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リバースサイド



 気がつけば白い空間に立っていた。


「…………え……?」


 自分の口から漏れたとは思えない程に声が遠く、白い宇宙を掻き立てる空間に足下が激しく不安になる。ともすれば落ちているような昇っているような気もしてくる。


 訳が分からない。


 周りを見渡して見たが、本当に体を回転させたのか怪しくなるくらい、同じ風景が広がっている。


「いいかな?」


 明らかな異常事態に混乱しそうになる一歩手前で、場にそぐわない幼く明るい声が響いてきた。


「ここは…………どこなんだ?」


 記憶の整理がつかない。


 自分が何をしていたのか今一よく思い出せなかったため、唯一と言っていい程の手掛かりに逆に問い掛けた。


 声は答える。


「え、名前? …………うわー、それは考えてなかったな。今まで聞かれたことないもん。ここは『ここ』だね。次までに考えとくよ」


「……ふざけてるのか?」


 その声の軽さに、段々と苛立ちがつのる。


 間違いなく年下の声だ。こっちをナメきってやがる。


 しかしそう考えた途端、声が動揺も露わに聞いてくる。


「お、怒らないでよ。しかも怒られることじゃないし。覚えてないの? 順番に思い出せば大丈夫さ。ほら、飲み物が欲しくて部屋を出て――――?」


 その声に記憶がフラッシュバックする。


 ……そうだ。喉が渇いていた。


 考えごとをしながら信号の前まで行った。コンビニに行きたくて。赤だった。信号が変わった。渡った。…………それから?


 ――――いや覚えている。


 甲高いブレーキの音に、激しい衝突音。目まぐるしく回る景色。段々と抜けていく力――――。


 そこまで考えが至ったところで、『ここ』で目が覚めてからずっと右わき腹を左手で抑えているのに気がついた。


 ……痛い気がしたんだよな。抑えなきゃって。でも何ともない。


 自分はこれに近い状況を知っている。アイツが好きな本とかを借りて読んでいたから。


 汗が出てきた。


「お、お、俺……も、もしかて、もしかして……し死んだ?」


「そうだよ」


 ……軽くないだろうか? いやセオリーならこいつは神様とかだろ? 人間一人の死なんて、それこそ何千年と繰り返し見てきてる筈だもんな。気にならないんだろう。


 そこまで気づいた時に心の底から思った。


「告白……しときゃよかったな……」


 泣いてくれるかな。泣かれるのか……それもキツいな。せめて、この想いだけでも伝えたかったな。……結局、俺たちは誰にも何を伝えず――――伝わらずに終わっちまった……。


「生き返れたりするのか?」


「無理だね。幽霊として現世に降りることは出来るけど……やる?」


 声の問い掛けに首を振った。


 幽霊って……一番切ないじゃねえか。見えず触れず……終わりってくるのか? 考えただけで恐ろしい。


「あのね、どうしてもって言うんなら、このまま返してあげるよ。こっちとしてはこういう(・・・・)趣向も面白そうだと思ったからで、別に無理してって訳じゃないからさあ」


「帰して? 帰れるのか? だっていま……」


「ううん。返すって……難しいなあ、えと、理に戻すってこと。つまり普通に死ぬ。『ここ』って普通はこれないから」


「普通に死ぬって…………それ頷く奴いないだろ」


「そうだね。僕は(・・)見たことないや。じゃあ説明に入るけど、選ばれる人は大体適正があるから受け入れが早いから、何を言うのかは予想がつくかも」


「……そうだな」


「うん。君を異世界に送ろうと思う。一つだけ特別な能力を持たせて」


 ありがち。


「その世界で何をやればいいんだ? 何か報酬とかあったり?」


「そういうのは一切ないよ。君は、その世界で好きに行動(・・・・・)すればいいよ。魔王はいるし魔法もあるけど、僕たちには関係ないしね」


「魔王いるのか……」


「色々(・・)いるよ」


「……何か偉業を成したり、魔王を倒せば現代に帰れるとか……」


「ないよ。これはあくまでチャンスだ。新しい世界で新しい人生のね。その世界で偉業を成そうが魔王を倒そうが、喜ぶのって僕らじゃなくない? その世界に住む人だけでしょ」


 ……やっぱりダメかよ。…………くっそ。


 二度と戻れないという現実に唇を噛みしめる。しかしそれでどうなるということではない。


 ……そうだよな。普通、死んだら蘇ったりはしないよな。なんか神様だから上手いことできんじゃねえかって…………あ。


 そこで気づいた。本当に僅かな可能性。


「あ、アイツって来ました!? あの俺の友達で、最近死んじまった――」


「『ここ』には来てないね。『ここ』を使ったのは、君の前だと二年くらい前だし」


「……あ、そうですか……どうも」


 そうだよな。ここに招かれるのって凄い確率っぽいもんな。知り合いが来てる確率なんて無いに等しいよな……。


「話を進めていい?」


「あ、はい。どうぞ」


「なんか、急に丁寧だね?」


「まあ、立場を理解したというか……色々すいませんでした」


 そりゃそうだろ。俺なんて吹けば飛ぶような存在だろうしな。つーか幽霊やら死ぬやら言われてんのにおざなりな対応する奴とかいねえだろ! よっぽどのアホかサイコだぞ!? よくよく考えれば、取引を持ち掛けるパターンとかも読んだことあるけど無理だろ。多分成功例とか無いしな。それこそ決まりがユルユルで向こうの気が向けばとかぐらい。能力一つって言ってんのにも事情とかあるんだろうし。ここは卑屈だろうと何だろうと頭下げとくべき。


「ふーん? 別にいいよ。気にしてないし。…………それじゃあ選んで! どれも強力だけど君にあった能力を!」


 ブワッと目の前にいくつものカードが広がる。その一つ一つに能力名と能力の中身が記されている。


・不老不死

・剛力無双

・エターナル・ブリザード・セイントソード・タクティクス

・薬湯千寿

・鬼神来々

・縛滅神眼

 ……etc.


 偶にある引っ掛けのような能力を避けつつ、俺は説明を読み込み、カードの一つを掴み取った。



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