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さすらう15



 冒険者ギルドに入るとハンスキンとアインが話しているのが目に入ってきた。


「お疲れでーす」


「おう」


 ハンスキンの手元には定食。アインの手元には水。多分依頼終わりなんだろう……ちょっと高いの頼んでやがる!? つーか夕方だよ。まだ嫁さん帰ってきてねーのかよ。


 俺の表情から何が言いたいのか察したハンスキンが、誤魔化すようなぎこちない笑顔を浮かべながら酒を煽る。哀愁がハンパない。


「……ちっ」


 おっと、ご挨拶ですね。


 こちらをチラリと一瞥したアインが聞こえるような舌打ちをして立ち上がる。


「じゃあまた今度詳しく話すんで、考えといてください」


 アインが去っていくのを横目でみながらハンスキンのオカズを奪う。美味い。


「おい!? メインのオカズじゃねえか! せめて隣の副菜で抑える遠慮はねえのか?」


「俺に死ねって言うのか!」


「どんな食生活送ってんだよ!」


「そろそろ子供のおやつを奪おうか悩むレベルだ」


 モンスターの踊り食いというのが俺にストップをかけさせる。じゃなきゃライド(仮)のおやつなんて物は存在しなくなっていただろう。勿論、情操教育的に。


「……食えよ」


「……食べかけかよ」


「お前が食っただけだぞ!? ああ、くそっ。おう、すまんがフライ定一つくれ」


 すれ違ったウエイトレスにハンスキンが手を上げて注文する。お財布ハンスキンの異名は伊達じゃないな。


「あざまっす」


「おう、感謝しやがれ」


「できれば飲み物もいいっすか?」


「そこは自分で頼めよ!」


「すいませーん。水くださーい」


「水かよ! ……どんだけキビシイんだよ……」


 十日もしない内に路上生活に戻るぐらいだ。大したことない。


 アインが飲んでいたであろう水をさり気なくハンスキンの方へ追いやりながら隣に座る。


「つーか宿代が微妙にキツいですわ。食事ついてないし」


「ああん、そうだっけか? 駆け出しの頃なんてあんま覚えてねえんだよなあ……。あっ、住み込みの依頼取ってたな。安いけどよ、飯も出るしよ」


 住み込み!? ……盲点ですわ。もう正直冒険者=バイト戦士だからな。日本でのアルバイトで住み込みとか組み込むことない実家暮らしだったから。


「住み込みかあ……。他に美味しいのあります」


「……ハチミ「蜂蜜以外でオナシャス」


 台詞を遮られたハンスキンが、副菜をフォークで弄りふてくされながらも経験からのアドバイスをしてくれる。


「他なぁ……。やっぱ身軽なら隊商の護衛とかだな。野営だが飯は出るし金もそこそこ貯まるからな。飯場の依頼とかもいいぞ。とりあえず食いっぱぐれはねえしよ。あとは……ああ、クランに属すのも手だが……」


「クラン?」


 おおクラン。知ってる知ってる。要は派遣会社みたいなやつだろ? 冒険? そんなものは異世界には存在しない。夢とか日本で語ってくれ!


 微妙に嫌そうな顔でハンスキンが説明を続ける。


「この街にはクランなんて大層なもんはねえ」


「ダメじゃん」


 なんで選択肢に入れたの?


「他の街に行って入るって手もあるからよ。つっても見極めはしろよ? 新人に辛くあたるところもあるからよ。……中には月々に金を納めるようなクランもあるからな」


 なんて意味のなさだ。魅力ゼロだよ。そもそも生活を楽にするために聞いてるのに逆に辛くなっちゃうよ。


「誰が入るんだよ、そんなの」


「装備の補填やら修理に整備、宿の確保から依頼への対応力と、まあ良いこともあるんだぜ? ただ都会なら、だな。ぶっちゃけこんなモンスターが幅利かせてないような田舎でクラン立ち上げてもなぁ…………リーダーは損しかしねえんじゃねえか? 怪し過ぎるぜ」


 んん?


「誰かクラン立ち上げるのか?」


 無いって言ってるのに立ち上げるようなことを言っていたので気になって聞いたら、ハンスキンは難しそうな顔をした。


「この前、お前ぶっ飛ばしたパーティーがいたろ? ほら、貴族様のよ」


 誰だろう?


「ああ、うん。いたいた、いたなあ。うんうん」


「その貴族様がクランを作りてえときた。大方、有名クランの真似してんだろうがよ……要は自分達の実力の底上げがしてえってのが見え見えだわな」


 見栄見栄ですね。


「底上げしたいのか?」


「おう。あいつらもダンジョンに潜ったらしくてな、九層だったか? で退却したんだとよ。手っ取り早く手柄が欲しくてダンジョン制覇に乗り出したが、田舎のダンジョンだと舐めてたんだろ?」


「ダンジョンって、この前行った?」


「そうそう、こんまえ行ったダンジョンだ。ぶっちゃけ九層は普通レベルだな。中級のパーティーならそこらだ。この街に残ってる記録が三十二層で、まだ下の階層があったってよ。今街にいる最高のパーティーが、確か二十四層までしかいけなかったって話だな」


 凄かったんですね羽虫様。次から言葉遣いには気をつけよう。


 ウエイトレスが定食と水を持ってきたので受け取る。ハンスキンが金を払った後、まだ終わりじゃないと話を続ける。


「まあそれで身の程を知ったんだろ。ダンジョン攻略は諦めて、今はケネミーランゴってモンスターを狩るって意気込んでるらしい」


「ケネミーランゴ?」


「ああ。なんつったけな? 確か植物系のモンスターなんだが……あんま覚えてねえや。確かそこそこ近くの山を根城にしてる危険なやつだったな」


「俺、この飯食い終わったら旅に出るんだ」


「落ち着け。縄張りから出てこねえし、縄張りに入った奴しか餌にしねえから、放っときゃ安全なのよ。むしろそいつが縄張り張ってるから、この街に近付くモンスターは少なく済むんだよ」


 防波堤じゃねえか。倒したらダメなやつだろ。


「まあモンスターだからな。倒すななんて言わねえし、名も上がるんだろうが……あいつら程度なら喰われるのがオチだな。やっこさんもそれが理解出来たからクラン作って数で対抗するか、上級冒険者に頑張ってもらおうってんじゃねえか?」


 ……なんてこった。今そんな感じなのかあのハーレムパーティー。鮮烈デビューから落ちぶれようが凄い。つーかそのクラン、どう考えてもヤバいだろ。肉盾要員集めてるとしか思えない。フラグ、ビンビンに感じますよ父さん。


「それは……どう考えても乗れねえっす」


「……だよなあ。でも若い奴らはくっついていってんだと」


 おいおい。


「なんで?」


「あー……そりゃ、まだ都会で一旗とか、成り上がりってやろうって思う年だからよ。英雄になりたくて冒険者やってる奴なんざ、それこそ星の数程いるわな」


 フラグを一旗になりますが?


 首を捻る俺にハンスキンが苦笑を浮かべる。


「お前ほど安全に意識が裂けりゃあ問題ねえんだがよ。この街の生まれの奴はどっかモンスターをナメてやがるからなあ。街にモンスターは入ってこねえ、街の外は雑魚ばっか、しかも先輩冒険者の指導があるからある程度安全、おまけにダンジョンの上層はヌルいからよ。地に足が着き出すのも中級に上がってしばらくしてから……ってとこだな」


 なるほど。


 近くのダンジョンは三層までならソロでも潜れそうだもんな。蜂もサンショウウオも動きはそんなに速くないし、倒し方も確立されてるし……兎も狼も話を聞くに雑魚に分類されてる。ハンスキンやら他のベテランは、駆け出し冒険者に危険がないように面倒見てる感じがある。悲鳴を上げたら駆け寄ってきたし、マナーもいい。実力を勘違いした下級冒険者や成り立ての中級冒険者が、名声を得るために立てた貴族のクランを足掛かりにしようと思うのは分からんでもないな。


 野心ってやつだな。


「でも、危険なやつに挑むんですよね? ちょっと考えればわかるんじゃ?」


「……わかんねえんだよ。元々そんな頭がねえ奴ばっかりで、しかも経験も浅え。危ないなんて何度も言われてるが、見たことねえから実感が湧かねえ。冒険者になって失敗もねえ。モンスターなんて獲物でしかねえ。クランなんてもんがあるんだから大丈夫だろう。勝ち馬に乗ろう……で、気づけば命の瀬戸際よ」


 ハアーっと溜め息を吐き出し落ち込むハンスキン。


「どうしたんっすか? そんなん関わらなきゃいいでしょ?」


「俺ぁな。しかしアインのバカが入るって喚いてんだよ。もうバンのパーティー抜けやがった」


 なんという死亡フラグ。


「……墓には花でいいんすかね?」


「まだ死んでねえよ!?」


 いや、それは死ぬよ。何度も死んでるから死臭の嗅ぎ分けに定評があります。


「……ほんっと、貴族様ってやつぁ、冒険者になるもんじゃねえぜ。田舎には田舎の調和ってのがあるのに……かき乱しやがって」


 ちょっと酔ってきたか?


 ハンスキンが手を上げて酒の追加を頼む。


「でも成功してるとこもあるんですよね?」


「稀にだな。ほんとにモンスターに呑まれそうな街で、実力のある貴族の冒険者がその街の冒険者を束ねてクランを結成したって有名な話が確かにある。だが大抵はここと同じようなもんだぞ? 自分の実力の無さに気づいて問題起こしたり家に出戻ったり、大体喧嘩に魔技使ってる時点で自信がねえ証拠みたいなもんだ。上手くいきっこねえさ」


「この街の冒険者的には人数が減って大問題、と」


「そういうこった。田舎だからな。流れてくる奴なんてめったにいねえ。来てもあんな感じの貴族」


 オチが読めますね。なんだろう、早いとこ街を出た方がいいような気がしてきた。


 その後も、ハンスキンに良さそうな依頼のアドバイスを貰いながら、受付で依頼の受諾を行い宿に戻った。


 この問題がやや大きくなっていくとは知らずに。



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