さすらう17
倉庫の在庫整理の依頼をこなした翌日。
昨日、休憩中にアトモに、こんな依頼ってないかなぁと尋ねたところ、商品の搬入のために動かす馬車に乗っていってもいいと言われた。
当然護衛も雇っているけど、その囲いの中に俺は入っていない。正しい洞察だ。一般人に毛が生えるどころか草が生えるような俺を護衛に入れたら、なんかそれだけで全滅とかしそうだもの。
強いモンスターとかに出会ったら「こっちはこれだけの人数がいるんだ!」とか言っちゃうよ。そして「ヒャッハー!」とか言って一番に飛びかかる。間違いない。そして全滅した後に一人立ち上がるところまで見えた。報告は省略して最後の一文だけ抜き出そう。
そりゃ雇って貰える訳ねえな。
それでも構わないと車中に身を預けた俺を待っていたのは…………激しい馬車揺れでした。
魔法技術はどうしたとツッコミを入れる程に激しい揺れだ。サスペンションなんか勿論ない。揺れはダイレクトに体を揺さぶる。立ち上がれない。
「凄い揺れですね」
「ああ、ヤバいな」
隣に座った男性冒険者と共に頷く。
馬車には既に荷が積まれ、空いたスペースに詰め込まれた冒険者は四人。内訳は、俺、男性冒険者、女性冒険者、ナイスバデーの女性冒険者だ。一部が激しく自己主張するナイスバデーの女性冒険者は、馬車に揺られるのは初めてなのか周りに目がいっていない。
不意に馬車がハネる。おそらく石か何かを踏みつけんだろう。胸躍る展開だ。冒険者はこうでないと。
「今のは良かった」
「ああ、胸踊った」
「あんたら馬車が止まったら覚えときな」
「ひぃ〜ん! お尻いたーい!」
不可抗力なんです。
俺を降ろして馬車が行く。清算はあちらの彼に、と殺気立つ女性冒険者に言っておいた。別れを惜しんで激しく手を振る男性冒険者に、俺も手を振り返した。助けてとか言ってた気がするが、よく分からなかった。対価は支払うのが世の常だから。
朝焼けなのに夕日のように感じてしまうセンチメンタル。ああ……世(余)はなんて無情なんだ…………。
もういいかな? 馬車も見えなくなったし。
まだ誰も戻ってきていないのか、ダンジョンの入口周りにはテントが張られていない。
誰もいないとか気分がいいな。それではソロ挑戦いってみよう。
まあぶっちゃけ、入って速攻羽虫コールキメるだけなのですが。
駅地下の階段を降りると久しぶりの花畑。メルヘンを通り越してるぜ。なんぼなんでも限度があるでしょうよ。
地平線まで続く花畑を歩くつもりはない。マジこないだは小走りで一時間近く掛かったからな。そういう意味では突破に時間が掛かった。途中で花を踏むことへの罪悪感は消えた。ここは必殺(?)「大きく吸ってせーのっ」
でいこう。
はい、スゥーハァー。やべ吐いちゃった。
「は! む! し! ちゃん! あぁー! そぉー! ぼぉおおおおおおお!」
…………。
うわ、森から冒険者が顔出してきたよ。頭下げとこ。……。おい、ハチまで寄ってきたよ。
格の違いを見せつけるつもりで指の骨をボキボキと鳴らしてみたが、聞こえてるのかいないのか分からな過ぎる。マジ能面。そもそも表情がない。
えーい、戦闘だな。やってやる!
クイッと突き出されたお尻には針。包丁大。思わず俺のお尻にも力が入る。
「いくぞこのホモ野郎!」
掘られてたまるか!
実際これが人間なら全力疾走で帰るところだが、相手はあのメンヘラ羽虫が生み出した虫だ。中身がないのは承知!
ハチの針に当たる直前に半身になって横っ飛びをかます。横の動きに対応出来なかったのか、あっさり背後を取れた。
「殺った!」
ハチの顎と頭頂部を掴んで百八十度! 実際には百程しか曲がらなかったが、ゴキリという鈍い音が響く。
素早く手を離すと、バランスを保てず飛べなくなったのかポトリと地面に落ちて痙攣し始めるハチ。
「テレレレーレーレーレーテッテレー」
レベルが上がった。
ちょっとカッコつけたい時に限って一人。誰だよソロ攻略とかやってんの。離婚間際のおじさんだね。きっと。
誰か今のスタイリッシュを見ててくれなかったかとキョロキョロする。先程、僅かしかない森から顔を出していた面々はどうだ? どこ向いてんだよ。空とか見上げちゃって思春期か。
『ふむ。素手なのに面白い動きをする』
でっしょ!? しかもまだ生きてるから雷魔石とやらも取れるやも。
『……なるほど……魔石を奪う為に生かしておったか』
「そう、全て計算……いやどっから声掛けてきてんだよ」
「ここからだが?」
畏怖と戦慄を呼び起こす声が空間を満たし、排出された空気がそれだけで花畑を掘り起こす。
ビルにも勝る巨体が地面に降りただけで巻き起こる突風と地揺れに、生半可な実力では相対する事は出来ないと想像を掻き立てるモンスター。
竜が花畑に降り立ち、こちらを見ている。
なんのための念話なのかと思う。お前、なんか最下層のボス格じゃねえのかよ。一層にくんなよ。あと羽虫も他の奴を使いに出せよ。分かるだろ? 見ろ、他の冒険者とか腰抜かしてるか森の中に逃げ込んでんじゃねえか。
どう考えても目立って止まない。バカなんじゃないの。
喋り辛いと思ったのか竜が顔を寄せてくる。とても血なまぐさい息が顔を叩いていく。
止めてください。
『偉大なる主は、その御技を磨くのに忙しい。故に我が、貴様を迎えにきた』
「そうですか。それはわざわざ御手数でしたね」
『構わぬ』
うるせえよ。
もっと……あのワープする光の柱だけ出して念話で呼ぶとかあったろ。もうちょっとなんかあったろ。どうすんだよこの空気。低レベの狩場にミュータントだよ。無双にストップか。
こうやって話してる間にも他の冒険者の間には緊張した空気が漂っている。どうやらパーティー間で連携するようだ。森や花畑に伏せながら、竜を遠巻きにやり過ごしている。
竜さん本竜はどこ吹く風。
『では往くか。乗れ』
そう言うが速いか、その血の臭い漂う口をガパッと開けた。
では逝くか、だろ。それじゃあさ。




