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さすらう14



「あはは、待て待てー!」


「きゃあー!」


「捕まっちゃうよ!」


 変態さんの追い掛けっこではない。子供達の鬼ごっこだ。副音声が聞こえてきた人はだいぶヤバいので引きこもることを推奨する。


 穏やかな昼下がり。


 子守の依頼を受けた俺は、子供という名の悪鬼どもを近くの公園に連れてきて遊ばせている。


 半端ない体力、無垢な残虐さ、危険を顧みない行動力、それが子供。


 やってられねえよ。主婦の真似して公園に連れてきたけど、どう考えても休憩時間です。子育ての苦悩が忍ばれる。


「ねー、あそぼ、あしょぼ」


「ごめんなー、あしょぼってよくわからないわー」


 袖をぐいぐい引いてくる子供の頭を撫でて誤魔化す。ここで一緒に遊ぼうものなら、せっかく溜めたカロリーが消えてしまう。


 しかし子供は諦めがつかないのかムームー言ってくる。


 ならば奥の手だ!


「ほーら、おやつを上げよう。みんなと食べてきな」


「やたー! あい、あと。ねー、おやつ、もらった!」


 おやつを抱えながら子供の輪の中に突撃していく子供。ライドだかラードだかの名前だったか覚えていない。


「あっ、青だ! おれ、大好きだ!」


「たべようー」


「おいしーね?」


 ムシリッ、ムシャムシャ。


 子供達がよってたかってはおやつを千切り、口の中に入れて咀嚼していく。


 子供が抱えているおやつ、その正体は、青みがかった半透明でゼリー状の、こういう異世界物では定番のモンスター。


 スライム。


 物によっては強敵として登場するモンスターだが、今は子供達に激しく蹂躙されている。


 スライムは体を食べられても大変大人しく、その甘さとみずみずしさは子供から大人まで大人気なんだとか。きっと愛と勇気が友達なんだろう。ちなみに殺してしまうとバラけて水っぽくなってしまうので、踊り食い推奨らしいよ? やだもう見てられない!


 繁殖方法や生息地域は全て不明。納屋に放り込んでいたら溢れる程分裂していたのに、餌を与えて面倒を見ていても大きくならないという摩訶不思議生物だ。納屋分裂法も確立された訳じゃないそうで。どうでもいいわ。


 某劇場版のように食べていく悪鬼どもをしっかり監視する。夢に見そうだ。あの猛獣どもを世に放たんが為に注力している俺は英雄で間違いない。冒険者というのは非常にやりがいのある仕事です。日給は四千四百円。


 先導者ハンスキンとの依頼はあれっきりない。別に怒られたとかじゃない。逆に「お前には、まだ早かったかもしれん。すまねえ」と謝られたくらいだ。罪悪感すごいわー。


 ぶっちゃけパーセンテージで言えば、百パーセント中の百パーセント俺が悪い。話を聞いてなかった上に迷惑しか掛けてないからね。やめて! 責めないで! 俺のライフはもうゼロよ!


 解体を済ませ、ここが勝負所とゼヒーゼヒー言いながら二体分のサンショウウオを持ち帰った俺に、ハンスキンは五万の報酬を渡してきた。


 ……そんな、俺、なにもやってないのに……。


 失意に顔を歪ませた俺は大人な対応で返した。


「あざまーす!」


 いやほら、契約だから。大人だからしっかり守った。


 ハンスキンはまだ三層は早かったからと、次は蜂蜜を狙って一層にした方がいいとチラ見してきたので無視しておいた。


 もう嫁さんには謝れ。ハチミツは買え。蜂の巣のまま持って帰れば間違いなく悪化するぞ。


 それから一週間は再び子守やら売り子やらの雑用で食いつないでいる。


 正直、甘く切ないファンタジーやチーレムなんてものは存在しない。歳が三十を越えたら使えるという魔法より不確かだ。紛らわしい広告を見つけたら電話してもいいところに報告すべき案件ですね。求む弁護士。訴訟も辞さない。


 微妙に最低賃金が安いので、これなら日本で働いた方がいいレベル。いや想像より暮らし易いけどね?


 物思いに耽っていると、太陽が西の空にゆっくりと沈み始めた。ライドだかラードだかが友達に手を振っている。終業だ。公園マジ公園。神公園。


「ヌラー! かえりょ?」


「その言葉を待っていた」


 飛び込んできたライド(仮)を抱き上げて肩車する。ちなみにヌラーというのは俺のこと。冒険者登録の時にいい名前が思い浮かばなかったので『トンヌラ』にした。選ばなければ自動的にそうなるんだよ。運命なんだよ。


 主人公が早々に奴隷になるゲームなのでピンときた。勢力的にはどちらかと言えばモンスター側なわたくし。


「ヌラー、あした、あした、あしょぼ」


「明日ねぇ……」


 子守じゃ貯金が心許ないんだよな。宿代が五千円なのに儲けが四千四百円。赤字だ。そろそろなんとかしなきゃなあ。あの竜の鱗とか引っ剥がして持って帰ったらダメかな?


 色々と聞きたいこともあるので、菓子折りもって近いうちにダンジョン訪問をしようとは思っているんだが…………あそこまでの道のりが危ないんだよなあ。


 どうもハンスキンが強いので、一定のレベルのモンスターは単独じゃ襲い掛かってこないらしい。道中安全だった理由だ。上級冒険者なのか聞いたら中級冒険者とのこと。今後のインフレのデカさが気になるよ。


 下級冒険者の中でも下級に位置する俺は一人じゃダンジョンに行けない。しかしダンジョンに付いたら単独行動をすることになるので、護衛や依頼を共同で受けてパーティー単位で活動するにも問題がある。


「って、最初の転送位置危ねえな! ダンジョン作るよう圧力掛けてんじゃん!」


「きゃはは! んじゃんー!」


「おい暴れんな! 頭髪の将来まで心配になるわ!」


 とにかく、とにかくだ。


 俺はもう異世界はお腹いっぱいになったので帰りたい。こういう異世界物には帰る方法とかなんらかのご褒美とかあるはずなので、そこをあの羽虫あたりに聞いてみよう。なんなら最終的に神様より強くなるとかまである。<強化>項目がどうとか言ってたからな。……はっ、俺最強伝説の始まりですね?


 当面の方針も決めたので、さっそく餓鬼を家に送りつけると冒険者ギルドに足を伸ばした。


 出来たらダンジョンまでの護衛とか、ダンジョンで解散する、そんな都合のいい依頼がないかと考えながら。



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