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魔導書

朝、ピスはスズメの鳴き声で目を覚ました(この世界にはちゃんと鳥や馬など現実に存在する生物も存在する)。

ソドとワットの決闘から早くも2週間がたち、術練学校の卒業までいよいよ一週間に迫っていた。昨日までの3日間は一旦生まれ故郷であるルツボ村に帰省し、両親に今後のことについて話に行った。フィロス先生に提案されたことを話すと、3人の両親はすこし驚いた顔をしたが、すぐに許可を出してくれた。

ベッドから起き身支度をしてから部屋を出る。ドアを開けてソドとウィザの部屋を見ると全く同じタイミングでドアが開いた。珍しく3人とも同時に起きたらしい。

「「「おはよう」」」

3人の声が重なる。3人同時に起きてもそれぞれの顔つきは違う。ピスはいつもこの時間に起きるので変わらないとして、ソドはいつもよりも疲れているようだ。朝日に輝く金髪はいつものようにシャキッとたっているものの顔はどことなく黒い。もしかしたら昨日遅くまで勉強をしていたのかもしれない。一方ウィザは朝はかなり弱い方なのでこの時間帯に起き出したのはかなり珍しい。だが、早く起きれても朝に弱いのは変わらないのでまだ半分寝ているような様子だ。緑の髪に櫛をまだ入れていないのか髪に乱れがあった。もっともボサボサといった感じではなく一房、二房がちょこんと出ているだけなのでこれはこれでそそられるものがある。目は半分閉じていて、服も寝巻のままだった。

「珍しいな、ウィザがこんなに早く起きるなんて」

ソドも、ピスと同じことを想ったらしい。

「そうだね……今日は……」

ウィザは何かを言おうとしたようだが、眠気の方が勝ったらしく次の言葉がそれきり出てこなかった。とりあえず3人は階下に降りながらしゃべる

「ソドはなんか疲れてるな」

「あぁ、魔法の総復習してたんだ。なんとか卒業演目に魔法を取り入れられないかとおもってさ」

「最初は剣舞をするんじゃなかったっけ?」

「今でもそのつもりなんだけど、剣舞の中に炎魔法とかあったらかっこいいじゃん? だからそのためによさそうな魔法を探してた」

「なるほど」

そうして3人は階段を下りて右に曲がり食堂にたどり着いた。

「おはよう、3人とも。珍しいね3人一緒に降りてくるなんて」

「「「おはようございます」」」

マーサのあいさつに3人とも返事をした。しかしウィザだけ少し遅れている。まだ寝ぼけているらしい。

「おはようございます、みなさん」

3人の前にいきなり小さな人影が現れる。姿はゴブリンやドワーフといった背丈の低い種族の比ではなく、30cmほどしかない。この下宿の下働きに来ているピクシーのエリザだ。

「おはようございます、エリザさん」

いつもだったらこういう場面には率先してウィザが返事をするが、いまだに完全に目覚める気配はない。代わりにピスが返事をした。

「はい、おはようございます。みなさんの朝食はもうできてますよ。さぁ座ってください」

そうエリザに促されて、3人は席に着いた。テーブルを見るとパンとシチュー、そして朝一番にとってきっと思われる野菜のサラダが置かれていた。

「「「いただきます」」」

あまり変わり映えのしない料理ではあるのだが、3人はマーサを作るものを毎回楽しみにしている。いつも同じように見えて毎回、香辛料などの配合の割合を変えるのか毎回毎回味が違うのだ。このシチューにしても前に食べた時は、肉には鳥が入っていてそれに合うよう黒コショウや白菜が入っていたのだが、今日のには豚肉が入っている。それに加え今日は独特な香りがする。八角だ。トンポーロ―などに使われる中華食材、八角が使われていた。かなり珍しい味付けだったが不思議とシチューになじんでいた。

「「「御馳走様でした」」」

3人は食べ終わるとゆっくりと学校へ行く支度を始める。今日は誰も寝坊していないのでそんなに急がなくても大丈夫なのだ。


学校の教室へ着くと3人はそれぞれ席に着いた。1教室当たりには30人ほど、それが1学年当たり4クラスほどある。ピスとウィザがそれぞれ一番前の両端、ソドが真ん中の一番後ろだった。

席についてから少し経つとフィロス先生が教室に入ってきた

「授業をはじめますよ。みんな席についてください」

そういわれ、別の席へ行って話し込んでいた学生は各々の席へ戻っていく。静かにするように言われるでもなく、教室は静かになった。

「さて、卒業も間近に迫ってきたので今日は魔法の総復習をします。「トルクの書」の284ページを開いてください。さてそこには賢者トルクが体系化した魔法の一覧が載っています。それを」

と、ここでフィロス先生が言葉を区切ると、樹の杖を取り出した。それを1振りすると今見ていた書物の見開きのページが真っ白になった。フィロス先生の消失魔法だ。とは言ってもいつまでも消えたままではない。一時的なタイプで時間の経過で消えた文字が戻ってくるようになっている

「私に指された人が、順番に魔法の名前とその説明をしてください。それではまず端っこのピスから。あ、指された人は立って説明してね」

はい、とピスは立ち上がる。

「魔導書を編纂した賢者は、この世界にある魔法を各々の分け方によってわけました。トルクの場合は基本属性魔法と補助属性魔法にわけました。基本属性魔法とは炎、水、土、風の4種類。補助属性魔法は干渉、位置、付加、連鎖の4種類です」

「よろしい。それでは隣のクラップ、炎属性魔法についての説明を」

わかりましたと、隣にすわっていたケットシ―種のクラップが立ち上がり、かわりにピスが席に座る。魔導書をみるとピスの言った部分だけが元に戻っていた。

この世界にはピスが言っていたように魔法にはさまざまな分け方がある。500年前に編纂されたこのトルクの書はまだ単純な方だったが、最新の魔導書なんかだと500種類ちかくの分類がなされていて学者は楽かもしれないが生徒からしたらたまったものではなかった。ちなみに属性魔法のみはほとんどの魔導書で炎、水、土、風の4つで共通している。なかにはこれに加えて金属や雷、数字や混沌といったものを基本属性にしているものもあったりするがあくまでマイナーな魔道書であって、この世界ではこの4つが魔法の基本であることは常識だった。

ここの干渉という魔法は物理的に世界に干渉する魔法の類をさす。たとえば、暴走するピスを抑えるためウィザが使う拘束魔法であったり、またフィロス先生がやっていたように世界からなにかを消すことも干渉魔法の1つである。

なにはともあれ魔導書は、4つの基本属性と、それ以外の副属性というのが分類の基本でそれさえ頭に入っていれば、それほど難しいものではない。あとは魔導書を作った人とその魔導書の特徴を覚えれば簡単だ。……実際はそこが一番難しいのだが、ソド、ピス、ウィザの3人は何とかそれをこなして成績優秀者となっていた。



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