さすらう16
朝が来た。新しくもなんともないな。せめて朝チュンレベルでなければ新しいなんて認めない。
とりあえず着替えだ。着心地のいいTシャツとパンツへと着替える。ボロボロの部屋着は既にご臨終だ。宿屋の庭に埋めて供養をしていたらぶん殴られた。聞こえますか? これがあなたへのレクイエムです。危うく俺へのレクイエムだった。
着替えを終えると金をポケットに。残りはギルドへ預けてある。ギルドカードで降ろせる上に本人認証付きだ。無駄に高いセキュリティーだ。
着替えを最初に貰った袋に入れて部屋を出る。階段を降りて鍵をヒゲの親父に返す。
「まいどあり。まとめて宿泊予約取った方が得だぜ?」
「金がねえよ」
分かってて聞いてんだろう。笑ってやがる。
妄想の中でヒゲをむしってやりながら食堂に入る。一人なのでカウンター席に座ると、料理をしてるノッポが申し訳なさそうに謝ってくる。
「親父がすいません。親父、ヌラさんのこと気にいってるみたいで……」
気にいってる奴をボコボコにするかな? リップサービスですね、分かります。
「じゃあオマケしてくださいよ。安いの一つ」
「はいよ。普通盛り一つぅう!」
おい。
やってきた定食は四百円だ。交換するように硬貨をノッポの手に乗せる。隣で同じのを食ってる奴の量を確認。
同じですわ。
もうね、慣れたよ。仕事とは別ってやつだ。信頼できるぅうう。くそったれ。
丸パンにシチューというメニューを平らげる。デザートは八分にカットされたオレンジ。
飯を食い終わると席を立つ。朝の回転は早いので残っていると迷惑になるからね。
宿屋の外に出るとそこは大通り。朝早ぇのに、もう子供が駆け回っている。学校がこの街にはないのでパワーが有り余っているのだろう。そりゃ依頼にもなります。
昨日受けた依頼は、在庫整理だ。
いい感じの護衛やら現地解散のダンジョン攻略などがなかったので、どうにかしてよハンエモンと泣きついたところ、商人系の依頼を受けてみろとのお達し。道具とか出してくれなかった。
冒険者ギルドに依頼を出すのも手間なので、在庫整理や商品の搬入などをやっていると、そのまま護衛を頼まれることもあるとか。但し、ギルドを通してないので昇格点は貰えない。しかもあんまり依頼料が高いとお目こぼししてもらえないってさ。なにがって、税金です。
依頼料が半端だと思ってたが理由があったんだね。ギルドでキチンと税金を引かれているそうだ。畜生だな。勿論我々冒険者が。
資材置き場に到着すると担当の商人が片手を上げる。
「依頼を受けてこられた冒険者の方ですか?」
「うっす。ギルドから来ました」
確認のためにギルドカードを取り出して認証。ソロバンみたいな魔法機でカードを読み取ってもらう。割り札なんかないよ。魔法が便利過ぎる。
「よう。お前も在庫整理?」
「おー、お前もか? 売り子はどうした?」
どうやら二人作業らしく、商業系の依頼でよく一緒になる奴と手を上げて挨拶しあう。確か名前はアトモとかなんとか言ってたな。十万どころか半馬力もないヒョロい奴だ。
「今日はいいってよ。在庫整理に回されたわ。どうも人手不足らしくてな、冒険者ギルドにも依頼出してたんだな」
チラリと担当の商人さんに視線を向けるアトモ。
「商人ギルドに登録している見習いが受けなかったそうで……。冒険者ギルドでクラン設立を唄っている方が、専属契約を持ちかけているらしく、そちらに取られているのでしょうね」
ちょう心当たりあるわ。
「えっ、そうなんですか!?」
でも驚いておこう。
アトモが溜め息を吐き出してうなだれる。
「商人が踊らされてどうするんだよ……。上級冒険者がいない限りクラン設立は認められない。商人だって上級会員にならなきゃ、本部商会は建てられないって知ってるだろうに」
「なにぶん見習いですからね。夢を見てるんでしょう。ケネミーランゴを相手取って鳴り物入りで上級冒険者になってクランを立てると言っているそうで……若い人にとっては眩しく見えるんでしょうね」
迷惑そうに商人さんが呟く。
冒険者ギルドの他にも錬金術師ギルドや商業ギルド、鍛冶ギルドなどの様々なギルドがこの世界には存在し、その役割を果たしている。各ギルドの関係は概ね良好。依頼が被ったり分野が重なったりする場合もあるが、相互理解の精神で運営されているらしい。互いのバランスがキチンと取れているのだとか。
だから今回のような一つのギルドの波紋は、そのまま他のギルドにも影響するのだろう。
「やっぱり上手くいかない?」
「いかないな」
「いきませんね」
即答ですね。
「この街の生まれの奴ならケネミーランゴがどんだけヤバいか分かってる筈なんだ。上級冒険者で構成されたパーティーでも危ない」
「実力は上級とか思っているんでしょうね。資材を投資した商人は回収もままならない筈です。……ほぼ確実に潰れますね」
フラグ乱立ですね。……なんか俺も不安になってきたよ。少しずつ包囲されてるような……。
「万が一にも上手くいかない? なんか自信があるみたいだし……」
「……いかないだろうなぁ」
「そもそもの話、問題もない地方に冒険者登録をしにきた貴族……この時点でケネミーランゴなどの危険指定のモンスターに挑むのは無謀です。コネや策、または実力があるなら地方に来ませんからね。生まれた土地で冒険者になっても十分……というか、そちらの方が有名になれます」
「この手の話はよく聞くんだ。大抵は現実を見る結果に終わるんだけどな。仲間が死んだり、討伐を連続で失敗して昇格が遠ざかったり」
「そうですね。なにが根拠のない自信に繋がっているんでしょうか?」
中級の中でもベテランでソロでもやっていけるほど強い冒険者と対等に話していた冒険者を一撃でノしたり、本来なら厳罰な筈なのに自分達を恐れてギルドが罰を下してこなかったとか思ってる所からじゃないでしょうか。
実際は下級の戦闘ペーパーな新人だったり、掠り傷一つなかったので、喧嘩としても立証しにくかったという事情がありそうですね。
うん。
「わからないですねぇ」
「全くです」
「本当になあ」
しみじみと頷き合うと仕事を始めた。仕事の時間だから。逃げた訳じゃない。
綴られたリストの商品の有無と数の確認が今日のお仕事。
バインダーを捲り、倉庫を開く。
おやつスライムが…………八十九。怪しげな白い粉が入った袋が…………二十二、血のついた鉤爪が十一、と。
早く逃げなきゃ。消されちゃう。




