二人目
これはないよなぁ……。
俺は自室で物思いに耽っていた。
親からの仕送りとバイト代で実現した憧れの一人暮らしも、半年も経つと家事の鬱陶しさに実家が恋しくなってきた今日この頃。自由を楽しむことにも慣れてきたせいか、最初ほどの新鮮味も無くなりつつある。
特に自炊にこだわって色々と購入したのだが、最近じゃ時間に押されてコンビニ生活だ。むしろその方がコスパがいいと思う。スーパーによって三十円安い魚の切り身に喜んでいたのも、今じゃ黒歴史だ。一人暮らししている感だけを求めた行動だったと、今ならわかるよなぁ……。
八畳ワンルームの部屋のベッドに横になり、寝転がって読んでいた本を腹の上に乗せて唸っていた。
考え事は最近出席した葬式。
小学校時代からの腐れ縁、幼なじみ、親友、言い方は色々あるが、ずっと連れだっていた友達を、俺は亡くした。
不思議と、葬式やその後の飲み会では涙が出なかった。ぐでんぐでんに酔っ払って部屋に帰りついて一人になっても、やっぱり涙は出なかった。ひでー奴だと自嘲気味に思ったもんだ。
涙が出たのは一週間と経ってからだった。
バイトの帰りに、外食で済ませようと学生時代によく行ったラーメン屋に、久々行ったんだ。
あれだけ通っていたのに大学に受かってからは一度も足を運んでいなかった。
地元ならではの近道を通った。徒歩じゃなきゃ通れない道。アイツが見つけた道。
その途中にある、公園らしくない公園。
卒業してからまだ半年だ。大した期間じゃない。前は通ってた。いつも一緒に。
遊具のない公園にあるのはトイレだけ。その壁に何気なく目がいく。
『ジーザズって思ってる人優先』
「ぶはっ」
アイツが書いたその落書きを見て、思わず吹き出してしまう。
確か、限界間近で駆け込んだのに使用中だったとか言っていた。
思い出し笑いを噛み殺しながら、思い出の中をアイツの影が過ぎる。
そこかしこに。
どんな時も、ふざけてるようで本気、手を抜いてるようで全力、考えがよく分からない奴だった。
いつしか辺りは暗くなり、笑いをこらえてた筈なのに、嗚咽をこらえて涙を流していた。
悲しかった。
辛かった。
叫びたかった。
そんな筈ねえよ! 馬鹿な事言うんじゃねえよ!
いくつも言葉が浮かんで、ひとつも声に出すことなく消えた。
次の日、大学もバイトも休み、その次の日からまたいつもの忙しさが戻ってきた。
「ほんと……やらかす奴だよなあ」
つい、思いが口を突いて出た。
アイツの死に、気持ちの整理がついて、次に俺が想いを巡らせるのは、もう一人の幼なじみだ。
男二人に女一人の幼なじみ。ここに恋愛が絡めば、見えてくる図形は三角……なのだが。
横恋慕しかない一直線が、俺達の関係だったと言える。
女はアイツが好きで、俺は女が好きで、アイツは何考えてるか分からん。それが俺達の関係。そんな中で、なんとなく分かっていたのは、アイツは告白されてもイエスとは言わないだろうということ。
女もそれを感じとっていたのか、在学中にそれを匂わすことは一切なかった。
だから俺がとった戦法は待つことだった。
女がアイツに振られるなら良し。振られなくとも思い出に変わるまで待てたらまた良し、と考えていた。卑怯で結構。ほぼ負け戦だったのだから、これぐらいは見逃してほしい。
アピールしつつアイツより想われるポジションを得るために、同じ大学の同じ学部に入った。めっちゃ勉強頑張ったから親は喜んだ。
アイツは進学志望が九割超えてる高校なのに就職希望だった。女は驚いていたが、俺は慣れていた。またコイツは……。
フラっといなくなるのが趣味としか思えないほど何処かに行く奴だったので、そのうち海外とか国内でも端の方とかに行って帰ってこなくなるんじゃないかとか考えたこともあった。
しかし予想を遥かに超えて、二度と会えなくなってしまった。
これは予想外も予想外。
今、女を慰めるのは卑怯過ぎる、弱みに漬け込んだ行為だとも思うのだが、アイツはいなくなってしまったのだから、誰に遠慮するというのか。
……って、そんな訳ないよなぁ。女の気持ちも知っていたのだ。ここで気持ちを明かすというのも、もっと考えろと罵られる行為だよなぁ。
未消化の気持ちばかり溜まっていって、体が重くなった気がする。単に寝不足だ。
今、告白する。これはダメだ、馬鹿か。
慰める。……ギリギリアウトだろ。下心無しならいけた。
励ます。慰めるとどう違うか分からん。
時間を置く。妥当。でも無理。不自然さパねぇ。意識し過ぎ。
アイツの思い出話を肴に飲む。号泣案件。シュレッダー行きです。
「ああああああもう。普通でいいか? いつも通り……………………出来るわけねぇ……」
後悔が渦巻く。
高校時代にしっかり気持ちを伝えておけば、もし彼女になってくれてたら、振られていたら下心なく――――モヤモヤとした気持ちばかりが積み重なっていく。
「……喉乾いたな」
起き上がって冷蔵庫を覗くも中身は空。財布を掴み、部屋着のまま外に出ていく。
この部屋のいいところはコンビニまでの近さだろう。道路を挟んで向かい側。歩いて五分。自炊するからと不満を表して、かあちゃんゴメン。凄く助かってます。
アパートの階段を降りて信号の前で止まる。
赤信号をぼーっと見ながら青になるのを待つ。
頭の中は、これから女に会った時の対応を幾通りと並べていく。
「……アイツの話しないのも変だよな…………いやでもわざわざ触れるのも…………でも……」
ブツブツと考えながらも信号が青になる。俺は歩き出す。
信号を渡り終えた所で、甲高い金属音が聞こえてきた。
そしてテンプレへ




