さすらう13
「それで? なんだよ、なんの用なんだよ先輩」
はっきり言って目的の方はサッパリです。
背景は大体読めますよね。ダンジョンの中で羽虫が明らかなボス格に主呼びされてんだから。羽虫がダンジョンマスターで。
つーか、階層作成にコンプレックスが出過ぎだろ。なんでどれもこれもデカく作ってんだよ。
それにフェアリーってなんだフェアリーって。プロのメンヘラか。自分をフェアリー化しちゃうところが痛いわ。背丈とか伸ばせなかったのか?
すると、俺の手から顔だけ出ている羽虫が頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。
「…………用…………なに言ってんのよ、あんたに用なんかないわよバカじゃないの? それよりもっかい呼びなさいよ! あたしを今なんて言った? もっかい! ほら、もっかい!」
「おい羽虫」
「きゃあああああああああ!」
思わず手に力が入っちゃったよ。仕方ないね。だって冒険者だもの。メンヘラ(モンスター)を前にしたら自然とね。うん。
俺の行動を見て動き出しそうになった竜に、羽虫を握り締めている手とは逆の手を上げて制す。デカい図体してるくせに少年のようにピュアなハートだな。
「おい、よ〜く見ろ? お前がなにかしたら俺は死ぬぞ。俺の弱さをナメんなよ、ウサギにすら劣る。そしてそんな弱い俺にすら捕まってる『偉大なる主』はどうなる? ハッピーセットだ。もれなく一緒についてくるぞ。な? それにお前にビビってる俺は、お前の一動作一動作にビクッとなってしまうんだが……そしたらどうだ? 入れたくないのに手に力が入っちゃうだろう? それは、ああ、それは誰のせいなんだろうか……。わかったか? わかったら動いてんじゃねえよ爬虫類」
漏らすだろ?
『ぐっ、貴様ぁ……』
「おい間違うなよド低脳。『客人』だ。お前が言ったんだ。ご招待だ。理解したか?」
俺の世界方式による<説得>という魔法で竜を彫像へと変えた俺はマジ竜殺しだろう。全力で冒険者してる。大人しくなった竜にこれ見よがしに羽虫を掲げて見せる。くっくっく。
そんな羽虫はしきりに頷いていた。
「へー、すごいわ! アルがタジタジね! あたしも今度、人間に同じようにやってみようかしら?」
止めろ。
「……あのさー、ほんと用が無いんなら帰っていいかな? こっちも仕事があるから。明日の部屋代と豪華なディナーが掛かってるから」
羽虫を引き戻してお願いする。
人質をとったはいいが帰り方が分からない。現在地も分からない。もう降参だよ。
「ズルい! なによ豪華なディナーって! デザートは出るんでしょうね! まあ、桃の蜂蜜掛けより凄い物なんてないけどね! …………ないでしょ?」
なんだよその不味そうなデザート。食ったことねえから判断できねえよ。なんで少し不安げにこっち見てきてんだよ。
「ないよ」
「やっぱりね!」
脱線しかしねえなこの羽虫。
「……なあ、ぶっちゃけマジでなんで俺を助けたんだよ? 俺も生活があるからさ、のんびり出来ないんだけど?」
もうね、異世界とかチーレムとか置いといてお金なんだわ。そういうの全部あの角ウサギが持ってちゃったから。
「……はっ、そうね。あたしってば、助けたじゃない! これは命の恩人ってことよね? すごいわ! ……すごいかしら?」
「……スゴイスゴイ」
「でしょ! なんか他のマスターとか初めて来たから、びっくりして見てたのよ。そしたら浅い階層で人間とワーム捕り始めたじゃない? なんかワームが必要なんだなぁーって、出現率弄ってワームをたくさん出してあげたの。よくわかんなかったけど……ワームっていっぱいいると気持ち悪いわよね? だからあんまり直視したくなかったから、アルに任せてお昼寝したのよ。でも途中で起こされてアルが『溺れた』とか『負けた』とか難しいこと言い出したから呼んでみたら、あんた死んでるし。せっかく助けてあげたのに死ぬとかバカなんじゃないの? って思ったわ。バカなの?」
死ぬの?
「ちょっと、痛いわよ! 体が締め付けられてる! 痛いわよ!」
「おっと失敬。君のおかげで大量のミミズと格闘することになった俺の感謝の気持ちが溢れ出たようだ」
「ふふん、まあね! まあね! 許してあげるわ!」
じゃあ、えい。
「きゃあああああああ!」
『あ、主ぃ!? こらっ、貴様やめむか! 主が嫌がっておる!』
「だって許すって……」
竜もオロオロ、俺もオロオロ。
「ちょっと、いいかげん離しなさいよ! ……ほんとなんなんですかー? もしかしてあたしのこと好きなんですかー? お断りなので離してくださーい。へんたーい」
「……小さい頃に無意味に生き物を殺すことがあったろ? いま、そんな気分だ……」
「きゃあああああああ! ごめん、ごめんなさい! 潰れちゃうわ! ほんとにペッタンコになっちゃう!」
いやそこは既にペッタンコだ。手遅れだから。人のせいにしないで。
「ふーん、あんたダンジョンマスターやってないんだー」
「まあな」
「それってアリなの? 初めて聞くタイプだわ。でも、だからあんたは他のダンジョンマスターのダンジョンに入れんのね。これって例外を覗けばかなり特殊なことなのよ? あたしも二百年ほどダンジョンマスターやってるけど初めてだわ」
「そうなのかBBA?」
「なによビービーエーって?」
「永き時を生きる者の敬称さ」
「ふふん、まあね! でもどうせなら先輩の方がいいわ。響きがいいと思うの」
いつまでもワタワタとしているわけにもいかず、とりあえず落ち着いて情報交換をすることにした。
「基本的には外には出れないのよ。コアを固定した場所を広げてその中で生活するの。コアを持ったまま移動とか考えつかなかったわ。バカなんじゃないの?」
また手の中に戻りたいのかな? この羽虫は。
胡座をかいて座る俺の頭の上に座るフェアリーとコミュニケーション。字面だけ見ると精神的な病持ちですね。
「なんでバカなんだよ。お前にだけは言われたくねえよ」
「えー、だってコアを引っこ抜くと創造したものが消えちゃうのよ? あんたは最初から固定してないから移動出来るんでしょうけど、普通ならそんなこと勿体なくて出来ないわー。ないわー」
おい、意味変わってっから。いやそれよりも。
「……消えるって、全部? 蜂蜜とかお宝とか? もしかしなくても階層もか?」
なんだそりゃ。冒険に成功しても生き埋めじゃねえか。
「細かいことはわかんないけど、剥ぎ取った部位とかお宝とか階層とかじゃないわ。消えるのはエネルギーね。だってDEでダンジョンを作ってるんだもの。あ、でも<強化>項目は消えるわね。だから誰もやらないんじゃないの?」
ちょっと新しい言葉で埋め尽くさないでくれる? あに? あんだって?
もっと詳しく説明を聞こうとしたところで、背景になっていた竜が語り掛けてくる。
『む、貴様いいのか?』
なんだよ、寂しいのか?
『冒険者であることはわかったが…………であるならば仲間は放っておいてよいのかと聞いている。連れ立ってきた人間が死にかけておるが?』
あ。
「マジで?」
『マジだ』
竜が鼻をクイっと動かすと、俺の足元に泉のような物が広がっていき、その水面にハンスキンが映る。
腰に縄を巻いたハンスキンが川に飛び込み、息も絶え絶えに戻ってくると、釣られてきたサンショウウオとバトり出す。川縁には既に死体となった二体のサンショウウオが。一体増えてるね。
……。
「のんびりしてる場合か!? おい、すぐに戻してくれ! あとあのサンショウウオって引かせられない?」
俺の勢いに釣られたのか、羽虫が慌てて手を動かし出す。
水面に映っていたサンショウウオがピクンと何かに反応すると、刃を持っているハンスキンにまるで注視することなく、背を向けて川へ帰っていく。
同時に俺の目の前に屹立する光の柱。
「そそそそれに入れば大丈夫! たぶん戻れるわ!」
「たぶんについて事細かく突き詰めたいがありがとう! じゃあな!」
「また来るのよね!?」
「流れ次第で」
ダンマスやるきはないからなぁ。
うるさく喚き散らす羽虫を無視して光の柱へ飛び込んだ。




