ!? ……そうじゃなくてだな、お前も暇してんなら依頼に付いてこねえかって思ってな」
「この竹串の山が見えないんですか!」
「それ期限ないやつじゃねえか! 依頼なくて暇な時に受けるやつだぞ!? しかもあんまり金にならねえ!」
失敬だね。こんなんでも一束十円にはなるんだよ? あの羽虫が文字通り俺から甘い汁を巻き上げたおかげで、宿泊費がヤバい感じなんだよ。先輩から搾取される後輩が正にここに。世界を越えても受け継がれる悪しき伝統だ。マジでダンマス、アウトロー。人類の敵。
会話をしている間も動き続けるマイハンド。単純作業って考え事にいいよな。ノリのいい曲とか掛けてくれ。
そんな俺を見て、眉間を揉みほぐし深い溜め息を吐くハンスキン。思わずウルッと来ちゃったかオジサン?
とりあえず宿代の為に、あと五百束は作ろうと思っている俺に、ハンスキンが人差し指を立てる。
「参加で十万出す」
「なにしてんすか! 早く行きますよ!」
恩人の依頼という渡世の義理に駆られ漫然と立ち上がった俺に、ハンスキンから驚きの視線を頂いた。
日々の疲れが瞳に出ているが、離婚瀬戸際だからだろう。仕方ない。
ハンスキンと一緒に冒険者ギルドから出ると、外には冒険者の団体さんが屯っていた。
……おお、なんだよ。大規模戦闘でもやる雰囲気。ピリピリしてんな。
その輪の中に珍しくも入っていくハンスキン。
あ、なんか嫌な予感。
「……依頼って、なにすんですか?」
ハンスキンに追いすがり、今更ながら依頼内容を確認する。
先程までとは違い、ハンスキンも表情を厳しくしながら答えてくる。
「緊急救出依頼だ」




