さすらう11
一層、花畑。
二層、泉。
三層、川。
このダンジョンの特徴を述べるとこうなる。出てくるモンスターは一種類。下の階層に行くほど木々の割合が増える。三層はほとんど森なので、特徴は森と言うべきなのでは、と川を見るまで思っていました。
「……広い、広いよ」
「あんま川縁に近づくなよ。見た目より流れが速ぇからな」
ちょっとした海なのでは? と疑問になるほど川幅が広い。向こう岸が少ししか見えない。
このダンジョンを作った奴はあれだ、少しおかしい。
「……スケールデカくしなきゃ気がすまないのかよ」
一層ごとの割合がデカいため、階層攻略がすげー楽なんだけど。歩くだけ。
バカなのかな。
バカなんだな。
「ここら辺だな……」
俺が川を見ながら呆れている間に、ハンスキンは川縁に近づきすぎないようにしながら、河原の大きめの石を捲っていた。
何かいたのか、しゃがみこんだハンスキンは石があった辺りに手を突っ込み、ズルッと引っ張り出した。
「うえっ、なんすかそれ……」
「ワームだ。荷物からピンを出してくれ」
「うーっす」
出てきたのは蛇よりも太いミミズ。ハンスキンから逃れようと身体をクネクネと動かしている。
予備の武器だと思っていた先が尖った木製のピンを渡すと、ハンスキンは川縁にミミズを縫い止め出した。
「……なにしてるんすかね? 昆虫採集?」
残酷だな冒険者。子供と同じレベル。
「んなわけねえだろ。釣りだよ釣り。こうやってワームを川縁に刺しとくと、お目当てのモンスターが食べに上がってくんだよ」
おっと、そうでしたか。今まで一層ごとに一種類のモンスターしかいなかったので、ワームを狩るのかと……。
「もう何匹か晒すからよ。お前もやってくれ」
「え゛」
マジかよ。バイトの時に店内でリバースした客の後始末頼まれた気分だよ。殺せばいいのかな?
他のミミズを探しに行ったハンスキンを真似て、適当な石を捲って見ると……いた。
握り拳大の頭部が見えた。ピンク色の顔には目が無く、威嚇するようにカパッと歯の無い口が開く。
「……」
そっと石を戻した。
エイリヤンだよ。なんかああいうのが腹を突き破って出てくる映画を見たことあるよ。
いなかった。
俺は何も見てない。
そう思って振り返ると、いい笑顔のハンスキンが中腰で見下ろしてきていた。
俺も笑顔を返した。互いに笑顔だというのに、なんで世界は平和にならないんだろうか。
夜半過ぎ。
十数匹のワームがのたうち回るという地獄絵図の川縁から少し離れ、木を背に休憩となった。
「……目標をセンターに入れてスイッチ…………目標をセンターに……」
「お前はいつまでブツブツ言ってんだ? ワームにさわれねえとか、マジでどこの出身なんだお前?」
「だって、まだ手に感触が残ってるんだ……確かに生きてたのに! ほのかな暖かさが! 耳に残る(鳴き)声が! 頭じゃ分かっているはずなのに……体が、魂が! 受け入れないって叫んでるんだ!」
「……ワームの話だよな?」
他に何かありますか?
ハンスキンが食事にすると言ったので、冷たい水にレモンを絞った飲み物と食パンを食べた。
干し肉とかカチカチのパンとかじゃないんですねと言ったら、何層まで潜るつもりだったんだよ……と言われた。それに日持ちしないのから食べるのは常識だとか。どこのだよ。
いい感じに腹も膨れ、目の前の地獄絵図を見ないためにと目を閉じれば、自然と眠くなってくるのも仕方のないこと。
うつらうつらとしているにも関わらず、在学中に編み出したスキル『寝ていても悟られない』が発動したため、ハンスキンはこれからの手筈の説明を始める。
「いいか? 今からワームに釣られてやってくるのは竜種だ」
「…はい」
「つっても、反応は鈍い上に特別硬いわけでもねえがな。しかも食い意地が張ってるからよ、食事中は身動きとらねーんだ。気をつけるのは尻尾ぐらいだな。ワームを口に含んでたら口も開かねえからよ、なんなら正面の方が安全なくらいだ」
「…はい」
「だから俺がまず尻尾を斬る。で、お前は傷口から出る血をビンに集めて欲しい」
「…はい」
「まあ竜種つっても端に引っかかってるような亜種だからよ。気張らずに、尻尾が切れたら突っ込んでこいや。問題は食事が終わるまでに倒しきれるかどうかってとこなんだが、今日はワームがめちゃくちゃ取れたから余裕だろ」
「…はい」
「このワーム漁な、本来なら二、三匹しか見つからなくてなあ。状態異常になるブレスやら千切れかけの尻尾やらに苦戦すっからよ。パーティーで挑むのが普通――――」
そこからは校長先生の至言ばりに頭に入れた。とても心地よく響いていた。
「来やがった!」
ハンスキンの鋭い声で一瞬目が覚める。
監視している風を装っていた視線の先には、ミミズに食らいつく、体長五メートルほどのオオサンショウウオがいた。
しかし目が覚めたのは一瞬。
もはやデカいのがデフォルトのダンジョンだったので、驚くこともなくなっていた。
「よし、準備だ」
「うす」
眠気に耐えながらも、ぼんやりとやることを思い出していた。
えーと、確か。一度やったことはメモ書いて覚える、じゃなくて、えーと、……油の温度は百八十を超えてからー……ああいやいや、冒険者だった。さっき、ハンスキンが、あー、ビンを抱えて突っ込む。
「おし、食い始め――――はっ? おい!? 待て!」
荷物の中にあった一抱えもあるビンを抱えて走り出す。走ってる間は目を閉じてもいいだろうか……あー眠い。
えーと、ツッコミ。なんでやねーんとかでいい?
少しばかり残った理性が、正面からでなくオオサンショウウオの横っ腹を突撃するコースを選んだ。
「バッカ、そこはヤバい! 回れ、もう少し回り込め! 前だ!」
ああ、前ね。えー、前、前?
とりあえず聞こえてきた声にギリギリで起動修正。
尻尾の付け根の方へ走る。
「バッ、ちが、止まれ!」
…………あん?
何か違うんじゃないかと足を止めたのだが、少し遅かったらしく。
オオサンショウウオのクリクリとした瞳が俺を捉えていた。
直後に激しい衝撃と浮遊感が俺を襲い、何メートルと川の方に飛ばされてしまった。
「ば、バカやろう!?」
落下中に、ハンスキンが何か喚いているのが聞こえた。
分かってるって。
「なんでやねーん」
仕事を果たしてサムズアップした俺をハンスキンは微妙な表情で見ていた。




