卒業演目当日
いよいよ1章の後半に入ってきましたが、今回はギャグが多いです。
早朝に響く空砲の音。ドォォーン、ドォォーンという豪快な音にピスたちはびっくりして慌てて部屋をとびだすと2階の廊下に3人とも鉢合わせすることになった。
今日はいよいよ卒業演目当日だ。さきほどの眠気をすべて吹き払うような大砲の音はそれを知らせる音で、過去2度経験している三人でもいまだに心臓に悪いくらいには聞きなれていない。3人は食堂でマーサとエリザとともに朝食をとった後は、部屋に戻って最後の荷物確認をした。といっても持っていく者は3人それぞれの「剣」だけなので確認は一瞬で済む。いつもより早めに外へ出ると、街の景色は一変していた。
まず目に入ったのは街の至る所にある飾りつけだった。学生が作ったであろう紙の輪っかが連なったものがかわいらしい。ただそう思えるくらい他の装飾の数も半端ではなかった。街の石壁に備え付けられた生花に、文字通り「石壁から生えている」小さなかわいらしい木々。なかにはヤドリギといった本来クリスマス―― 一見、クリスマスなんて異世界に存在しないかと思われるがそんなことはない、キリスト教自体はないものの、クリスマスのサンタクロース伝説はこの世界でもちゃんと存在している――で飾り付けるものだが、もはや見栄えが良ければ何でもいいようだ。
そして常時空から降ってくる紙ふぶき。これは誰かが魔法で一時的に作り出しているもののようだ。地面を見ると落ちた紙吹雪が地面に触れた瞬間に消えている。そしてなお地面を見てみると、今度は絵や文字がこれでもかというくらいに書き連ねられている。街の施設がどこにあるのか矢印で誘導している。これは街の外から来る訪問者のためのものだろう。今日のスケジュールや演目参加者のプロフィールやデフォルメされたイラストすら描かれている。
「お、おいピス……」
やけに真剣な声でソドがピスを小突いてくる。
「な、なんさソド」
「いいから、あれ見ろって」
そうして、ソドが街の一角をさす。そこには3人の同級生の1人のプロフィールが描かれていた。
「あれって、ミーニャのプロフィールじゃないか。へぇ、あんなにでかでかと書かれてるんだ。こりゃ俺たちのもどっかにあるかもしれないね」
「ちがう、そうじゃない。いいからその内容を読んでみろ」
「なんだよ、そんなに真剣になっちゃって。ええとどれどれ、学歴、成績、得意な魔法、それに選んだ「剣」、そしてなんか数字がかかれてるな。78/59/79……ってソド!?」
「ああ、気づいたかピス。端っこに目立たないようにだが女子のスリーサイズが書かれている!」
さっきから、2人ともヒソヒソ声でしゃべっている。もちろんウィザに聞かれないようにするためだが、周りから見ればちょっと幼い立派な不審者である。
「すごいよソド! これ街の端から端まで見れば全女子のスリーサイズをコンプリートできるじゃないか! これ書いたやつ天才だよ!」
「だろ? しかもだ。全女子ということは……」
その意図を察したのか、ピスをハッとした顔をして恐る恐るウィザの顔を盗み見た。
「そういうことだ。今まで一度も教えてくれなかったウィザのスリーサイズを知ることができる!」
「今まで教えてよって言っても、流されるか、殴られるか、拘束魔法かけられて1晩放置のどれかだったからね。千載一遇のチャンスだよ!」
なんだか、2人のキャラが崩壊しているような気もするが、それは気のせいだ。いくら普段純粋そうに見える15歳のエルフの少年たちでも、男として健全であることは間違いないのだ。そういう興味には事欠かない。
「よし、じゃあ2人で探しに行こうぜ! ピス、分身魔法でダミー作ってうまくウィザの目から逃れよう」
「俺もそれやりたいとおもったけど、ソドそれ完全に忘れてる。俺は戦闘の時ぐらいしか魔法を使えない」
そう、ピスの「殺人衝動」はいくらピスの能力を無限に上昇させてくれるとはいえ、そんな便利な代物じゃない。日常の魔法くらいはなんとか使えるなんていう都合の良いものではないのだ。こんなイベントなら真っ先に使いそうだが、使ったら最後無理やりピスが自身の「衝動」を抑え込んだ後昏倒するか、街中が大惨事になるかのどちらかなのだ。喧嘩に仕えるわけでも、この間のように喧嘩の仲裁に入ることすらできない。だからこそピスたちはこれの克服に躍起になっているのだ。
そうはいってもこれは切実な問題だ。ピスが使えないとなるとソドが魔法を使うしかないが、ソドは依然と同じく魔法が苦手だ。この間のワットとの野良試合では、試合中一切魔法を使わずに10分間魔力を貯め続けてようやく発動できた分身魔法だったが、とても10分も魔法に長けたウィザの目を盗んでいることはできない。そんなことをしようとすれば者の10秒でなにを発動しようとしているのか、体から発せられる微量な魔力で特定されてしまう。しかも今回作るのは自身の分身と、作ったことがないピスの分身もやらなくてはならない。とても歩きながら、時間を稼ぎながらできるものではなかった。
「そうだよな。俺もできるわけじゃないし。どうしよう……」
「よし、ここは単純に囮作戦でいこう」
「囮作戦?」
「ああ、俺たちのどちらかがウィザに、片方がトイレに行ったとかなんか言ってごまかし続けるんだ。そのあいだに単独行動のもう片方は街中を走り回ってウィザのプロフィールを探す。分身魔法で2人とも探せる状況よりも効率は悪いけど、安全ではある」
「それだ、そのアイデアでいこう、ピス」
「よし、じゃあ早速どちらかが囮になるかじゃんけんで決めよう」
「よし来た!」
そうして2人ともほんの少しだけ離れて、片手を前に突き出した。しかし2人の間に1っ匹の小さな虫がいることに気が付いた。
「ん? なんだこれ。見たことない虫がいるぞ」
「なんか変な色してる。真っ青なモスキート? なんか変だな……」
と首をかしげていると二人とも同じ結論に至ったようで顔を見合わせると、急いでウィザの方に振り返る。するとウィザは視界に入った瞬間に消えた。
ヒュンという音が後方でする。2人とも恐ろしくて振り向く勇気がなかったが、勇気をかき集めてかろうじて再度後ろを振り向いた。
物陰に誰かが立っている。いや暗くて良く見えなくてもシルエットで分かった。フードのついたローブをまとい、右手には短い槍が握られている。物陰から2人の方へ人影が近寄ってくる。すると近づいてくるたびに刃のついた方から別の刃が伸びてくる。ウィザが2人に近づききった時にはまがまがしいほど巨大な刃のついた大鎌になっていた。ピスと訓練を行った時にピスが使っていた鋼鉄魔法だ。でもその時とことなり、より刃が巨大化されていて戦闘向きというよりは見たものを畏怖させる凶悪な雰囲気を放っていた。
持っているウィザはこんな状況なのに笑顔である。この時ばかりはこの笑顔がかわいいと思うよりも恐怖していた2人だった。
「へぇ、私をほったらかしにして、2人で何かこそこそ話してると思ったらそんなこと話し合ってたんだね」
「ええぇと、ウィザ、もしかして使っていたのは……」
ソドが恐る恐るという風に聞いた。
「ええ、そうよ。盗聴魔法。2人にはまだ見せていなかったけど、虫を魔法で作り出して聴覚を共有するの」
なんでそんな魔法を覚えたのと、聞きたい2人だったが笑顔が怖すぎて聞き出せなかった。
「さて二人とも覚悟はいい?」
そういって返事も聞かずに、ウィザは大鎌となった短槍を2人の脇腹めがけて豪快に横なぎにした。あたったと思った二人はそこで意識が途切れた。後で聞いたところによると、ウィザは意識切断魔法を使ったらしい。刃に魔法をかけることによって物を切ったりすることはできなくなるものの。切った面積に応じた時間相手の意識を奪うことのできる護身用の魔法だ。とはいえ2人とも胴を真っ二つに切られたので、意識が戻ったのは開会式の直前、現実の時間でいうとたっぷり1時間ほどであったという。意識を失った二人はウィザの浮遊魔法で演習場まで運ばれたそうだ。
もちろん二人はこの日ウィザのスリーサイズを知ることができなかったのだった。




