さすらう12
ヒロイン登場回。
期待して!
「バカなんじゃない?」
「これを待ってた!」
目を覚ますと、俺の顔を覗き込んでいる美少女がいた。
緑色の不思議な光沢の瞳に桜色の唇。透き通るような白い肌と流れるような金髪。まだ未成熟ながらも色香を漂わせる絶世の美貌は、今は眉を片方上げ片方下げ蔑んだようになっているが、そんな顔も可愛い。
「き! た! ぜ! お! れ! の! じ……だ……いぃ……」
体を起こすと同時にテンションを上げていったのだが、全貌が明らかになると急落。どこかのゲームみたい。
「な、なによ!」
「…………………………ち、小さい……だと…………!?」
「ち、ちちち小さくないわよ! ちちち小さいわけないじゃないバカ!!」
いや小さいよ。手のひらサイズだよ。小人だよ。借り暮らしだよ。…………ああ……。
俺は悔しさを隠すように大地に伏した。
「……あああ、あああああああ! ああああああああああああああああああ――――――!」
「な、なに!? どどどうしたのよ? なんなのよ!?」
「あああああああああああ、あーっあああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「どどどどうしよ!? な、なにが!? えとえと! どっか痛いの!? ねえ!?」
「あ、お構いなく」
「なんなのよ!!」
隠しきれなかった俺の悔恨です。チーレムへの未練です。
プリプリと怒りを全身で表現しているこの小人の背中には、透明な羽が二対備わっている。
フェアリー。
童話によく出てくる妖精は、今はビシビシと俺のオデコを叩いている。
鬱陶しいな。
「えい」
「きゃあああああああああ! ……って、なにすんのよ! 離しなさいよ!」
掴めるかと思って掴んでみると掴めた。が……。
「小さいな」
「ちちち小さくないわよ!? どこ見て言ってんのよ!?」
フェアリーの腕は俺の手の外に出ているので、胴体部をガッシリ掴んでいるのだが、感触はない。フェアリーは肩紐のない黒いワンピースのような服を腰に巻きつけている黒い帯で着ているが、厚さはない。どこという部位の指定なんかはないが……。
感触はゼロである。
「ふ、ふざ、ふざけんじゃないわよあんた! 誰があんたを助けたと思ってんのよ! ち、小さくないわよ! バカなんじゃないの!?」
「ふざけてなんかない。真剣に小さい」
「ぶっ殺すわ!」
「痛っ! バカ噛むなよ!? 殺すんなら痛くないように殺れよ!」
指に噛みついているこの羽虫をどうにか取れないかと奮闘していると、顔に影が掛かった。
『常昼』の階層じゃなかったっけ? 雲かな? と空を仰げば、そこには――――――。
『偉大なる主。戯れもその辺りで。客人が困っておる』
「はっ、そうよ! アル、ブレスよ! このバカをブレスで消し炭にしなさい!」
『偉大なる主。偉大なる主も消し炭になってしまうのだが……』
見上げるばかりの巨体。何十階建てのビルがせまってくるような圧迫感。
淡い光を身に纏った竜が、そこにいた。
「せーざよ、せーざして! 立場よ! そうなの! わかるでしょ?」
分かるかい。
とりあえず、せーざせーざと囀る羽虫はよく分かってないようなので、胡座をかいた。
「ふふん! ようやく立場がわかったようね! 次は謝って! その後殺して……話はそれからよ! あと感謝して! 感謝よ!」
「偉大なる主。ひとまずは――――」
「きゃあああああああああ!」
巨体を誇る竜が喋り出すと、その息は凄く、俺でも体を煽られるぐらいなので、手のひらサイズのフェアリーなど一溜まりもない。
彼方まで飛んでいってしまった。
ちなみにこの階層は見渡す限りの草原だ。木が全く生えてないので、三層じゃなさそうだ。
俺が足を伸ばしてのんびりと周りを見渡していると、涙目の羽虫が帰ってきた。
オロオロとしていた竜もホッとしている。しかし身じろぎする度に凄い怖いので動かないでほしい。
「バカなんじゃないの! いつも言ってるじゃない、念話で喋れってぇ! 覚えなさいよ! 覚えるのよ! わかる!?」
『し、しかし主――』
「あ、また『偉大なる』って忘れたわね! バカよ! バカね? このバカ竜! あたしは偉いのよ! もう怒ったわ! 怒ったのよ!」
今度は失態を犯すまいと一ミリ足りとも動かなくなった竜だったが、動揺は激しく伝わってきた。
羽虫の方は竜の目の前をブンブンと飛び回っていたのだが、何かが怒りの琴線に触れたらしく、突撃を敢行。
竜の眉間の辺りに突き刺さったように見えたが……弾かれたのか、ヒューと落ちてきた。
『あ、主!?』
竜が慌てているが、自分が動けば事態がより酷くなると理解しているのか羽虫の落下を見つめている。
そんな羽虫をナイスキャッチ。
分かり易く目を回した羽虫のおデコが赤くなったいた。……頭からいったのか。
胸をなで下ろすような心情が伝わってきた竜と羽虫が目覚めるのを待つ。
今の内に事情通っぽい竜に説明をと求めたが、
『説明は偉大なる主が直々に行うと……。我は主命に従うのみ』
と、先程命令違反をなじられてた竜が厳かに告げてきた。
だが正直、本題までめちゃくちゃ遠回りしそうな予感がある。ぶっちゃけ主従揃ってバカだ。どうしよう。帰りたい。
大体の話の流れ的に背景は見えるよ。しかし目的はサッパリだ。しかも目の前の竜には勝てそうな気配がまるでない。ゼロだ。まるじゃん。
……めんどくせえなあ……。もうハーレム要員イベントでもなんでもないのでサッサと済ませて帰りたい。蘇ったからか眠気も醒めた。しかしこのバカコンビのペースに合わせていたら一日とか掛かりそうなんだよな……。
渋い表情で手のひらの上で寝る羽虫を待っていると、
「……う〜ん……」
と口走りながら羽虫が体を起こした。
その表情はどこかボケーッとしていて焦点が合ってない。
「…………あと……半日…」
「起きろニート」
「いたああああああい! なにすんのよ!」
『主!?』
おい。また怒られるぞ。
再び寝ようとする羽虫をデコピンにより強制起床させる。
すると、額を抑えてプリプリと怒り出した羽虫が喚き立てる。
「あんたレディを殴るとかどうなの!? バカなんじゃないの! あっ、そうよバカ竜! 思い出したわ!」
「思いだすな。バカのくせに」
飛び立とうとする羽虫を捕まえる。
「なにすんのよ! 離しなさいよ!」
耳がキーンってなる声だな。
「オケ、わかった。謝る。ごめん。感謝する。ありがとう。もういいか? お前、なんか他に俺に用があるか?」
こいつのペースに持ち込まれちゃダメだ。無限ループだよ。脱出不可。だからある程度こっちで話を進めないと。
俺のフリに、ようやく羽虫が本題を切り出してくる。若干どや顔で。
「あっ、ふふん。そうよ! そうなのでした! 聞いて驚きなさい! なんとあたしは! 「ダンジョンマスターなんだろ?」ダン……なんで先に言うのよ!?」
いや、わからいでか。
ちっちゃくないよ!
大好きです。なにか?




